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Chapter6 ③

すっかりおとなしくなった〈騎士〉を経由して、レイ君の状態を確かめる。

脈拍正常。

脳波安定、睡眠状態へ移行。

全身の筋繊維の修復は約三時間で完了。

んでもってニカお嬢による電気ショックの魔法(?)による神経、臓器、骨格への影響なし。


「ふぅ、どうやら眠ったみたいだね…………あのさ、お嬢?」


「反省してますの」

シュンとなったニカお嬢が頭を下げる。

危なくレイ君をフライドチキンにするところだったんだから、反省ぐらいしてくれなきゃ割に合わない。


「魔法だかなんだか知らないけど、電気ショックは筋肉痛には効かない。

 てか逆効果だから、悪化するから、そこんとこオッケー?」


「ごめんなさいですの……」


「ボクにあやまらないの。

 レイ君が起きたらそっちにあやまってにゃはっ!?」


そのときいきなり、誰かの指がボクこと夢幻のカルネヴァル、その光学的代行構造体オプティカルアバターたる光る球体に触れようとした。


「にゃにをするかっ!」


とっさにそれを逃れてみれば、不思議そうに指を伸ばしていたのはあのにっくき爆乳メイドのシンディだ。

にゃろう、さっきまでレイ君の周りでバタバタしてやがったのにいつの間に。


「あ、ごめんなさい。触ったら柔らかそうだったのでつい」


舌を出して笑ったところで、あやまる気ゼロっぽいぞ牛乳女め。


「あのさぁ、光ってるって事はそこにエネルギーがあるって事だって気づけよ!

 触ってたら指なくなってるからね!」


「またわけのわからんことを……

 少しの戯れぐらいゆるそうとは思わんのか?」


しかめっ面で手をパタパタさせ、しれっとそっぽ向きながら文句たれてくるアデル。

ボクもうこいつ大ッ嫌い。

服で締めてるけど胸が明らかにでかいし、態度もでかいし口うるさいしで最悪だ。


「こっちは親切でちゅーこくしてやってんの!

 あーもう、とにかくボクに触んないでね。

 怪我するからね!」


またしても指を伸ばすメイドに怒鳴りつつ、ボクは三人から距離を取って立つ……

あ、アバターだから浮かぶの方か。

ともかく、ボクはスイッとアバターを旋回させ、三人の視線をこっちに集めた。


「ハイ注目、ちょっとみんなに聞きたいことがあるんだ。

 三年前のことについてなんだけど」


「貴様に話す道理などない」


ボクの言葉をぶっちしてアデル野郎が吐き捨てる。

その態度にカチンと来て、ボクはアデルに歩み寄る(じゃないね、飛び寄る? でもないなぁ)と言葉を強める。


「何それひどくない? なんでそんなツンツンしちゃうわけ?」


「そっちこそ、よくまぁ神を名乗っておいてそこまで無遠慮になれるものだな」


「神さまって遠慮深いものでしたっけ?」


「……シンディ、そこで茶々を入れんでくれ」


間に入ったシンディを押しのけるアデルに、ボクは眼前までアバターを寄せて話をせがむ。


「そーだよ、神さまだって知りたいことはあるんだよー、話せよー」


「ちょっと、よろしいですの?」


後ろから割り込んできたのはニカお嬢だ。お嬢は頬に指を当ててアバターを見る。


「カルネ様はどうして三年前のことが知りたいですの?」


「お嬢なら話しがわかるかも。

 実はさっきまで、ボクはレイ君の封印された記憶の中にいたんだけど、ほら、記憶って主観的でしょ?

 レイ君に何が起こったかはわかったけど、周りの事情とかが――」


「待て、貴様いま、レイの身に何が起こったか知っていると言ったか?」


予想外の方向からアデルが食いついてきた。

変に思ったけど、なんか真剣な目をしてるので取り合わないわけにはいかない。


「言ったけど、それが何か?」


「教えろ」


スパッとそう言って、褐色女軍人はサーベルに手をかける。


「おーこわいこわい。

 教えてもいいけどそっちも教えて?

 じゃないと話さないし、あとその刀じゃボク切れないよ。

 だから交換でどう?」


「ぐむっ……」


口ごもるアデルを置いて、シンディがいつになく真剣な顔でうなずく。


「私はそれでいいかと。

 アデル様、事の顛末を知るまたとない機会です。

 レイ様はあの性格ですから、話してくれるとは限りません」


「しかしシンディ、レイはともかくこいつが真実を話すとは限らん」


「ではアデル様、嘘をつくと思うのはなぜですか?」


「それは……」


「形はどうあれ、カルネさんは今日までレイ様をちゃんと守ってくださいました。

 そんな律儀な方が、この期に及んで我々に嘘をつくはずがありますか?」


鋭い目つきに冷静な意見。

このメイド、ただのエロくてデカい不思議ちゃんってわけじゃないみたい。

アデルは口の中でなんかモゴモゴ言ってたけど、しまいに「お前に口で勝てるものか」と言い捨てて、しーぶしぶと首を縦に振った。


「わかった、交換しよう。

 だがまずニカ殿下には戻ってもらわんと、我が国の国事に関わる」


「その心配は無用ですの」


アデルの言葉に、ニカお嬢はキッパリと答える。


「三年前となれば〈黒い霧事変〉の事ですのね?

