第41戦:約束したの忘れたの?
憂鬱の大罪人、水竜 哀 SV 憂鬱の罪、未来
「っ?!」
光が晴れ、目を開けるとそこは明るい空間。床は白いノート紙のようで様々な言葉や絵が描かれている。
「やっと来たネ」
その声に憂鬱の罪、未来は振り返る。そこにいたのは大罪人である哀。“覚醒”をしていた。だが今の彼女にとって哀は敵でしかなかった。
「待っててくれたの?殺されるのを?」
「アレ〜?そうなっちゃウ?」
哀は頭をかくと、薙刀を持つ。そしてその切っ先を未来に向ける。
「マァ、いっか。ミクが覚えてくれてるなら!」
そう言って未来に向かって走り込む。未来も手に薙刀を持つと哀の攻撃を防ぐため、構える。
「覚えてるって何?」
笑っていない瞳で首を傾げる未来。ガキンッと薙刀同士がぶつかり合う。ブンッと哀が薙刀を振り切ると未来はそれを空中で一回転し、後方に着地した。そして、悲しそうな瞳で未来を見ると言う。
「そっか…思い出させてあげるネ?」
クスリと笑って未来が大きく跳躍し、頭上から哀に薙刀を振り回す。哀はそれを回避し、薙刀を突き刺す。ガキンッと未来は縦にそれを防ぎ、哀の薙刀を絡め取るとクルンと一回回る。それと同時に哀の薙刀も哀も回るが哀は足で未来の薙刀の柄の部分を蹴り上げ、脱出。距離を取る。
「ヒドイネ〜ミク。僕との“約束”忘れるとカ〜」
「でも、ごめんねー。“悪意”…君と約束した記憶なんてないから」
ニコ、と嗤う未来。哀もそれに嗤い返すと両者は走り出す。薙刀の柄同士を何度も何度も交わせる。長い薙刀の刃の部分が交わる前に足を引っ掛けたりしようとするが長いせいでうまくいかない。
………いや、哀にとってはうまくいかないではなく難しい。【狂い咲きの闇黒】に犯され“悪意”になった彼女を殺す気でいかないといけないのだから。よりにもよって彼女に向かって。
ガキンッと再び、刃の部分が交差する。力の押し合いを繰り広げる両者。しかし、男である哀の方が力があり、有利である。
未来を力技で弾くと後ろに移動した未来を追って、追撃を加える。ブンッと空を切る音がした。未来は哀の背後にジャンプすると柄の所で彼を攻撃した。
「っ!!」
突然の背後からの攻撃に反応できずに、腹にもろに攻撃を受ける哀。哀はバッと腹の痛みに耐えながら薙刀を背後にいる未来に振った、が未来はとっさにしゃがみ、哀の視界から消える。そのまま、哀の足を右足で刈る。
「うわっ?!」
「成功♪」
足を刈られ、ノート紙のような床に倒れ込む哀。そこへ動けないようにと未来がすぐさま彼の首筋に薙刀の切っ先を当てた。動けなくなった哀の薙刀を持つ右手を右足の靴のかかとで踏みつけた。
「グアッ?!」
「さっきまでの勢いはどこに行ったの?ネェネェ!」
グリグリと右手を踏みつける。哀は小さく悲鳴を漏らす。首筋に薙刀の切っ先があるため容易に動けない。哀の右手が薙刀を離すと未来はその薙刀を瞬時に奪い取るとバンッと哀の左肩の服に切っ先を刺すと床に縫い付けた。そのまま、縫い付けられて、首筋に薙刀の切っ先があって動けない哀の体を蹴った。足、腕、腹。幸いといったらいいのか顔や頭は一度しか蹴られなかった。
「ネェ!どうなの?!反撃してみてよ?」
「………っ」
「こんな“悪意”のあたしに思い出させるんでしょ?ネェネェ?」
哀は、告げる。優しい笑みで。
「“悪意”のミクも僕の大切な本当のミクも…僕との“約束”、忘れてないって分かってるヨ」
それに未来は眉をひそめる。不機嫌そうな顔で言う。
「なんで…そうなるの?!だからあたしは忘れてるって言ってるでしょ!!」
『嘘は僕、嫌いって知ってるデショ?』
突然、未来の頭に誰かに似た青年の声が響いた。
誰?あたしは嘘なんてついてないよ?
