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Game of crimes  作者: Riviy
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第35戦:手に入れたかったチカラ

強欲マモン大罪人パートナー、マヤ・久理乃くりの・ローテルVS 強欲マモンの罪、ウタ

「?!」


光が晴れ、目を開けるとそこは暗い空間。床は水面のようで歩くたびに波紋を描く。


「待っていたよ」


その声に強欲マモンの罪、ウタは振り返る。そこにいたのは大罪人パートナーであるマヤ。“覚醒”をしていた。だが今の彼にとってマヤは敵でしかなかった。


「待っていたとは殺されるのを待っていたと捕らえても?」

「そうだね。そう捕らえて貰おう。でもあなたも同じだよ」


マヤは手に斧を持ち、真剣な面持ちで告げる。


「私は……“僕”はお前を取り戻す!!」


バッとマヤは唄に向かって行く。彼はシルバーナイフを手で弄び、言う。


「その欲望、お断りさせて頂きます」


ガキンッ!!!両者の武器が交差する。唄が片方の空いていたシルバーナイフをマヤに突きつけた。それを紙一重でかわし、後退する。


「ウタ!私!マヤだよ?!ねぇ覚えてないの?!」


マヤが両手で斧の柄を握り締め言う。それに唄はクスリと嗤って残酷な響きと共に解き放った。


わたくし強欲マモンの罪にして最悪の“悪意”の一つ。あなたのことは存じておりません」

「?!」


ティウムの【狂い咲きの闇黒】に犯された唄は意志も想いも全て奪われている。ここにいるには彼であって彼ではないのだ。


「………そっか、じゃあ、全力で……“ジョーカー”!」


マヤが涙目になりながらも歯を食いしばる。そして斧を空中に放った。それは大きな斧となり、主の命令を待つ。

唄はクスリと意志のない笑みを浮かべ、右のシルバーナイフをマヤに向かって投げながら彼に向かって走った。

マヤは数本をよけたが一本が頬をかすり、血の一線が出来た。それに少なからず唄の“何か”が反応した。がそれを無視で左のシルバーナイフでマヤに攻撃した。

マヤは大きな斧でそれを防ぐ。唄の行く手が大きな斧によって塞がれた。唄が一度後退する。


「“ジョーカー“!殺りなさい!!」


マヤが右手を唄に向ける。大きな斧は主の命令に忠実に唄に向かって飛び、彼を踏み潰そうと振り下ろされた。


「甘いですよ、これで強欲わたくしに勝てると?………紅茶が不味くなりますね」


ーガンッ!!ー


「……へ?」


唄が大きな斧を右足で蹴り上げた。斧は攻撃された勢いで元の大きさと急激に戻り、マヤの手元に磁石のように戻った。マヤは『神の双子』との戦いで斧自体に攻撃されたら元の大きさに戻りつつなお、自身もダメージを受けることを知っていた。ので、マヤは斧を持った途端に見えない壁に打ち付けられた。


「キャッ」


背中が痛いと感じたがマヤは立ち上がり、構える唄に向かって足りない身長を補うように跳躍した。唄はそれを両のシルバーナイフを交差させて防ぐ。ギリギリ、ギリギリと両者の武器が擦って悲鳴をあげる。火花がチリチリ、チリチリと散る。

マヤの跳躍が時間切れを迎え、彼が水面に足がつきそうなところに唄が彼の腹に容赦なく蹴りを入れた。腹から脳へと伝える痛みにマヤの顔が歪む。唄はそこへ斧を持った彼の手首に手刀を加え、マヤの手中から斧を落とす。ぽちゃん……と斧が水面の床に沈む。


「……イタっ」


マヤは腹を押さえながら、水面の床に肩膝をつく。そこに唄の容赦ないかかと落としがマヤの背中に直撃する。


「ウ"ゥ…!」


バシャ!と水面に大きな大きな波紋が描かれる。水面に倒れたマヤの頭を掴み、浮かんでこないように押さえる。マヤは息苦しくてバシャバシャと両腕足を動かす。


「無惨ですね。強欲わたくしを取り戻すと豪語しておいてこの様とは……」


バシャ…とマヤの頭を掴み上げる。そして自ら腰を屈めてむせているマヤと同じ高さになる。“覚醒”の姿で水まみれになった彼は“楽しそうに笑ってわたくしの手を引く彼ではない”、そこにいるのは苦しみの海に自ら漕ぎこんでしまった哀れな人間イトシゴ


「……私が…と、り戻すのは……げほげほっ……強欲わたし・ぼくじゃない…あなただよ」


ニッコリと苦しいはずなのに笑うマヤ。

唄にはわからない。なんでこんなに欲するのか。なんでこんなに必死になるのか。なんでこんな“悪意”を……取り戻したがる?


『それはお前だからだろう?』


頭に響く自分に似た声。

あなたは誰ですか?


