第15戦:そろそろ起きましょう
ーガキンッ!ー
マヤと唄の武器が交差する。マヤはくるっと空中で一回転して着地した。すると哀が続けて唄に薙刀で攻撃する。無防備な哀の腹に右足の蹴りをお見舞いする唄。
「カハッ」
哀が思わず痛みで体を二つに折る。その背に左のシルバーナイフを叩きこもうと唄が左腕を振り上げる。
「我が意志に従いし地獄の業火よ、奴を焼き払え。地獄業火!」
ボゥ!と赤い赤い、熱そうな炎の渦が唄に襲いかかった。それに気づいた唄はとっさに後方へ飛び、回避しようとした。が、
「させないヨ?アハハ」
カクンと哀が薙刀で唄の足を引っ掛けた。唄は見えない床にぶつからないように一回転して着地するが、鈴都の放った魔法はもう、目の前まで迫っており、かわすことは困難であった。
「っ…」
唄に炎が向かい、彼を包んだ。地獄から噴き上がってきた業火は死ぬことがない唄の体をも焼き払おうとする。炎が消えるとそこには顔や首に火傷を負った唄が片膝をついていた。服も所々焼けており、下の肌が黒く焼けているのが分かる。
「3対1なんて、勝負も決まったようなものだネ」
哀が薙刀の切っ先を唄の首元につけ、言う。
「ホンマやな。でも、一人やないんやろ?ウタ」
鈴都の言葉に「「えッ」」とマヤと哀が声を上げる。鈴都は魔導書を光属性の魔導書に変えながら言う。
「こんな大掛かりな幻術、ウタが出来るわけないやろ……ミツ!いるんやったら出てきぃ!」
鈴都が叫ぶ。とピンク色の蝶がどこからともなく現れた。その蝶はヒラヒラと唄の元へ寄ると蝶は一瞬にして男性の姿になった。手には大鎌、服はホストが着るようなもの。そう、彼は蜜だ。そして、あのピンク色の蝶は蜜が扱う幻術の蝶だ。
「おや〜よくお分かりで〜さすがですね〜リン」
「お褒め頂き光栄やなぁ」
目を細めて笑う蜜と面白くなさそうに笑う鈴都。
唄が再び、両手の指と指の間にシルバーナイフを挟め、準備満タンであることを示す。
それに哀は急遽、後ろに下がった。突然、攻撃されてはたまらないからだ。
「これで2対3、ですね」
唄が立ち上がり、言う。
「リンがミツを見破ったのは凄いけど…どうするの!?」
マヤが斧の取っ手を握り締め、叫ぶ。
「とりあえず、サクッと倒そっカ!」
「そやな」
2人の意見にマヤは頷く。そして、哀と共に2人に武器を振りかざしながら、襲いかかった。
「ウタさん、行きますよ〜」
「承知です」
2人も2人の攻撃に備え、そして、4人は武器を交差させ合う。
マヤは足りない身長差を埋めるように凄まじいジャンプ力で何度も何度も蜜に攻撃する。それを彼は余裕で大鎌で防ぐ。
一方、哀は唄と力の押し合いになっていた。武器と武器が擦れて、武器の間で小さくチリチリと火花を放つ。
「光の恩恵を今、放つが良い。神聖不滅!」
唄と蜜に向かって光の柱が降り注ぐ。マヤと哀はそこに2人を押し込む、が。
「甘いですよ」
「見え見えですね〜」
唄は哀を弾き飛ばして、柱から逃げ、蜜は一瞬だけマヤに向かって小さな幻術を放ち、その隙に逃げた。
「っ!くそっ」
鈴都の魔法は消えた。
哀が彼の元へ来て、体制を整えようとした。
「………くっ……い、痛い…」
「「マヤ?!」」
鈴都と哀、唄と蜜のちょうど間の距離の所にマヤが左脇腹を押さえて倒れていた。よく見ると血が滲んでおり、さっき蜜が逃げる時に攻撃したようだった。
「チャンスです〜」
自分が作ったチャンスにクスリと嗤い、蜜が倒れているマヤに向かう。
「アイ!」
「分かってるヨ!」
哀がマヤの救助に向かうが唄に先を阻まれてしまい、向かえない。
鈴都は魔法を唱えようと試みるが、もう蜜はマヤの手前まで近づいており、とても間に合いそうになかった。
「「マヤ!!」」
マヤの顔が恐怖で歪む。蜜の攻撃に備えてかマヤは痛む左脇腹を庇いながら斧を蜜に向けた。がそれは無意味だった。少し手前から放たれた大鎌の攻撃で斧は軽く宙を舞い、マヤから離れてしまったからだ。
マヤが驚く。蜜はそんなマヤに向かって大鎌を降った。
哀は唄の攻撃を受けながら、鈴都は兎に角魔法を放とうとしながらマヤに襲いかかる恐怖を見ていた。
嗚呼、また。私は皆に迷惑をかけちゃってる……あはは…迷惑な子だなぁ私。
『そろそろ、“僕”にも出させてくれよ』
うーん……でも君はウタの力がないと出れないんだよ?どうやって?
『こう、するのさ』
「おい、“こいつ”は女なんだ。手加減してやれよ」
「!!??」
ブンッと何かが蜜を頭上から襲った。それを紙一重でかわし、蜜はその正体を見て驚く。
「!…ま、マジですか〜!!??」
その正体はマヤの頭上にある大きな大きな斧だ。さっきまでマヤが使っていた斧がそのまま大きくなったらしい、リボンが着いている。
「マヤ!」
「よかった…」
哀と鈴都が安堵する。哀が唄を弾く。唄は蜜の所にやって来てマヤを見た。彼は蜜よりも驚いており、そして、嬉しそうに笑っていた。
「久しぶりの外だ。さぁ、“こいつ”が秘めていたこの能力と“覚醒”をとくと味わえ」
そう言ってマヤは口元を歪めて“嗤った”。