『嘘ついてるんだヨ。そう思い込んでいてしまっているだけ』
どういうこと?あたし、嘘ついて、それを思い込んでるの?
謎の声に問う未来。
『そうだヨ。“悪意”に惑わされているだけ。君は彼の言う通り、ちゃんと覚えてるんだヨ』
笑って未来を見ている哀。なんで…なんで信じられるの?こんな“悪意”を……
『君が“約束”を守って、僕を待ってくれてたから。ネェ、そうデショ?』
哀に誰かの面影が重なり、溶けていく。
嗚呼、あたしは……あたしは!!
『ミクラ・サミュ・ユキ…僕の最後の理解者だった人』
ポタ…ポタポタ…と未来の目から涙が次々と溢れ出し、哀の顔にかかる。
「ミク…?」
未来はフラフラと哀の首筋から薙刀を外すとペタンッと、座ってしまった。溢れ出る涙を片手で拭いながら言う。
「ごめんなさい…ごめんなさい…早く…早くこんな“悪意”に…断罪を…アイ!」
涙に濡れた顔を上げ、言う未来。哀はそれにハッと目を見開くと傷ついた体を無理矢理動かし、薙刀を引き抜くとそれを支えにして立ち上がる。と薙刀を構える。
「わかった…待ってて、ミク。“哀音”」
哀の体から空色の光が放たれ、薙刀にまとわりつく。みるみる上がっていく哀の薙刀の攻撃力。哀が壊したのは『生かす』という意志。哀がしたいのは『救い』だ。『生かす』はここには必要ない。
未来がバッと立ち上がり、薙刀を持つ。その目にはまだ涙があったがさっきよりも殺気だっている。
「さあ、始めよ♪裏切りからの裏切りゲーム!」
バッと跳躍し、頭上から攻撃を仕掛けてくる未来。それをかわし哀は薙刀を突く。哀の薙刀は攻撃力が高くなったせいか未来の薙刀が本の少し触れただけで未来を武器ごと弾き飛ばした。
「?!」
「アハハ!行っくヨー?!」
バッと今度は哀が走り出す。とそこで頭に響いた誰かの声。
『さあ、助けてあげて。お願いネ』
自分の前世の声。分かってる、分かってるヨ。僕“達”を最後まで信じてくれた大切な人だからネ。
未来の懐に一気に迫り、驚いている彼女に反撃の隙も与えないまま薙刀で未来の薙刀を手元から弾き飛ばす。未来はそれでも果敢に哀に挑む。蹴りや拳を突きつけるが攻撃力の上がった薙刀には歯が立たず、薙刀に振り回される始末。未来は頑張るが哀がお返しとでも言わんばかりに彼女の足を足で刈った。ステンッと転び、倒れる未来。近くに薙刀の見える。取ろうと手を伸ばすが、その手はやめた。未来はノート紙のような床で大の字になり、哀に言う。
「…アイちゃん……ごめん…ね…」
再び流れ出る涙と微笑む顔。哀は一瞬、悲しそうな嬉しそうな顔をした。
そして薙刀を振り上げる。
『……お願い、早く…解放してあげて』
未来に似た声が頭に響いた。
この声は未来が器にしている人間…元人間の声。親友で最後の理解者だった彼女だ。
哀はコクリと声に頷いて、未来に向かって笑いかける。
「大丈夫だヨ、ミク」
そして何かを悟ったような未来に薙刀を振り下ろした。
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次回の予定は火曜です。
頑張ります!




