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第一話「プロローグ」

001


 誰が僕の文章を読んでくれるのだろうか。

 そう思う。

 こうして筆を執って、遺書のような日記を付けてみたはいいけれど、しかし読む人間がいないのであれば、あまり面白くない。

 文章は人に読ませるためにある。それが文章の存在意義だ。そう思う。

 そうやって語ったところで、僕の話を聞いた華々(はるか)さんは、

「でも、日記は人に見せるために付ける物ではないと思う」

 この人のいう事は確かだと思った。しかし、ただの日記であれば、じゃあ誰も読まなくていい。ただ、これは遺書のような日記である。ただの日記ではない。誰にも読まれないと言う側面を持つが、読まれるためにあるという側面も、また持つのだ。

 という事は、誰かに見せるつもりで書いていかないと、本当に日記のように書いてしまえば、誰も読みさえしないだろう。

 だから、ここでの僕は日記の所持者であり、そして語り部なのだ。

 この文章の世界において、僕は主人公。

 だから好きなように日々を記すし、好きなように語ろうと思う。

 少なくとも、ここに嘘はなしだ。

 叙述トリックなどという、人の勘違いを突くような手法は一切使わない(と言いながらも使ってしまうのが僕であるのだが、その時点では嘘つきだと断定しないでほしい。叙述トリックを使わないと言っている事を忘れているだけなのだ。そもそも、叙述トリックを使えるほど、僕に文法スキルはないと思われる)。勘違いや誤解を正さないのは、嘘をついているのと同じだと僕は考える。

 そんなわけで、しかし、なぜ僕が日記を付けようと決心したのか。あるいは、遺書を執筆しようとしているのか。

 という疑問を解消せねばなるまい。読者諸氏の君たちにとってそれほど問題では無いかもしれないが、これは僕が語りたいと言う我儘だった。聞いてくれ。


002


 日付は三月十四日。まだまだ寒い日だった。真冬に比べれば暖かい方なのだろうが、僕の中で十五度を下回る気温は全て寒いという事になっている。十五度から二十五度までは気持ちのいい気温。二十五度以上が暑い。誰が何と言おうが、少なくとも僕はそういう価値観で生きてきた。体感温度は知らん。記録が全てだ。

 三月十四日と言えば、この間、大きな震災から何年目だ、などという特番で僕の大好きなTVショーは埋め尽くされていたし、多分、百年経っても、数年前に万という命を奪ったこの震災は忘れられないんじゃないかと僕は思う。読者諸氏の中に未来人、あるいは、僕のこの文章が百年後の誰かに届いていたら、教えて欲しいものだと思う。その頃、日本で延命技術が発展していたら、僕は多分、ギリギリ存命していると思う。

 そんなわけで、十四日。何もない日である。平日だった。僕はいつも通り中学生で、中学一年生で、いつも通りの放課後を過ごしていた。

 つまり居残り勉強をさせられていたのだった。

 これが僕の日常。

 体育の成績はクラス内トップだ。どの種目でも僕に勝る強者はいない。そしてその他の教科の成績もクラス内トップ・・・・・・そんな成績ならば、僕は最高の中学ライフを過ごしていたであろう。

 恐らく最下位。

 それが僕の、学年全体で行われるテストの順位だった。正確には百二十一位。学年全体が何人いるのか把握していないが、僕のクラスが三十人ぴったり。そして四クラスある為、大体百二十人が一学年の総数なのではないかと踏んでいる。その中で、百二十一位。多分、最下位だ。体育のテストがあれば、もう少し上位を狙えたのだが…………。

 そうして、その実績を父と母に報告したら、父には怒鳴られ、母には笑われた。

「お前は最近たるみ過ぎだ!!」

 と、父。

「かっかっか!」

 と、母。

 家族は他に姉もいたが、僕は姉とそんなに会話をしなかった。今にしてそう思う。当時はそれが普通だと思っていたが、なんか、もっとコミュニケーションは取れたはずなのである。もう会えないので、そこは心惜しいと思う。何故会えないのかはあとで説明するにしても、だから、僕は恐らく最下位だったという話だ。

 つまりは、僕は勉強が全くできない馬鹿だったのである。

 何故かは分からない。授業も分からない。

 小学生の時も成績は悪かったが、中学生になり、それが、順位を決められることにより、顕著に現れた形になる。

 だから僕はここ最近、毎日のように居残り勉強をさせられているのだ。父の要望(命令)で放課後の二時間は一人で淡々と課題をこなし、分からない所があったらたまに見回りに来る先生に訊く。そういう生活をしていた。

 僕は馬鹿だから仕方ない。頑張って居残ろう。

 そう考えていた。勉強が嫌だとか、そう言う感情は不思議となかった。勉強は分からないから嫌いとかではなくて、分からなすぎてもう興味もなくなっていたのだと思う。毎日する課題も、意欲が全くないが為に、あまり学力には影響していなかったのではなかろうか。そんなことはまあ、どうでもいい。これが伏線になるとかではなくて、ただの自己紹介に過ぎない。

 初めまして、僕の名前は空地大地あきちだいち。十三歳の男で、ただの馬鹿です。よろしくね!

