表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/91

Beginning ~一夜の幻~

挿絵(By みてみん)


この物語はファンタジーですが、若干の空想科学が含まれています。


またコスプレ、ひみつ道具、変身ヒーロー、巨大ロボットなどの要素がかなり強く、剣と魔法のファンタジーとはちょっと以上にかけ離れています。ご了承を。


RPG風90年代アニメ(ワタル、リューナイト、グランゾート等)を見て育った作者が、その雰囲気で書きました。

もし気に入っていただければ、幸いと存じます。

「コスプレ?」


僕は寝椅子ソファーに横になった彼女の髪を、銀の御髪おぐしくしけずりながら言葉を繰り返した。


「聞いた事ないよ」


「うん、言ったことないもん。

 あ、そこもーちょっとてーねーにやってね。

 神経通ってるから」


銀と白の羽衣はごろもを揺らして、彼女は僕の手をそっと誘導する。


頼めばシンディだってやってくれるだろうに、近ごろ彼女は僕に髪を手入れさせる。

僕の手が気持ちいいとか言っちゃって。

付き合う僕も僕だけど。


「異世界の服遊びだよ、コスプレ。

 いろんな服を着て、お姫様とか英雄とか、怪物なんかになりきって遊ぶんだよ。

 ボクの力って、案外そういうのと一緒なんだよね」


「仮装行列みたいなもの?」


「ううん、そーいうのじゃないかなぁ……あっ、いまのすきぃ」


くしいいところ(・・・・・)を通ったのだろうか、彼女が艶めかしい声で鳴く。


うん、これが反応に困るんだ。

こっちはまじめに手入れしてるのに、しょっちゅう「うにゅぅ……」とか「にゃはぁ」とか鳴くんだもん。


僕はこれでも(・・・・)真っ当な男なんだから、少しは考えてくれたっていいじゃないか。


「えへへぇ……しあわせぇ。

 あ、レイ君赤くなってかわいい。ね、もうちょっとしてよぉ」


「もうここまで、あとはシンディに頼みなよ」


「けちぃ。……レイ君やっぱり意地悪だ」


人ならざるエメラルドの瞳が、僕を非難がましく見つめる。


……取り合わないよ。

いつものことだし。これ以上はどうあっても隠せそうにないし。


「これ以上鳴かれると……だし、ぼ、僕はもう寝るからね」


「にゃ? 何がどうなの?

 そんな女の子みたいな格好して、何がどうなっちゃうのかな?」


「女の子って、これを着せたのはカルネじゃないかぁ!」


僕は立ち上がった拍子に、努めて目を背けていた鏡台を見てしまった。


ラベンダー色のドレスを着た少女が、ストロベリーブロンドの髪を垂らしてこちらを睨んでいる。頬はうっすら上気し、スカイブルーの瞳には涙がにじんでいる。


いや、それが僕自身の姿だ。


男の。

十七歳の。


レイ・アルプソークの姿に他ならない。


「だってレイ君()くの下手なんだもん。〈それ〉を着たら誰でも上手になれるんだからさ」


「だからってこんな姿ないよぉ…………ひゃっ!」


鏡の中の少女に銀髪の小柄な少女が抱きつく。

着ていた羽衣はいつの間にか消え、鏡の向こうでは白い背中がロウソクの炎を受けて妖しく揺れる。


目を落とすわけにはいかない。

だっていま下見たら、その……裸だし……いやでも意識せざるを得ない。


「にゅふふふふぅ。

 いいじゃんか、キミとボクの仲なんだし」


「ど、どの仲?」


「〈女神〉と〈御使い〉の仲に決まってるじゃないか。

 さーてぇ、レイ君のお荷物はどこかなぁ」


怪しげに笑って、銀髪の女神は緊張にこわばる僕の素肌に手を滑らせる。


「ちょ、やめ――どこに手を入れてっ! だめだって、カルネェ……」


やめろと言うつもりで口を開け、でも次には必死に声を抑える。

間違ってもこんな姿、隣の部屋の二人に見せられない。


そう思って唇を噛んだ、まさにそのときだ。


「レイ、カルネ入るぞ。明日の馬車なんだがっ?」


褐色肌の女軍人が部屋のドアを何気なく開き、そこで固まった。

彼女は絡みあう僕らを上から下まで眺めたあと、すぐに怒りの目を飛ばす。

その矛先は僕ではなく銀髪の女神だ。


「なに、して、くれてるんだ貴様ァ!」


「なにって…………ナニ?」


「だろうな!

 やはり異界の女神など信用できん、今すぐこの場で叩き切ってやる!」


「おー、やる気なのアデルちゃん?

 でもそんなヘボ刀でボクを切れるの?」


「言わせておけば下郎が! うちの王子殿下(わかだんな)にそんな格好を――」


「どんな格好なんです、アデル様?」


女軍人の背後から、堂々たる背丈のメイドが部屋をのぞく。


ああ、来てしまったか……


「わ、っわわっ、れ、レイ様……すっごくお似合いです!」


長身のメイドは女軍人を突き飛ばして部屋に乱入。

ただでさえ気まずい姿勢と服装の僕を後ろから抱きしめ、頭に容赦なく立派な胸を押し当ててくる。


「んーあいくるしいですぅ。ね、このまま一緒に寝ましょうレイ様。

 私一度でいいからそういう事(・・・・・)をしてみたかったんですよぉ」


「ど、どういう事ですかねシンディさん?」


「ダメダメ、レイ君はボクとソファーで寝るんだから。

 ほら、でっかいのは寂しいベッドに帰った帰った」


「ま、いくらカルネさんでも聞き捨てなりませんよ。

 こうなればレイ様をかけて勝負です!」


「方法は?」


「もちろんレイ様に決まってます!」


「よし乗った!」


いつから僕の名前は決闘の種目名になった? などと思う間もなく、前は全裸のカルネから、後ろは豊満なシンディからズンズンと手が伸び、僕の身体を上から下からまさぐってくる。


「やめてぇぇ、そこ、だめだってふたりとも……

 ……あぁれぇぇぇぇっ!」


僕が悲鳴を上げ、蹴り転がされたアデルがふてくされた顔で息をつく。

僕の声が下に漏れたのか、そこに宿の支配人が階段を上ってきた。


「お客さんがた、あんまり騒がしくせんでくれんかのぉ……」


部屋の中には組んずほぐれつの美少女三人(?)。

それをゆるんだ顔で眺める褐色肌のスラッとした軍人の図。

名状しがたい光景に、しかし太った支配人は急に訳知り顔をすると、無言でアデルに親指を立てる。

そしていい笑顔でそっとドアを閉め、軽やかな足どりで去っていった。


これはあれだ。

若干二名ほど、性別を取り違えられたな……


僕は明日も寝不足になると悟りつつ、悲鳴にそっとため息を忍ばせるのだった。



 ***



これは出会いの日々の物語の幕間劇。

おそらく、僕らが最も幸せだったころの一夜の幻。


全ては夜に始まり、そしてまだ旅は続く。


さあ、しばしあの夜に想いを馳せようか。


僕と女神が出会う物語に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
おもしろいと思ったらここをクリック!
ランキングに協力をお願いいたします。
(別ページに飛ぶので注意)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