 ……そんなにびっくりしないでくださいですの。

 私はとっくの昔にレイ兄さまから聞いてますの」


「レイ! このおしゃべり王子!」


中指と青筋を立ててアデルがレイ君を呪うけど、横ではシンディが「私知ってました」と笑いながらヒザを打つ。

一人だけ蚊帳の外だったのね、この人。

なんだかアデルちゃんがかわいそうになってきた。


ともあれ心配事は吹き飛んだみたいで、アデルは深く深ーくため息をつくと、事のあらましを語りだす。


「それは〈黒の霧事変〉と呼ばれている。

 三年前の初夏、四日間にわたる騒動だった――」



島国であるプリダインは四方を海に囲まれている。

そして、それは西の海からやってきた。

黒い霧だ。

高さは山より高く、幅は一つの地方を楽に飲み込めるほど。

霧は三日の間に海から陸へとじわじわと近づき、近づく船を片っ端から沈めていった。


信じられない話だが、生存者によると霧から真っ黒の化け物が出てきて船を襲ったらしい。

もちろん我が国の水軍(海軍)とて例外ではない。

霧の正体を確かめようとした軍船は、一隻たりとも帰ってこなかった。


あまりの異常さに恐れをなした水軍が浮き足だって混乱し、それを収めようと姫殿下と王子殿下、つまりレイとその姉リリィが直々に指揮を執ろうと西へ向かった。

それが三日目の晩のことだ。


そして四日目、我が国を悲劇が襲った。

霧が突如としてふくれ上がり、西部地方、カムリの地を飲み込んだのだ。


霧に飲まれて帰ってこれたのはただ一人。


そう、レイだ。

あいつだけが戻ってこれたんだ。

全身を血で濡らし、半分壊れた馬車に一人乗って。姉の遺品を手に。


あいつは全てを忘れていた。


レイが帰ってくるのと時を同じくして、天に流星の雨が降り、霧の前進は止まった。

あの忌々しい霧は、今もなお西部、カムリ地方の半分を覆ったまま留まっている。



「――我々が知るのはここまでだ。

 レイが全てを忘れ去っていたから、霧がなぜ止まったのか、リリィがどうなったのか、それを我々は知らない。

 あとはわかるな?」


「なるほど、次はボクの番というわけだね」


アデルの促しに、ボクは光をまたたかせて同意を示すと、簡潔にレイ君の記憶で見た全てを伝える。


そうしてボクが語り終えた時、なぜかアデルの頬を涙が伝った。


「そうか……あれは、レイを濡らしたのは……

 リリィの血では……なかったのか」


「アデル様……よかったですね」


そのままうつむいて震えるアデルを、シンディが横から抱きしめる。

二人はボクにはわからない事情で泣き崩れた。

伝わってくる感情の波には悲しみよりも安堵が強い。


これは暖かい涙だ。


二人ともリリィ王女が死んだことは納得していた?

ふん、それはあるだろうけど、それだと安堵の意味がよくわからない。

人間の感情って難しいなぁ。


「という、ことは……リリィ王女は死んでない可能性もあるですのね」


途中から生々しい話に口を押さえていたニカお嬢は、望みの光を探すように目をこっちに向ける。


「レイ君は直接死ぬところは見なかったみたいだよ。

 でも……あ、いや水を差すつもりじゃないんだけど、機装クライティに握られて生きてるかどうか、しょーじき怪しいよ?」

 

「機装――ということはカルネ様は、プリダインを襲った黒い霧が、〈邪神たち〉と関係があると見ているのですの?」


「バッチリそう見てますとも。

 レイ君の記憶が真実なら、霧から現れた化け物は間違いなく機装だよ。

 それも昼間みたいなチンケな奴じゃなくてもっと大物。

 おそらく〈巨人級戦闘機装タイターノ・クラッソ〉、動く小山みたいなシロモノだよ」


「小山みたいな、大物ですの……」


聞いたニカお嬢が緊張にツバを飲むが、こっちは手があったなら頭抱えてのたうち回りたい気持ちだ。

この世界に機装があるだけでも厄介なのに、相手に〈巨人級戦闘機装タイターノ・クラッソ〉まであるとなればもう最悪のシュチュエーション。

だって全高8メートル越えの殺戮兵器ですよ?

この世界の、中世ヨーロッパに毛が生えたような武器じゃ間違っても太刀打ちできないっしょ。せいぜい踏まれてプチッぐらいが関の山だよ。


『やっぱり、急いで〈ヴンダーヴァッシェ〉を使えるようにしないと』


「〈ヴンダーヴァッシェ〉?」


ニカお嬢が興味津々の目でこっちを見る。

あれ? いまボク、独り言を音声に出してたっけ?

っと、そんなことを考えるより、聞いてしまった以上はお嬢に説明しないと。


「ボクがこの世界に持ち込んだ機装の名前だよ」


「強いんですの?」


「そこらの〈巨人級戦闘機装タイタノ・クラッソ〉より強力だよ。

 なんせボクら、〈想神族ヴァーンネロ〉のために特別に作られたモノ、〈銀装騎ぎんそうき〉だからね。

 機装の一つ二つなら鼻息ポンッ! だよ。

 ただし今はまだ使えない。ボクが本来の身体に戻らないとダメだ……」


「なら、善は急げだ」


涙を袖でぬぐいながら、アデルが不敵な笑みを浮かべてこっちを見る。

寄り添っていたシンディも、拳を握って力強い顔をする。


「明日の朝にでも、皆でカルネさんの身体を探しに行きましょう。

 一刻もはやく力を戻してさし上げるために!

 あ、ついでにレイ様のことも、ね?」


あわてて付け足したシンディを、ニカとアデルが呆れ笑いでからかった。


「レイのことはついでか?」「さすがメイド、主人は二の次ですの」


「そ、そんなつもりじゃ……」


そんな感じでじゃれ合う三人から、ボクはふっとレイ君に目を移す。


「よかったねレイ君。

 キミはいい仲間に恵まれた」


静かに眠る可愛い少年に、ボクは少しだけうらやましい気持ちになる。

けど、それはまた別の話。

今日のところは語らないけど……いいよね?

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