 と言う事を言いたいのであった。

 そんな訳で、事は、居残り勉強を無事に終え、帰路に付いた午後六時少し過ぎに発生した。

 眩暈がしたのだ。あ、お風呂上がりになる奴だ。と思った記憶が強い。僕はそのまま地面に突っ伏した。これもお風呂上がりになる奴だという記憶しかないが、どうやって自分が立っているのか分からなくなるのだ。思考が停止する。ふわあっとして、地面に倒れる。倒れた時も、顔面を思い切り地面に叩きつけたと思うが、痛みは一切ない。お風呂上がり、洗面所で転倒した時も痛みはなかった。それを思い出しながら、意識は一瞬で消えた。


003


 次に目覚めた時は、僕は女子に見下ろされていた。

 横たわる僕を、立って見ている女の子がいたのである。

 僕は今まで自分がアホ面で寝ていたという事に気づき、恥ずかしくなって素早く上体を起こした。その行動に僕を見ていた女の子は驚き、そのリアクションで僕も驚いた。

「…………」

「ここは、どこですか?」

 黙って僕を凝視する女の子に、苦し紛れでそんな事を聞いた。僕は静寂が苦手である。人と対面したときなんかは特に。だから、咄嗟にそんな質問を投げかけた。

「知りません」

 と、女の子は答える。

 僕は視野だけで世界を捉え、そして知らない場所だと認識したのであったため、女の子の返答を経て、じっくりと周りを見渡す事にした。本当にどこだここ。再び女の子を見る。制服姿で、身長は僕と同じくらいだ。

 そして、周りには大勢の人がいた。

 大勢。数えきれないくらいの人数。

 実際に数えきれはしない。通勤ラッシュの電車の車内かのような込み具合で、その地面で僕は横たわっていた。超邪魔である。踏まれなかっただけ感謝せねば。

 立ち上がり、そして周りを見る。周りには老若男女、様々な年齢の人がおり、お祭り騒ぎだった。

 しかし、ここは凄く白いな。

 そう思った。天井が高く真っ白で、電灯は見当たらないが、眩しかった。

 通勤ラッシュ並の込み具合だとは言え、前後左右の様子も多少はうかがえる。壁は物凄く遠くに感じられ、やはり眩しい。

 白い空間。

 そう言い表す事しか出来ない、そう言う空間に、何人もの人は詰め込まれていた。何百人? 何千? 何万?

「うわあ、凄いな」

 と、女の子に言う。誰も僕にリアクションを取る者がおらず、僕の事を見ていたのがその女の子しかいなかったのだ。名前は分からないし、顔も初めてみたが、目の下の隈が印象的な女の子だった。顔色も悪いし、今にも死にそうな表情をしていた。そんな女の子に声を掛けたが、

「…………そうですね」

 と、反応が薄い。この人込みでは酔いもするだろうな。そう思って、

「大丈夫ですか?」

 とか、

「なんでしょうねえこれ。夢?」

 とか。とにかく、その女の子を安心させたくて、話しかけ続けていた。

 そうして数分が経った時だ。

「ようこそ、仮想空間『地球儀』へ」

 と、声が響いた。周りの人たちが一斉に騒ぎ出す。周りを見てもスピーカーなどは見当たらない。どこから声がしているのか分からない。ヘッドホンから声が出ているかのように思えた。

「この音声は、皆様の脳内に直接放送しています。脳に害はありませんので、リラックスしてお聞きください」

「こんな状況でリラックスできるかこのボケぇ!」

 ナイスツッコミだ、ガラの悪いおじさん。

 そんな風に思いながら、耳をふさいでみた。

「それでは皆様『地球儀』での概要を説明をさせていただきます」


004


 耳をふさいでも声がはっきり聞こえるのだから、この時、事態が只事ではない事を知る。

 知る、という表現もおかしい。起きた時にこの空間にいた時点で、只事ではないことくらい認識できたはずだが、しかし人間、現実逃避もしてしまうものだ。まだ夢うつつだったのかもしれない。しかし、この機械的な女性のアナウンスを聞く事によって、やっと目が覚めた。

「『地球儀』では、皆様を実験体とし、ある特定の生物の討伐を目的とした、マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲームを楽しんでいただこうと考えています」

