第30戦:『神の双子』の始罪者VS傲慢&強欲&色欲
『神の双子』がバッと走り出す。大罪人達も走り出す。
リオンが零とマヤにを扇で殴るように攻撃した。それを2人は紙一重で防ぐ。
「あっぶないではないか!!」
「何をする?」
2人が武器を構え、リオンを見据え言う。それに彼はハハッとおかしそうに嗤う。
「“胡蝶”・妖術」
「!!??」
鈴都が油断していたであろうリオンに能力を使う。鈴都の持つ魔導書から紫色の何本もの大きな手がリオンに向かって飛び出た。それに彼は鈴都の思惑通りに見事簡単に魔法の手によって捕まってしまった。
ギリギリと手はリオンを容赦なく締め上げる。
「っ」
「今や、行け!」
鈴都の指示に零とマヤが一斉に動き出す。
零は大剣を身動きできないリオンに向かって振り、魔法の手ごと斬り裂いた。
マヤは能力、“ジョーカー”を使い、斧を大きくして零の攻撃を受けて千鳥足のリオンの頭上に振り下ろした。
ズォォオン……と土煙が上がる。
「………やったのか?」
「ありえへん。こんな簡単に殺られる訳あらへん」
「そうじゃな。リンに妾も癪じゃが賛成じゃ」
零が大剣の柄を握り締め、真剣な顔付きでマヤの斧に潰された(と信じたい)リオンがいる所を睨みつける。
「……上げてみるか?」
動く気配すらないリオンにマヤが斧を上げてみようかと2人に聞く。
確かにマヤの言う通りだ。『神の双子』ともあろう者がこんな小技に引っかかって死んでしまうなんてありえない。
「嗚呼、そうじゃな。マヤ、斧を上げるのじゃ」
零が上げろと命令する。マヤがゆっくりと腕を上げ、斧を持ち上げる。リオンがいるはずの所は大きく凹んでおり、相当の威力であったことを物語っている。凹んでいる所の近くにはリオンの服の切れ端が落ちている。零が大剣で斬り裂いた時に一緒に切れたのだろう。
「「「???!!!」」」
だが、そこに彼は、
「オレは此処だぜ?色欲?」
「なっ?!……ぐぁ?!」
いなかった。彼は、無傷の姿で鈴都の背後に立っていた。そして鈴都に回し蹴りを放ち、零とマヤの近くに飛ばした。
「リン!おのれお主!」
「どうやって?!僕の攻撃も女王の攻撃も全て当たっていたはずなのに…」
零が怒りに満ちた瞳で扇を構えるリオンを睨み付けながら鈴都を助け起こす。マヤは今起きた出来事にとても驚いている。
リオンはおかしそうに嗤いながらマヤの問いに答えた。
「教えてやるよ。2人が攻撃したのはオレが事前に作っておいたオレの“影”でできた模造品さ」
リオンがバッと3人向かって跳躍する。鈴都が水色になった魔導書を開き、今だ痛める脇腹を抑えながら叫ぶ。
「水花!」
ザバァと涼しげで清き水で形作られた水花が3人の前に現れ、リオンに向かって襲いかかった。リオンは空いている左手を空に突き出す。とそこに影が集まり、扇を形作った。
「ほざけ、弱すぎる」
バシャ!と2つの扇で水花を真っ二つにした。そして着地した途端に零の大剣が前方から襲いかかった。リオンは右の扇だけで自分の武器の数倍もある大剣を防いだ。
「“妾達は負けんのじゃ”!」
零の言霊が彼女の大剣にまとわりつき、武器の性能を上げて行くとともリオンの扇にも迫り、武器の性能を下げようとしてくる。
「僕の欲もだ。存分に味わうといい」
リオンの背後から普通の大きさの斧で攻撃を仕掛けるマヤ。それに気づき、リオンは残りの扇で防いだ。
リオンは2人の攻撃を防ぎながら、鈴都が別の魔法を放たんとする様子を尻目に見る。と小さくため息をつく。
「ハッ……ホント、これで勝てると思ってるとか…バカらしいな。それに…虫酸が走るくらい分かってねぇ!」
リオンがそう叫んだ途端、零もマヤも遠くにいた鈴都もリオンの周りに突如貼られた見えない壁に何かによって叩きつけられ、そして吹き飛ばされた。
「……っっっ、なんじゃ…一体!」
零が大剣を支えにして立ち上がる。零の左肩から血が鎧を伝って流れ落ちている。
