第33戦:決意は系譜となり、紡がれる
手当てを終え、一息つく。
そしてヴァークとサツキから聞かされたのは“七つの大罪”が悪意という名の鎖に縛られ過ぎてある『神』様を呼び寄せてしまったということ。
そのある『神』様が『神の双子』が言っていた『神』のオリジン、ティウムである。
『神』のオリジンは昔からその意志を受け継いで長い時を生きる。生まれ代わりと称される者で今のティウムはまだ2代目。初代が頑張ったらしいが2代目に意志を受け継いだ後、何処かへ消えた。
その2代目のティウムを呼び寄せた“七つの大罪”は『神』とは知らずにいたらしい。そのティウムは初代の小さな小さな【狂い咲きの闇黒】を受け継いでいた。それが2代目では表の感情を支配してしまい、『神の双子』が愛した“七つの大罪”がちょうど自分を呼び寄せたのだからと利用したのだ。
2代目の表を支配した【狂い咲きの闇黒】は世界を創り変えるために世界を滅ぼそうとしているなんとも大迷惑な代物であった。
ティウムは“七つの大罪”で大罪人を持つ罪だけにある魔法をかけた。そして、大罪人を殺すように仕向けた。こうすれば、大罪人が罪を自分が生きるために殺そうとしているようにも捉えることができ、“七つの大罪”を愛す『神の双子』が罪達の味方をして愚かな人間達に大昔のような炎を放たたせようとしたのだ。それが上手くいくための駒が愛憎の罪である。彼は『神』にある嘘をついている。それを利用しようとしたらしいがある意味返り討ちにあったとか。
ちなみに関係ないかもしれないがヴァークとサツキの武器には破壊神と死神が新たに宿ったらしく喋るのだと言う。
「ネェネェ!ミクは?!」
哀が心配そうに聞く。ずっといない彼の片割れとも呼べる罪。今の話が本当なら、未来もティウムの【狂い咲きの闇黒】に犯され、敵となっている可能性がある。だって彼女は大罪人がいるのにティウムの作戦が効かなかった例外なのだから。
「今、エルが確かめに行ってる。そろそろティウムが動き出すはずだからついでに足止めして来るって」
「足、止めって…」
ヴァークの答えに敵になるかもしれないという恐怖に哀がポロリと涙を流す。そんな彼の背を大丈夫だよと叩きながらマヤが言う。
「でも、2人の話が本当ならゴウやユキは大丈夫なんだろ?」
「そうやな。だとしたらその2人がなんとかしてくれとるかもしれへん」
零の疑問に鈴都もそうだなと答える。
大罪人がいない剛と雪。ティウムの【狂い咲きの闇黒】は効かないはずである。まぁ、ティウムがその魔法が効く対象を変えていなければ、の話だが。
「でも、油断は禁物だ。お前らもそうだったろ?」
サツキが腕を組んで言う。それにウッとなる皆。彼の言う通り、皆、油断をして様々な危険を重ねてきた。『神の双子』との戦いもそうだ。油断が危険を呼んで危うく仲間が死ぬとこだった。
「それに次はお前らにとっては苦痛な戦いになる。長い奴で5年、短い奴で1年半付き添ってきた罪と命をかけて戦うんだぞ」
「操られているあいつらはお前らを殺そうとしてる」
ヴァークとサツキが真剣な顔つきで言う。
そうだ。大罪人達にとって次の戦いは最後であり、辛いものなのだ。魔法でそう仕向けられているとは言え、殺しに来てることには変わりない。サツキの言う通り、操られていると表現するのも無理はない。
大罪人達は各々、難しい顔をしている。
『まぁったくヤなモンだなぁ。まぁお前達の決意次第だなぁ、ケケケ』
『ドイル、お主いい事言いよったなぁ』
『………黙れおっさん』
『ハハハ、これでもまだ若い方じゃぞ?』
ヴァークの腰にぶら下がる短剣、破壊神オーバーとサツキの腰にぶら下がるレイピア、死神ドイルが言い争うように声を上げる。それに彼らの主である2人は呆れながら止めに入る。
それを眺めながら大罪人達は考える。
罪達が「大罪人を暇つぶしで殺す」と言った時は驚いた。ずっと仲良く、過ごしてきたのだから。自分達は何か悪いことをしたのかと思った。だからそう言われて、ずっと説得した。でも、元には戻らない。それは罪達の過去にも関係していたから。“悪意”と言われ、演じてきた罪達。罪達は疲れていたのだ。だからきっと……。
嗚呼、悩んでいたって何も変わらないのは、何も出来ないのはもう、分かっているではないか。じゃあ、シンプルに。やるべき事は、決まってる!!
