勇者の休息(早速ですが)
木陰で勇者と僧侶が雨を避けている。
「雨、やまないね。」
「そうだな。早めに宿屋に行って休もう。」
「それがさ・・・。」
「どうした、勇者?」
「お金がない。」
「え? 今週はたくさんモンスターを倒したろ? あれで得たお金は?」
「ちょっと『投資』に使っちゃって。手元には全然ない。」
「お前、勇者なんだから、財テクに励むなよ・・・。」
「今回の投資先は固いんだよ。」
「聞きたくないんだけど・・・。」
「食用養殖スライムの繁殖牧場。」
「騙されてるよ! 完璧に騙されてるよ、お前!」
「だってスライムの繁殖力ってすごいじゃん、絶対に儲かるよ。ネズミ算式の比じゃないよ! パンフレット見る?」
「見るか! 根本的に間違えてるよ! お前、スライムを食べたいか?」
「うーん・・・。酢味噌で和えてほしいかな。」
「お前みたいな特殊な食への嗜好を持ってる人間が、世の中にどのくらいの数、いると思ってんだよ?」
「あれ、みんな、そうなの?」
「そろそろ自身が変態だということを自覚しろ!」
「・・・やっぱり、愛玩用スライム繁殖牧場に投資をしたほうが、」
「一緒だ! ほとんど一緒だ! だいたいがお前、スライムを飼いたいか?」
「犬の着ぐるみを着せれば、かわいいじゃん。」
「なら最初から犬を飼え! 何でスライムを経由しないといけないんだよ!」
「世間に一匹しかいない犬種。」
「だから犬種じゃねーんだよ! スライムなんだから。」
「じゃあ、しょうがない。そこらの家のタンスから、タンス貯金を回収してくる!」
「勇者よ、前々から気にはなっていたんだが、それはやめた方がよくないか?」
「何でよ? これは勇者に与えられた正当な権利なんだから。」
「権利?」
「うん。国から与えられてるの。やっていいって権利を。」
「国も黙認してる?」
「でも入手した金額の内、3割を国に上納しないといけないんだよね。」
「国もグルなのか!」
「まあ、税金の一種ってことで。『勇者税』みたいな。」
「やだよ! そんな直接税。しかもお前の気持ち一つだろ。」
「徴収する金額は、気分次第だね。今日はがっつり奪うよ!」
「がっつりやるな! でもあくまでも自己申告だろ? きちんと正確な数字を国に報告してるのか?」
「俺はしてない!」
「言い切るなよ!」
「真面目にやってる勇者もいるとは思うけど、あくまでも少数派だね。」
「みんな、そうなのか?」
「・・・そういや『勇者会』って飲み会があるんだけど。」
「そこには勇者ばっかり、集まるのか?」
「定期的に開催してるんだけど、だいたい2ヶ月に1回くらい。結構な数が集まるね。」
「結構、開催頻度が高いな。」
「みんな、暇なんだよ。」
「積極的にモンスターと戦え! 勇者なんだから。」
「そこでいろいろと相談してね。みんなで口裏を合わせるの。いくらくらいなら、着服してもばれないかとか。」
「だから合わせんな! 平和のことをまず考えろ。」
「でもタンス貯金って一番、経済を停滞させる理由なんだよ。」
「???」
「市場で流通してこそ、貨幣は価値を持つんだから。投資は積極的にしたほうがいいって。」
「お前、自分の失敗を無理やり正当化しようとしてんな?」
「正当化じゃないよ。俺がやったのは正当な投資だから。その内、大きな利益を産むよ。」
「産まない。絶対に産まない・・・。パーティーのみんなにこの事実を伝えてくる。」
「いいの?」
「何がだよ?」
「君がかつて所属していた宗教組織を隠れ蓑に、大規模なマネーロンダリングを繰り返していた証拠を掴んでいるよ。証人もいるし。」
「・・・!」
「お互い、黙ってたほうが、結果的に幸せじゃない?」
「・・・わかった。」
「そうそう。長いものには巻かれないと。」
「悪魔と取引をした気分だ・・・。」
「悪魔だなんて、ひどい言い方。俺は勇者なのに。」
「問題は肩書じゃない、その中身の人間性のほうだ!」




