第38戦:恨んでた、妬んでたんだよ、君を
嫉妬の大罪人、白刃 勇馬 VS 嫉妬の罪、練
「!!」
光が晴れ、目を開けるとそこは何処かの大広間。錆びた床と天井。崩れかけた天井にはこちらも錆びたシャンデリアがあった。
「よう」
その声に嫉妬の罪、練は振り返る。そこにいたのは大罪人である勇馬。“覚醒”をしていた。だが今の彼にとって勇馬は敵でしかなかった。
「何?殺されたいの…?」
「さぁ…どうだろうな」
2本の刀を抜き放ち、真剣な目そのもので言う。
「どっちが正しいか、はっきりしようぜ」
そして練に向かって走り出す。練も刀を構え、言う。
「…僕が正しい」
そして練も走り出す。ガキンッと2人の刃同士が交差する。ギリギリと小競り合いを繰り広げる2人の刃。勇馬が練に向かって叫んだ。
「練!わかんねぇのか?!刀!」
練の目に前に突き出すように片方の刀を前に出す。それを顔を右に移動させてよけ、練は不思議そうに首を傾げた。
「……知らない。それがどうかした?」
それに勇馬はハッとし、悲しそうに唇を噛み締めた。2人は武器を力任せに押し合い、両者とも同時に距離を取る。練は勇馬の行動を伺いながら風魔法を発動させたようで彼の服がバサバサと大きく揺れながら刀に風がまとわりつく。勇馬は練に見せた左の刀を横に出し、彼を見据え、大きく、この広間に響くように叫ぶ。
「……だったら思い出させてやる。解答とともにな!“かまいたち”!」
勇馬の左の刀に風がビュウッとまとわりつく。そして両者は再び、刃をぶつけ合う。今度は風という“味方”付きだ。刃同士がギリギリと擦れるたび、武器にまとわりついた風が少しずつ、相手の体力を奪っていく。
勇馬の頬が切れた。腕が切れた。鎖骨が切れた。血が流れても勇馬は気にしない。
2人は離れてはまた間合いを詰めて武器を交差させる。力任せに押し合いを繰り広げ、また交差する。
勇馬が練の武器を弾く。よろめく練に右の刀を振りかざす。練は右手でそっと勇馬の刀に触れる。
「??…練?」
「…クスッ…殺れ」
俯く練の口から発せられた声に勇馬はすぐさま下がろうとした。が先程からの戦いで風魔法によって足を切られていたらしく今になって痛み出した。足の痛みに気を取られ、右の刀が練の風魔法でキィン!!と飛ばされた。勇馬が驚き、すきができたところへ練が彼の残った刀を弾き飛ばそうとする。勇馬の手元をかすった練の刀は見事、勇馬の刀を飛ばし、彼の手が届かない所へ飛んで行った。慌てる勇馬の痛む足を刈って転ばせる。ウッと頭や全身を打った勇馬が呻く。それを無視し、彼の上に馬乗りになると練は刀の切っ先を勇馬の首筋に当てた。
「…ほら、僕の言う通り。僕が正ししかった」
「…………」
「動かないでよ?すぐに斬れるよ?」
ヒュンヒュンと練の刀に今だまとわっている風魔法が動けない勇馬を容赦なく傷つけていく。血がにじむ。感覚がなくなっていく。
「っ!…練…戻ってくれ…」
「戻るって…だから僕はいつも通りだっt『嘘つき』?!」
突然、頭に響いた声に風魔法を止めさせる練。自分に似た声は続ける。
『嘘つきだね君は。何に絆されてそうなったの?』
言ってることがわからない。嘘つき?なんで?
『彼は君を待ってる。嫉妬の君じゃなくて本当の君を』
何、ナニ言ってんの?彼は僕の敵。“悪意”の敵なのになんで待ってるの?意味わかんないよ?
『あのさぁ、好い加減にしたら?実際にそうなのは君だし僕だ』
痛そうに顔が歪む勇馬に誰かの面影が重なる。あれは…誰?違う、知ってる。僕は彼だから、だから知ってる。
『僕も君も依存した。だから道を踏み外した。だから好い加減に目、覚ましなよ』
勇馬が不思議そうに練を見ている。誰かの面影は勇馬に溶けていった。
自分に似た声が練の後ろから、耳元から述べる。ずっと、支えくれたのは誰だったのかを。
『ねぇ、レン=アナザーローリー?』
「っ?!」
突然、練は勇馬から降り、心臓がある左胸の服を右手で握り締める。勇馬は心配そうな顔をして、傷ついた怪我をかばいながら起き上がる。
「練?どうした…?」
ブワッ!と練の刀にまとわっていた風魔法が練自身に勝手にまとわりついた。その中、練は苦しんでいるようで胸の辺りをずっと握り締める。
「…勇馬…逃げ…ろ、お…願い…」
ブワッ!とさっきよりも風魔法が練を包み込み、彼を中心に竜巻を起こす。勇馬は練の言葉に目を見開く。勇馬は“かまいたち”を使い、刀を一本、手元に引き寄せ、ギュッと握る。
「嗚呼、お前を戻してからな!」
バッと刀を振り払い、立ち上がる勇馬。その時、ちょうど練は再び刀を握ったようでさっきよりも鋭い殺気を放っている。
「“かまいたち”!」
勇馬はかまいたちでもう片方の刀も引き寄せ、握る。そしてその“かまいたち”は2本の刀にまとわりつく。
「殺せば…殺せばいいんだ…!」
練がうわ言のようにつぶやく。
2人は相手に向かって走り出す。交差する刀は相手を傷つける刃となって襲いかかる。
勇馬は右の刀を練との攻防戦から引っこ抜き、練の脇腹めがけて突き刺す。それに気づいた練は動く左足ではじき返す。そして刀に籠める力を強くする。ギギギ…と少しだけ勇馬が押されるが、再び右の刀を投入し、勝負は平行線となる。両者共に風がまとわりついているので刀でなくても傷は増えていく。
「……“かまいたt「させない」!」
勇馬が“かまいたち”を動かそうとしたが練に気づかれ、刀の切っ先が勇馬の首筋を狙って動いた。勇馬は両の刀でそれをかばいながら大勢を整えるため、右足一本を軸にする。重なる刀の刃。勇馬は今だと軸にしていた足で一回転し、刀を弾く。刀は練の手元から飛んで行った。
「“かまいたち”!練を止めろ!」
ビュウッと勇馬の指示に従い、“かまいたち”が練を壁まで押し付けるとガラスの破片のようなものが動かないように壁に練を固定する。練は驚きながらも殺気が消えていく。練にまとわっていた風魔法も徐々に消えていった。
勇馬はカラン…と右の刀を落とすと静かに、ゆっくりと練に近づく。
「………早く…僕、を……正して……」
練が途切れ途切れに告げる。
『さあ、正してやって?道を踏み外した彼の道を』
響く前世の声に小さく頷く。と練からもらった刀の柄を握り締める。
スル…と勇馬の左目を覆っていた眼帯が外れ、床に落ちる。久々に現れた勇馬の左目はいつもより、少し濁っていた。“覚醒”の時の後遺症的なようなものであった。少し濁んだ左目に中には勾玉のような模様が描かれている。その目を右手で軽く触れ、勇馬は練の目の前に辿り着く。
「待ってろ、今、正してやるから」
勇馬は笑顔で、言う。視力が下がっているはずの左目は傷ついた練がよく見えた。嗚呼、早く、解放と。
勇馬は何か悟ったような練に向かって左の刀を振り下ろした。
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