 ゲームをあまりしない僕にとっても、RPGという言葉は聞き覚えのある単語だった。なので理解することは難しくなくなった。しかしMMORPGという単語自体は珍しいと感じる。なのになんだ? 妙に納得できるこの感覚は。

「そして皆様、当然、仮想空間『地球儀』にはストーリーが存在し、そのストーリーをクリアしていくことが目的となるのですが、簡単に説明する事柄がいくつかあります。まず、プレイヤー同士の戦闘は可能です。主に傷害や殺害が可能とされており、救助も可能となっております。しかしフレンドメンバー、パーティメンバーの戦闘は不可能で、フレンドメンバー、パーティメンバーの攻撃は、プレイヤーの体に突破不可能なバリアーが張られ、どの様な攻撃も効きません」

 アナウンサーが説明している間、周りはとてつもなく騒がしくなり、悲鳴を上げる者、怒鳴る者、泣く者、乱闘騒ぎを起こす者が辺りをごった返していた。しかし、このアナウンスだけははっきりと耳に届く。

 気付いたら、僕は隣にいた女の子の腕をつかんでいた。気付いた時に離そうとしたが、女の子の方も全く抵抗をしていなかったので、そのまま握る事にした。

「フレンドメンバーは何人でも制限がなく契約する事が出来ます。しかし、パーティメンバーの契約には制限があります。パーティメンバーは四人までとさせていただいております。そしてパーティに加入される手続きといたしましては、フレンドならば誰とでもパーティになれます。パーティとパーティで結束し、ギルド、クランを結成することもいいでしょう。しかし『地球儀』にはギルド、クランなどと言う制度はありません。が、皆様のコミュニケーション一つでそのような同盟を作る事自体は可能でございます。そしてマップはいつでもどこでも確認が出来、フレンドメンバーとパーティメンバーはマップ上に表示されます。空中に出る画面をタップすれば誰がどこにいるのか、すぐさま確認できるでしょう。そしてその空中に出る画面ですが、それを出すのには何の操作もいりません。考えれば出現させる事が出来、操作が可能です」

 しかし、どんどん訳が分からなくなるアナウンサーの説明だが、言ってることは分からなくとも、理解出来てしまうのが不思議であった。まず、最初の説明でも気づいた事であるのだが、いつもの僕であれば、フレンドとパーティの違いや、空中に出現する画面の事などがいまいちよく分からなかったと思うのだが、それがすんなり理解できるのだから、なんだこれはと思う。感覚での話だが、ここまで現実離れをさせられているのだ、誰でも理解出来るように、無理矢理仕組まれているのではないだろうか……。

「武器は四種類あります。まずは日本刀。槍や薙刀も日本刀の種類に含まれます。また、『地球儀』の世界観では日本刀が主なメイン武器です。そしてまだ日本刀の中にも種類はありますが、それは後々個人でご確認してください。そしてハンマー。これは片手で収まる物から、二メートルもする巨大な物までが揃っております。次にランス。槍と盾を使う武器でこれに種類はありません。そして弓になります。この四種類ですね。そして、そしてこの武器は、ただ普通に使える訳ではありません。プレイヤー一人一人に魔法属性が付属し、武器に魔法を宿して戦う事が可能です。魔法の能力種ですが、これは本当に無限大とは言わずとも、様々な種類があり、ここで説明するには時間がかかり過ぎてしまうので割愛させていただきます。そうして戦う事で、RPGのストーリーをクリアしていってください。ちなみに、能力はその人の性格がほとんどで決定されます」

 次々と説明が進んでいくが、僕に分からない事はなかった。そう言う風になる仕組みなのだとここで完全に納得した。何となく、日本刀を使ってみたいなあなんても考えていた。個人的にかっこいいと思う。ただ、隣にいる女の子に、そんな呑気な事を言えば絶対に変な奴だと思われる可能性がある為、黙っていた。変に怖がる演技とかはしなかった。普通に恐怖は感じている。

「概要は以上になります。細かいルールや設定、ストーリーは現地で村人にでも聞いてください」

 なんかここに来て説明がだれてきたと思った。村人にでもってなんだよ。イライラする所はそこではないだろうが、しかしもう、状況に理解が追いつかず、なのに今ここで説明された事は納得出来て、本当にパニックになりそうだ。周りの大人や同い年の人は既にパニックになっている。

「それでは説明が終わりましたので、普通ならば転生が始まりますが、しかしまだ転生は始まりません、ここではボーナスタイムが発生します。今から三分という制限時間を設定し、誰かとフレンドになる機会が設けられています。では、今から三秒後にそのボーナスタイムが始まります。さん、にい、いち」

第一話、完。

第二話に続く。

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