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冒険の旅が始まる

川べりで足先を水に浸しながら、勇者と戦士が日なたぼっこをしている。


「何かさ、魔物がいっぱいいる割には、世の中って平和じゃない?」

「そうか? 今まで、そういう風に考えたことはないが。」

「お前はいいよな~、戦士なんだもん。身体だけバカみたいに鍛えてればいいんだから。頭が空っぽでも。」

「勇者よ、・・・お前は俺のことを、そういうイメージで捉えてたのか?」

「いや。もうちょっと普段はひどいイメージで。もう人間としての最低レベルで!」

「どういうこと?」

「あっ、ゴメン。この間、お前の盾を道具屋に売っ払ったのは、俺だ。」

「何でいきなり懺悔? 俺についてのイメージの話は?」


「いや~。俺もまさかさ、お前の盾を売ったすぐ後に、あんなトゲばっかりのモンスター軍団と戦うとは思わなくって。」

「・・・おかげさまで、全身血まみれになったがな。」

「あれは凄かった! やっぱり人間の心臓ってすごいね。あんなに高い位置まで、血を噴き上げるんだから。」

「何に感心してるんだ! お前は!」

「モンスターって緑色の血のせいか、意外と血が出ないからさ、何か『殺った』実感が沸きにくいんだよね~。」

「サイコ野郎め・・・。 しかし何で、俺の盾を勝手に売ったんだ?」

「いや。武器屋にかっこいい鎧が出てたんだけど、手持ちの金が足りなくって。」

「お前! 俺を犠牲にして、自分だけ防御力を上げたのか?」

「防御力は今までの鎧と一緒。ただただ、かっこいいだけ。」

「そこは節約しろ! 俺の盾なんか売らずに、いつものお前の得意技で金を稼げばいいのに。」

「得意技? ああ、あの『勇者という立派な肩書を利用して、純粋な村の娘さんをたぶらかし、都会の夜のお店に沈める』っていう、」

「お前、そんなことをしてたのか! それで本当に勇者なのか?」

「がっつり勇者です。国から認定も受けてます。」


「認定制? 勇者って。」

「君の戦士とは位が違うんだよね。登録制にしておかないと、みんながどんどん名乗り始めて、『勇者ブランド』が失墜しちゃうから。」

「上から見下しやがって・・・。」

「ちなみにさっき言いかけた、俺の得意技って何? あっちかな? 『戦闘中、頑張って戦ってるオーラを出してるけど、オーラを出しているだけで実際には何もしてない、そして戦闘が終了した後は、戦士の血を体につけて戦った感じをセルフプロデュース』っていう、」

「それのどこが『勇ましき者』なんだ!」

「しょうがないだろ! 認定されちゃったんだから。」

「どうやって?」

「俺の場合は、」

「ちょっと待て! 俺の場合はってことは、ひょっとして色んなパターンがあるのか?」

「らしいよ。正確には『150種の認定方法』があるんだって。」

「そんなに?」

「うん。『勇者初心者講習』のときのテキストに載ってた。」

「初心者講習って・・・。」

「だいたいみんな、勇者10級からスタート。」

「級? 級で測れるもんなの、勇者って?」

「それで色々とモンスターを倒したり、宝物を見つけたり、地方政治で市民を幸せにすると、どんどん級が上がっていくわけ。」

「地方政治は勇者の仕事じゃないだろ! モンスターと戦え!」

「ほらみんながみんな、それぞれのやり方で。オンリーワンを目指して、鋭意努力しているから。」

「で、お前は何級なんだ?」

「その質問にはノーコメント。」

「答えろよ!」


「でも、現在の勇者協会の理事長、実際にはスライムの一匹も倒したことがないらしいよ。」

「一匹も!?」

「うん。どちらかというと内政が得意で、特に勇者の固定給のベースアップを、世界の王族と交渉したのが一番の功績。」

「給与? 勇者って固定給なの?」

「ああ。基本、固定給だね。あとは出来高払い。」

「出来高払い! 毎年、何かしら契約をしてるってこと?」

「そうだよ。」

「俺たちは、モンスターを倒して入手した金で生活してるじゃないか・・・。」

「それは勇者とそれ以外のジョブの違いだよ、当然じゃん。こっちは国家資格なんだから。」

「ムカッ。それじゃ、お前はどうやって勇者に認定されたんだよ。」

「えぇとね・・・何だったっけ?」

「お前の人生の輝かしいスタートを忘れるな!」


「思い出した! 『伝説の剣』を引き抜くっていう。」

「おお! 何だ、勇者らしいじゃないか。」

「俺の順番のときに、たまたま剣の根元に謎のスイッチがあるのを発見してさ、引き抜く前に。」

「???」

「そのスイッチを押したら、いとも簡単に剣が抜けちゃって。」

「・・・ただのラッキーだろ、それ!」

「違うよ。ただの力自慢は力だけで剣を抜こうとして失敗してたけど、賢い俺は敵のカラクリに気付いたんだから。」

「何て口が達者な!」

「だからこそ、ダサい村娘を高値で夜のお店に売れるんだけどね。」

「今すぐやめろ! その商売は他のがんばってる全国の勇者さん達に悪いから。」





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