第3戦:悪意との夜戦会場
「アラ、どうもご機嫌よう」
そう言って命令口調の少女が白いワンピースの裾を持って3人に向かって軽く礼した。
「……今夜は来ないと思ってたが…」
「何をおっしゃいますか〜私達はただ“ゲーム”を攻略したいだけ〜だから今夜も出向くのです〜」
勇馬の呟きに語尾が何故か伸びるエロいっていうかウザい感じの青年が言った。
そして、彼ら3人はその手に何処からともなく出した武器を持った。少女はその細い身に合わなそうな大剣、怠そうな青年は2丁の黒い拳銃、そして、ウザい感じの青年は大鎌を。
「……ねぇ、そっちも持ったら?…」
怠そうな青年が右の拳銃でこちらを示し言う。
するとサツキが小さくため息をついた。
「今夜は、穏便に済ませたい」
サツキが右手を横に出すとそこに音楽でよく見る音符が現れ、彼の手の周りを回り出す。すると音符が消えた。サツキの手にはレイピアが握られていた。
「さぁて、俺もやるか」
勇馬が面白そうに笑い、左手をサツキ同様横に出す。すると黒い煙が彼の手を包んだ。包まれたままの左手を持ち上げ、そのまま空を切ると煙がバァ!と晴れた。勇馬の手の中には一筋の刀があった。
「んもう!」
マヤが両手を前に突き出すとその右手に金色をしたコインが集まり出し、何かを形作る。コインが形作ったのは可愛らしい大きなリボンが付いた斧だった。
勇馬、マヤ、サツキが出したのは“大罪武器”と呼ばれる物だ。誰でも出せる訳ではない。“七つの大罪”のどれかと契約しなければ出せない武器だ。
つまり3人は“七つの大罪”のどれかを犯した、ということになる。
クスリと目の前の少女が笑った。
黄色のツインテールで白いワンピース姿にサンダルを履き、大剣を持つ姿はある意味恐ろしいの一言だ。彼女は名を月といい、先のサツキが言っていた傲慢の罪である。
もう、お分かりだろうか?そう、他の2人もそうなのだ。
怠そうな青年は青色のショートでフード付きのパーカーで顔を覆い、下は長ズボンにブーツ。彼の名は水。怠惰の罪。残りの1人は赤紫のショートでホストが着るような胸元が開いた服を着ており、ズボンにそれにあった靴。彼の名は蜜。色欲の罪。
彼らは罪本体、つまり罪その物だ。罪がある人間を自分の主にする。これが大罪武器を持つことが出来る、大罪人と呼ばれる犯罪者である。大罪人は簡単に言ってしまえば、“七つの大罪”のどれかを犯した人間、ということになるが詳しいことは後にしよう。
「今夜の“ゲーム”を始めましょう?この、傲慢様のためにっ!」
そう言って月が大きくジャンプし、マヤに襲いかかった。
ーガキンッー
マヤは斧で防ぐと力任せに月を弾く。
「早く……唄を取り戻すんだからね私は!」
ーブンッー
そう叫んで月に斧を振るマヤ。
水が突っ立っている勇馬とサツキに標準を合わせながら言う。
「……そうさせたのって……誰だっけ?」
「!サツキ!」
勇馬がサツキに危険を知らせるその途端に蜜が彼に向かって大鎌を振った。それを勇馬は一回転をして避ける。
「あなたは私と殺りましょう〜?」
「ッ…殺ってやろーじゃねぇか」
ーガキンッ!ー
蜜と勇馬の武器が絡み合う。
ーバンバンッー
水の攻撃をサツキはレイピアで弾き、防いでいた。
「………今夜も演じるのか?」
サツキの問いに水は一瞬、キョトン…とした後、嗤って言った。
「嗚呼…だって…そうしたのは…キミ達だからね…」
そう言ってサツキに拳銃を乱射した。
“ゲーム”ーーーーそれは討伐対象が大罪人達の不可思議な暇つぶし程度の殺し合いゲーム。