「な、に……が起きたの?」
頭を押さえながら立ち上がるマヤ。頭からは血が流れ出ており、顔の半分は赤い血で染まりかけていた。それを服の袖で拭う彼は“覚醒”前の口調に戻っていた。
「イタタ……突然やなぁ」
鈴都が魔導書を持った手で左腕をかばい、ながら片膝をついて立ち上がる。彼の左腕からは血が流れ出ていた。
「大罪人が聞いて呆れる」
リオンの蔑むような口調に彼らは彼を見た。
「「「???!!!」」」
そして、驚く。今日、一番の驚きだと思うのだ。だって『神の双子』が自分達のように姿が変わっていたのだから。
リオンは童水干と呼ばれる服装で、服の胴体部分と袖が離れている。胸元には小さいスミレ色の紐状のリボンがついている。服の色は黒で下はちょっと紫が混じった薄い黒。靴は下駄とハイヒールのヒール部分が合体したような物だ。腰からは緩めに結ばれたスミレ色のスカーフを垂らしており、着物の柄は萩の模様があしらわれている。
髪はそのままで、右耳にペンダントに似たイヤリングをしている。そして彼は手に着物の柄と同じ、萩の模様が描かれた扇とスミレの花が描かれた扇を持っていた。ちなみに萩の模様が描かれた扇が左手で、スミレの花が描かれた扇は右手で持っている。
「オレ達が“あいつら”にやった力はこんなもんじゃない。それを貰ったはずの大罪人がこんなに弱いとは」
ブワッ!!!と3色の光、いやオーラがリオンから吹き上がる。黄色、青色、紫色その3色が織りなすオーラは彼の不気味さをさらに際立たせた。
「あり得ない。それに正直言うと不愉快きまわりない」
「「「??!!」」」
リオンはそう言って嗤う。いや、正確にいうと目は笑っていない。
リオンは片方の扇を鈴都に向け、淡々と言う。
「お前、あり得ないな。まだ不安か?自身の“闇”が」
「っちがっ」
「いい加減にして」
怒気を含んだ声にリオンは鈴都に扇を向けたまま声のした方を顔だけで振り返った。声の主は頭から流れ出る血をいともせずに斧を構えているマヤだった。
「へぇ……お前もか……ハハハッ…ハハハハハハッ!!!」
突然、リオンは狂ったように嗤い出した。その嗤いは恐ろしい何かを感じさせる。傷を負ったまま、零とマヤは嗤い続けるリオンを中心にして立つ。
「我慢も限界だ!傲慢も強欲の色欲もお前達全員!オレ達が愛し育てた罪達からもらった全部!奪ってやるよ!能力を上手く制御出来ない大罪人なんて、罪達を愛せない大罪人なんて……オレ達は要らない」
嗤うのをやめ、彼らに淡々とはっきりと言うリオン。恐ろしく残酷で、恐ろしく美しい、始罪者。それが彼につけられた異名の本当の意。“恐ろしく残酷で、恐ろしく美しい犯罪者でありながら大罪人達に始罪を告げる始罪を極め、そして犯した“罪”の我が『神』”。
「………じゃったら妾達がそれを止めてやろう。そのためにお主を、倒す」
零が真剣な顔で言い、大剣を構える。マヤがうんと頷き、いつもの、“覚醒”前の口調で言う。
「そうだね。私も頑張ってみせる!」
と、マヤは顔の半分を覆う血を袖で拭き取った。鈴都が魔導書を開いて構え、言う。
「調子に乗らんといてな?……我やって、できるんや!」
「ほぉ…?」
リオンがギロっと3人を見回す。それにゾクっと背筋が凍るのを感じる3人。
リオンは3色のオーラを2つの扇に移す。すると3色のオーラは扇に吸い込まれた。
「だったらさぁ、試させろよ?な?……“哀音”」
空色の光がリオンから放たれ、2つの扇にまとわりついた。
「Let's play disharmony without the opening!(始まりのない不協和を奏でよう!)」
不気味に、楽しそうに嗤うリオンに3人は攻撃した。
全ては嘘を見抜くため、あの日のように笑い合うために。
あと、あと少しぃいいい〜!頑張ります。
次は戦闘じゃないんで構えなくてもokです。
次回は土曜の予定です。




