第21戦:罪VS?
「……モヤモヤする…」
「「「「は?」」」」
水の言葉に皆は動きを止めた。
いや、モヤモヤするってなんですか。ええ?!
「何、どうしt「スイにもついに春が来たの?!」…ツキ、違うと思うから落ち着こうか」
練が問おうとしたのを目をキラキラさせた月が遮ったのでとりあえず座れと月を椅子に座らせる。
「…で、なんなのスイ」
練が机に頬杖をついて言う。蜜や唄は机に人数分のコーヒーが入ったコップを置いて座った。
水は一度、視線を彷徨わせた後、言った。
「………なんか、モヤモヤするんだよね……ツキが言ってる……ような奴じゃなくて…」
それに月が「ええー?!違うのぉお?!」と机の上に伸びたが放置しよう。
水が続ける。
「……なんか、合ってないから…モヤモヤする…」
「そうですか〜。なんででしょう〜?」
蜜がコーヒーを一口飲んで言う。唄や練には何故、水がそう言うのか心当たりがあるようだ。
「もしかして、彼の言葉が引っかかっているのですか?」
「………多分……?」
「なんで疑問系なのよ」
唄の問いに水が自信なさそうに答えた。
唄が言う彼とはこの前練が会った青年のこと。あの青年は咲であるが皆は知らない。皆にとって彼は謎の青年だ。
「…確かに、あの言葉は少し引っかかるけどね」
練が言う。月が面白そうに笑ってコーヒーを飲む。
青年の言葉を聞き、皆に教えたのは練だ。練は一文字も間違えず言葉を記憶することができるので練が言った言葉に偽りはないと皆確信していた。
「引っかかりますか〜?私はそんな気はしませんね〜」
蜜が言い、唄に同意を求めて隣に座る彼を見た。唄は同意を求められて動揺したようだったが顎に手を当てて考えた。
「そうですね…。私もミツさんと同じで引っかかりませんね」
「あら〜じゃあ意見が割れちゃったわね」
唄の答えに今だどちらにもついていない月が言った。
「青年の言葉に引っかかるスイとレン。青年の言葉に引っかからないミツとウタ。正しい答えはどっちかしら」
月が机に両腕を組んで言う。意見の割れた男達を見る彼女はまるで裁判長のようだ。
「これが狙いだったのかもね」
「なにが?」
月の呟きに練が問う。彼女はクスリと嗤って言った。
「彼の狙いよ。アタシ達を狂わせたかったのかもよ?」
「……じゃあ、敵……?」
水が言う。それに月はいいえと首を振る。
「敵と決まったわけじゃないわ。そうねぇ…じゃあもう一度、彼の言葉を思い返しましょう。なにか分かるかもよ?」
アハハと楽しそうに嗤う月に男達は少し動揺した。
いつもの彼女はワガママで自己中心的。だが今日はそんなそぶりがない。不思議だ……いや、怪しい。
「それではレンさん。彼の言葉をもう一度教えていただけますか?」
月に疑問を持ちながらも唄が練に言う。練は頷き、青年が言った言葉を口にした。
「『見える敵が全てではない。その見える後ろに本当の黒幕が息を潜めて立っている。それをお前達が気づかないことには何も始まらない』……だよ」
やはり、この言葉に引っかかるのは水と練だけのようだ。いや、違う。もう一度聞いた蜜と唄は思い直したようで考え出した。
「どうかしら?」
月の問いに蜜と唄は頷き、言った。
「スイとレンさんの言う通りですね〜何かが引っかかります〜」
「でしょ……」
じゃあ…と言って立ち上がる月。
「引っかかるで決定ね。意味を考えることね、アンタ達d「ちょっとお待ちください」…?」
月のセリフを遮り、唄が言った。月はセリフを遮られたのが腹にきていたがそれより唄の次のセリフが気になった。
「なぁに?」
「………あなたは誰ですか?」
「へ?何を言ってるの?アタシは月様よ?笑わせないで」
月が淡々と言う。が次の水の言葉に彼女は固まった。
「………ツキは…コーヒーなんか飲めないよ…」
「くっ」
彼女の顔が歪む。
そうなのだ。本来の月はコーヒーが飲めない。今日は彼女が好きなカプチーノがなかったために埋め合わせでコーヒーを出していただけだ。だが彼女はコーヒーを一滴も残さず飲んだのだ。
「傲慢に成りすますお前は誰だ?」
練が立ち上がり、いつのまに持ったのか左手に持った刀を言い訳が思いつかず、立ち竦む彼女に向ける。他の皆も武器を持って立ち上がる。彼女は月の皮を被ったニセモノ。それだけでも彼らにとっては腹立たしいのにニセモノの言葉で青年の言葉の引っかかりに気づいたこともまた、腹立たしかった。
「さっさと正体を明かす方が身のためですよ〜」
「まぁ命の保証まではしませんが」
蜜と唄が言う。皆はニセモノを中心に囲む。ニセモノの月はうつむき、命乞いをすると思われた。だって、握られた両の拳が震えていたからだ。
「……命乞いをするなら今のu「ハハハハッ!!!」!」
突然、ニセモノは天井を仰いで大きく嗤い出した。皆は驚いた。何故、何故こんな危機的な状況なのに嗤う?
「ハハハハハハ…ハァ…可笑しなものだ。ニセモノだと暴いたのは褒めてやろう。だが」
ニセモノを雪の結晶が包む。それで皆はニセモノの正体に気づく。お前は……。
「あいつの言葉に気づかないとは“七つの大罪”の名が泣くぞ?」
雪の結晶が晴れ、微かな寒さがこの空間を支配する中現れたのは。
「…え……?…ゆ……雪?」
水が驚いた調子のまま、呟く。
そう、現れたのは“七つの大罪”の一つ、憤怒の罪、雪だった。
「面白いことになりそうだな」
そう言って彼は嗤った。