『彼は俺のご主人様だぜ?お前にとってもそうだろう?』


違う。わたくしの主は彼じゃない。


『ホントか?』


目の前で苦しむマヤに誰かが重なる。誰かによく似た男の子。その男の子は唄に向かって笑顔で手を伸ばす。その手を取ったのは自分じゃない。笑顔の男の子はマヤに戻り、マヤは唄を愛しそうにして見ている。目を細め、苦しむ中で、かつてのウタを、今のウタを取り戻そうと。


『お前は俺の罪。そしてあの方も同じ、俺が犯した罪そのもの。そう教えたのはお前だろう?強欲マモン


知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない!!!わたくしはっ!知らない!!


『ハッ。随分奪われたな。情けないぜ』


唄の目の前に自分にそっくりな誰かが浮び上がる。彼はニィと笑って唄の頬を撫でる。


『コミー=マーガレット』


バシャン!!!唄がマヤを離した。マヤは驚きながらも水面の床に叩きつけられた。急いで斧を拾い、彼と距離を取る。唄は何かを見たのかさっきまでマヤがいた所を見ながら呆然としていた。がハッとしてマヤに手を伸ばした。


「あ……あ……マヤ、ごめんなさい……わたくし……」

「ウタ?!戻ったの?!」


マヤの嬉しそうな笑顔も声も束の間、唄は苦しそうに頭を抱えて唸り出す。「…違うわたくしは……彼が……わたくしが………」と辛そうに呟き、突然、唸るのをやめる。そして最初と同じ、殺気だった目でマヤを見た。両手にシルバーナイフを持ち、マヤに襲いかかった。


「!!……ウタ、待っててね、今………解放してあげるから。“ジョーカー”!」


マヤの斧が大きくなる。とマヤの姿が2つに別れた。一つは“覚醒”のマヤ、もう一つは少女姿のマヤ。

2つに別れたマヤは驚くこともなくさも当然のようにしている。唄は驚きながらもマヤにシルバーナイフを突き刺した。それを少女姿のマヤが斧で防ぐ。そのすきに“覚醒”のマヤが大きな斧を振り下ろす。瞬時に反応出来なかった唄は斧の攻撃に弾き飛ばされ、飛ばされながら少女姿のマヤの攻撃も受ける。

唄は水面の床に手をつけて見えない壁にぶつかるのをかろうじて阻止し、再び、マヤに襲いかかろうとシルバーナイフを構えた。その時、少女姿のマヤがいつに間にか唄のすぐ目の前にいた。とっさの判断すら許さない。少女姿のマヤは唄の顎を腹蹴られたお返しとでも言うように蹴り上げた。唄は蹴り上げたが左のシルバーナイフを少女姿のマヤに刺した。感触がない。とザシュッという音と共に唄の体が素早い何かによって傷つけられていく。


「っっっっ!!」


カランカランと唄の武器が手元を攻撃されて水面の奥、床に落ちていく。

と、攻撃が止んだ。唄が気づいた時には“覚醒”のマヤは目の前に普通の大きさの斧を震える両手で持って立っていた。唄はすぐさまシルバーナイフを構えようとしたが武器は水の中。ならばと素手で。


「!?……貴様っ!!」


唄の敬語すら外れた。何故か動かない体。唄はさっきよりも殺気を漂わせて自身の後ろを顔だけで振り返った。そこにいたのは少女姿のマヤ。少女姿のマヤは自分より大きな唄を後ろから羽交い締めにしている。いや、よくよく見ればマヤではない。だんだんとそのマヤは黒くなっていき、最終的には目と口の部分だけが真っ赤に輝く何かになった。

唄はそれから逃げようと必死にもがくがなにぶんこの何かの方が力が強く抜け出せない。


「無理ダヨワタシカラハ逃レラレナイ。仮ニ強欲アンタダトシテモネ」

「チッ……さっきの能力でか?」

「嗚呼」

「こんの復讐のバケモンが!!」


唄が叫ぶ。唄を捕らえているのはマヤが先ほどの“ジョーカー”で召喚された復讐が大好物の魔物。そんなことマヤは知るよしもないのだけれど。きっとそれもこの少女姿のマヤに化けた復讐の魔物にはとても良かったのかもしれない。


「サァ殺レ小僧!」


復讐の魔物が言う。本物のマヤはギュッと斧の柄を握り締める。

唄は当然抵抗する。が、時折、前のウタに戻ったり……。


「やめろ…!……マ……ヤ、はや……く…うるさいうるさい……違う……違う……わたくしは……」

「ウタ…」


マヤは決心したように唄に向かって斧を振り上げる。


『早く、早く。殺人鬼になってしまう前に俺を、こんな俺に裁きを!!』


マヤにも聞こえる唄に似た声。確かこの声は………。


コミー=マーガレット、唄の器となっている人間。いや、元人間か。彼は前世のマヤの執事だった。


『さあ、元に戻してあげて?』


この声も知ってる。前世の自分だ。嗚呼、みんな、みんな、チカラを貸してくれて、前に進み出す勇気をくれて、今の自分がいることにありがとう。

私は…“僕”は


「ウタ、また後でね」


斧を唄に、何か悟ったような彼に向かって振り下ろした。














ーーーー続きは書かれていない。次のページを捲る

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