「俺達を殺す?俺達の大切な罪を操ってる?ハッ上等だ」
そう言って立ち上がった勇馬は“覚醒”を再びし、左手に持つ刀の柄を握り締め、それを見つめる。
「また練と笑い合いたい………だから俺は練を取り戻す!例えこの命が朽ちようともな!」
勇馬が左手の刀を前へ出し、言う。その刀は以前、勇馬が練に貰った物だ。「僕のも使えば、少しは強くなったと思わない?」と周りが強すぎて嫉妬心を撒き散らしていた時、練にそう言われ、彼の刀を貰った時、勇馬は本当に強くなったと思った。今の強い白刃勇馬がいるのは練のおかげなのだ。
「我もやね。本当に蜜のおかげで我の自傷癖、治ってきとるんよ。だから蜜には戻って来てもらわんと。皆揃うたらお菓子、作ったるさかい」
不慣れな笑顔を浮かべ、“覚醒”を再びしながら鈴都が立ち上がる。
鈴都には昔から自傷癖があった。自傷癖と言っても自身の体を自ら傷つけるのもそうだが鈴都は自身の心を自ら傷つけることが多かった。彼の家族には自慢の息子がいた。鈴都ではない。彼の兄である。愛されているのは兄だけ、自分は愛されない愚か者。鈴都のそれはただの考え過ぎである。彼は兄からも家族からも愛されていたのに。だがそれを彼は知らない、自らの思考に囚われていていたから。それを救い、和らげたのは蜜だ。今のこんな皆の母親みたいで、皆を見守る地灰鈴都がいるのは何から何まで蜜のおかげなのだ。
「私も頑張るよ!ウタは私の執事だもん。その主がこんなんじゃあ笑われちゃうね。また、ウタとお茶したい!」
両手の拳を握り締め、“覚醒”を再びしながらマヤを立ち上がる。
唄は彼の家の執事ということでも通っている。そして何より、もう一人のマヤを知る数少ない人物。マヤは名のある知れた財閥の次男。それでも跡継ぎや遺産相続、財閥の名誉と押し潰され、壊れかけた彼を助け、その心に鍵をかけたのは紛れもない唄。マヤにとって唄は執事であり、罪であり、自分を初めて認めてくれた友人で家族なのだ。
「なんだよ、オレにも言わせろよ。オレだってまたツキと仲良くしたい。また……笑顔で過ごしたいよ……!」
両手を胸の所で組みながら、“覚醒”を再びしながら零が立ち上がる。
彼女だって女の子だ。友達といっぱい話したいのだろう。男勝りな性格ゆえに女子で親密な友達が未来しかいなかった零にとって月と契約したのは彼女にとって大きな一歩だった。今まで話したこともなかったクラスの女子生徒と話せるようになった。女子生徒と話題を分かち合えるようになった。今の音時零がいるのは月と出会い、罪となったからこそなのだ。
「例え、ミクが敵になっていようとも、僕は……“生まれ変わったらずっと一緒にいる”って“約束”したから、ミクを迎えに行くヨ」
儚い笑みを浮かべ、“覚醒”を再びしながら哀が立ち上がる。
哀と未来には契約も次元も超えた“約束”をしていた。一番最初の憂鬱の大罪人であった彼(哀の前世)と“生まれ変わったらずっと一緒にいる”という“約束”を彼と未来は交わした。そして長い年月の末、“約束”は果たされた。長い長い“約束”が今なお2人を結んでいる。だから哀にとって罪は大切で、大事な人なのだ。
「………ボクは……何にも変われないし…何にも出来ない……でも…スイが、一緒にって……言ってくれた…だから、救う絶対っ」
真剣な顔つきで“覚醒”を再びしながら、春が立ち上がる。
春は丁寧に言えばおっとり、マイペースな性格だ。だが裏を返し、残酷に言えばのろまだ。彼はそんな自分を変えたかった、救いたかった。でも出来ない。何も出来ない。そんな自分に嫌気が刺す。水は、春と同じだった。彼も変わりたかった。だから、一緒にがんばった。皆も支えてくれた。水がいたから今の美晴春はいるのだ。
決意が固まった大罪人達を見て、ヴァークとサツキは笑う。
そして、皆は足を踏み出す。
欲しかったのは全員違う。違うからこそ全員は一つになれる。
さあ、行こう。自分達が愛すべき罪を、『神』より、人間より自分達に与えられた“悪意”を。
『You should vomit arrogance of Takashi.(貴様の傲慢を吐くがいい)』
『Can your desire surpass me?(あなたの欲は私を超えれますか?)』
『Show your jealousy to.(お前の妬みを知らしめろ)』
『……I teach the difficulty of the hair's breadth…(……紙一重の難しさ、教えてあげる…)』
『I will love them for love once again.(愛でもう一度、彼らを愛してあげましょう)』
『Let's laugh at sympathy with all all.(みんなみんなで哀れを嗤いましょ)』
頭に響くは“かつての自分”。罪達を助けてくれと、“悪意”から解き放ってくれと叫ぶ、次元を超え、時空を越えた言の葉。
「「Well, let's go to regain a dear big crime.(さあ、愛しき大罪を取り戻しに行こう)」」
最終決戦へーーー。
そろそろ大決戦です!
ちょっと遅れとこれでいいのか症候群が発症しています(笑)すみません
ですので次回は少し遅れて金曜の予定にしたいと思います。