数ヶ月前までは“久しぶりに罪が全部集まった”と言って、皆仲良く過ごしていた。過ごしていたのだが、ある日を境に一人、また一人と変わっていった。ある罪は懐いていた大罪人を毛嫌うようになり、またある罪は大罪人と口を聞かなくなった。大罪人達が彼らの異変に気づく。どうしたんだろう、と。そんな時、罪達が告げたのだ。『大罪人である貴様らを暇つぶしに殺す』と。
何が起きた?その時の大罪人達は混乱した。今までずっと仲良くやってきた彼らがいきなり自分達を暇つぶしに殺す?冗談じゃない。
冗談じゃなかった。彼らは本気で自分達を殺しにかかっていたのだ。
そうして始まった罪達による大罪人を殺すゲーム。大罪人達は身を守るために相手を殺しにかかる。罪達は暇つぶしに彼らを殺す。まさに“殺し合いゲーム”。
「“七つの大罪”達が可笑しくなった原因はきっとある。
いきなりこうなるなんて、今までなかったんだから」
だが、彼らは言うのだ。『原因なんてない。自分達の意志だ』と。
「エイッ!」
マヤがジャンプし、月に斧を振り下ろす。それを月は大剣で防ぐとマヤの腹を横蹴りし、屋上のフェンスにぶつけた。そして立ち上がる時間を与えず、月はマヤの首を左手で締めた。
「く……っ」
「マヤ?!くっそ」
「余所見は禁物ですよ〜」
マヤを助けようにも蜜が邪魔をして行くことができない。
月はマヤの首を少しずつ締めながら言う。
「唄を取り戻す?アンタ、馬鹿ねぇ。アタシ達はアタシ達の意志でアンタ達を殺しに来てるのに…」
それにマヤは苦しみながら、フェンスにぶつかった拍子に落とした斧を手探りで探していた。それに気づいた月がマヤの手を右のサンダルの踵で踏んだ。
「っ!!……カハッ…それは…ほん、とう…?」
マヤが途切れ途切れに言う。それに月はクスリと嗤い、
「“ええ、そうよ”」
大剣をマヤに振りかざした。
「マヤ!!」
勇馬が蜜の大鎌を刀で防ぎながら叫ぶ。そして、風を、“かまいたち”を起こそうと意識を集中させた。
「〜♪」
ーキンッー
「!アンタ…っ」
歌声が聞こえた。その途端に月の目の前にはマヤを守るように立っているサツキの姿があった。大剣をレイピアで防いだのだ。
「……ゲホッ…サ…ツキ?」
「大丈夫か?後で手当てするからな」
「っ!スイ!アンタ何やってんのよ!」
サツキがマヤを背にしながらレイピアを構える。月が大きく後ろに跳躍すると着地しながらサツキと戦っていたはずの水に叫ぶ。すると彼は、怠そうに言う。
「……だって……逃げられた…から」
「だからって!」
「ツキ〜そう怒らない〜もう、今夜は帰りましょう〜」
勇馬の刀から逃れた蜜が2人の元へと来て言う。
「そうしてくれるとこっちも助かるが?」
勇馬が右腕を庇いながら言う。蜜との戦いで負傷したようだ。
月はフンッと鼻で笑うと罪3人は姿を消した。
「2人共大丈夫か」
「嗚呼、俺はな。マヤは?」
「私も大丈夫…ちょっと背中痛いけど」
えへへと笑うマヤをサツキはレイピアを消して抱き上げた。マヤも斧を消しながら喜ぶ。
「わーい!」
「喜んでる場合か。まぁ、さっさと帰って手当てして寝んぞ」
マヤを抱き上げたサツキの後を勇馬が刀をサツキとマヤ同様消しながら追う。
「後で課題教えてくんね?」
「自分でやれよ」
こんなに騒いでなんで誰も来なかったかって?それは、最初に出てきたピンク色の蝶に秘密があるんだが…今夜はもう、遅い。いつか、また説明しよう。
バトルのはずなのに説明文長い…(・_・;