第2戦:子供はもう寝る時間だぜ?
ーピュゥー
黄色い月が暗くなった世界を照らす夜。あるマンションの屋上に人影があった。
その人影は吹いている風が心地いいのか、目を閉じている。
「………かまいたち」
ーピュゥ!ー
人影の、いや、彼の声に反応したかのように風は止んだ。
そして、彼が目を開ける。と、
ーブワァァ!ー
彼を中心に風が波紋を描いて吹き出した。その風を肌で感じ、彼はニヤリと笑った。
「“かまいたち”かぁ〜いいな〜」
その声に彼が後ろを振り返ると屋上の扉の所に一人の小さな少女と青年がいた。彼はからかうように少女に言う。
「子供はもう寝る時間だぜ?まだ起きてんのか?」
「何言ってんの!私は子供じゃないもん!」
そう少女は両頬を膨らませて怒った。それに少女の隣に立つ青年はクスクスと笑いながら彼女の頭を優しく撫でた。
「勇馬だってマヤにそんな事言えないんじゃないか?」
青年の言葉に少女は「そうだそうだ!」と同意するように叫ぶ。
それに勇馬と呼ばれた彼は分が悪そうに顔をしかめた。
彼は黒のショートでその髪をオールバックにしている、白刃 勇馬。彼は春や零達と同じく七星野学園の生徒だ。あと、高2である。だが今は下校後。なので服はフード無しのパーカーにコート、長ズボンにスポーツシューズというラフな服装だ。
「んだよサツキ。お前はそいつの肩持つのかっ⁈」
「そういう訳じゃない。俺からしてみれば2人共、子供だからな」
「サツキも見た目、子供だけどね!」
「ナイスマヤwww」
サツキと呼ばれた青年は困ったように笑った。
サツキは銀の長い髪を首根っこの辺りでポニーテールにしており、両耳にしずく型のピアスをしている。服はユタっとした淡い青の着物で灰色のブーツ。本名は神龍津 咲。だがあまり皆はサツキを本名で呼ばない。まぁ、理由は後々分かるであろう。
そして、サツキの瞳の色は真っ赤だ。
一応、サツキも七星野学園の関係者だ。生徒、という訳ではないが。
もう一人のマヤと呼ばれた小さな少女は金だが少しブロンドのかかったボブヘアーで右目が緑、左目が青のここでは珍しいオッドアイだ。服は黒よりも白がふんだんに使われているゴスロリドレス。ちなみに靴は4cmの厚底ブーツである。本名はマヤ・久理乃・ローテル《マヤ・くりの・ローテル》。身長が低いことが今の悩みらしい。130cmであるマヤはこう見えて勇馬達と同じく七星野学園の生徒で中等部所属だ。
「でも勇馬はいいなー能力、“かまいたち”でしょ?私なんか今だ分かんないし」
気にするようにマヤは言い、夜空を見上げながら勇馬の所へ歩み寄る。
「その内分かるだろ?いつもお前は“アイツ”と一緒に居たんだ。もう覚醒してて自覚がないだけなんじゃないか」
勇馬が両腕を組んで言うとマヤは納得したようににっこりと笑い、勇馬に抱きついた。
「!いきなり抱きつくなっ!」
「えーだってなんか嬉しくて?」
「疑問形じゃねぇか!」
そんなこんな勇馬とマヤが言い争っていると2人の元にサツキもやって来た。
「ほら、そろそろ帰るぞ。近所迷惑になりかねないし」
「「うわクソ真面目ー」」
「変なとこでハモるなっ!てか常識だろ常識!」
的確なツッコミがよく飛ぶ。
3人は自分達のしていた会話の内容の低さに笑い出した。
ーーそこまでは平和だった。そう、“いつも通りに”。
ヒラヒラとピンク色の蝶が3人の頭上に現れ、ピンク色の鱗粉をまいた。
「「「!!!」」」
それに気づいた3人は途端に身構える。ピンク色の蝶は3人から離れ、そして砂のように散って消えてしまった。
あの蝶は“よく見ていた”から知っている。あれは……
「おや〜今夜は3人だけ、ですか〜?」
口調がエロい。てかウザい。そんな声を聞き、3人はさらに身構えた。
「……メンドクサ…」
「何よ!このアタシの言うことが聞けないの?!」
聞いたことのある別の声が2つ、響く。怠そうな感じの声と命令口調の少女の声。
3人は3つの声の主を見た。
「久しぶりだな。色欲、怠惰そして傲慢」
次はバトルしますよ!