第12戦:切り裂け、その鎖をⅠ
情報交換をした次の日。
今日は休みだ。
朝、皆で朝食を取った後はゆっくりと過ごしていた。何度も鈴都の家に遊びに来たことが皆あるのでもう第二の家状態だ。まぁ、鈴都や彼の両親が「自分の家だと思って過ごしてね」と言っていたのだからいいのだろうけれど。
「サツキー髪結んであげるー!」
「あ、私もやるぅー!」
未来とマヤがいつも同じ髪型のサツキの髪を違う感じに結んであげようと言った。サツキは驚いたようで両耳にしているしずく型のピアスが大きく揺れた。
「はぁ?!い、いいよ別に」
「やって貰ったらいいじゃねぇーか。なぁヴァーク」
勇馬がサツキにやって貰えとつつきながら近くでそれをソファで座って見ていたヴァークに振った。
「嗚呼、俺もそう思う」
ヴァークがおかしそうに笑って言う。それにサツキは「えー」と少し嫌そうに呟いた。
「よし!ヴァークの許しも貰ったし!サツキ覚悟しろぉー!」
「ろぉー!」
途端に未来とマヤが逃げられないようにサツキに抱きつく。サツキは呆れながらも承諾し、椅子に座った。
「ネェー僕、ヒマァア。ハルートランプやろぉ」
哀がテーブルの上で腕を伸ばして反対側にいる春に言うと彼はめんどくさそうに顔を引きつらせた。
「………めんどくさ…」
「いーじゃん。やろうぜハル」
春の背後から零が抱きつきながら言う。すると鈴都も彼の後ろにやって来てトランプの箱を見せた。それにゲッと春はなった。前を見れば哀がソファの足掛けを背もたれに「やろぉー」と誘っているし、背後には零と鈴都。逃げられないと諦めた春ははいはいと頷いた。
「………いいよ。やろ」
「やったー!じゃあババ抜きネ!」
哀が嬉しそうに笑い、鈴都からトランプを受け取る。そして、春、零、鈴都、哀はトランプを始めた。勇馬とヴァークは会話をし始め、未来とマヤはサツキの髪をどうするか話し始め、当の本人はそれをまんざらでもなさそうで。
とても、平和で平穏な時間だった。
あの異変さえ、起きなければ。
「ん?アレ?」
突然、未来がサツキの髪結びから手を外し、くしを持った右手と逆の左手で左目をゴシゴシとこすり始めた。その異変に気づいたサツキが彼女を振り返り、声をかける。
「大丈夫か?」
「うん…なんか左目が見えずらくて」
「ミク大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!」
未来の異変にマヤも心配になる。すると、トランプをしていた4人の中でも異変が起きた。
「ん?……っ……っ!!」
「レイ?……どうしたの…?」
喉を抑え、苦しそうにしている零に春が問う。
「……こ……えが……出な……い……っ」
「!大変やん!すぐ、病院行かんと!」
声が出ないと言った零。演技ではない、本物。鈴都が大慌てで病院に行こうと言う。
「オイオイ、リン。慌てすぎだろ?一時的なもんかもしんねぇし。なぁヴァーク……ヴァーク?」
勇馬が反応しないヴァークの顔を除きこむと彼は右目を抑えて、恐怖に震えていた。
「え?ヴァークどうしたノ?!てかこんなに一斉に!?」
哀がトランプをテーブルの上に投げ捨てて立ち上がり、ヴァークを心配すると共に叫ぶ。
そうだ。哀の言う通りだ。こんな一斉に異変など起きるものなのか?空気感染やテロとかだったらありえる話だが。
「……………え、なんで……なんで?!」
突然、春が叫ぶ。それに皆が視線を向けると彼は両手で自らを守るように両肩をだいていた。
「……ハル?どうし…っ!」
サツキが問い、途中で気づいた。皆もだろう。
彼の足、両足がピクリとも動かないことに。さっきまで動いていたのに突然動かなくなった。
「可笑しいってコレ…!!」
マヤが叫ぶ。と、今度は勇馬に異変が起こった。
「ちょっ?!腕が凍ったみたいに動かねぇんだけど!?」
勇馬の両腕が春のように動かない。両者とも、動かそうとしているが動かない。未来とヴァークの片目の視力もどんどん落ちているようで未来が怯えたように慌て始めた。零は声も今だ出ず、苦しんでいた。
「何がどうなって?!」
サツキが自ら首根っこ辺りで髪を結び、立ち上がる。
「と、とりあえず病院!」
鈴都が叫ぶ。とその時
「おやおや…中々の見ものですね」
という声と共にギィ…とリビングの扉が勝手に開いた。そして群青色の煙がバァァアと中に入り込み、皆を襲った。
気づいた時、そこは暗い暗い空間だった。
鈴都とマヤ、そして哀以外の全員が遠くの所におり、見えない壁があるらしく、その中でまだ異変が起きていないサツキがそこから出ようと壁を叩いていた。とても慌てている。何故なら背後には鎖で縛られた仲間がいたから。皆、異変が起きた所に鎖が集中して巻きついている。
「!!早よ助け出さんと!」
鈴都が叫び、そちらへ行こうとした時、サツキが3人の背後を指差した。3人はなんだ?と振り返った。そこにいたのは…
「「!!」」
鈴都が右手を前に出すと小さな薄い紫色の蝶が一羽現れ、その指先に止まった。するとそれはポワンと音を立てて魔導書となり、彼の手に収まった。
哀は右手を横に出す。するとそこにシャボン玉が集まり、ある物、薙刀を作り出す。そして、薙刀は彼の手に収まった。
大罪武器を手にし、緊迫した様子の2人を尻目にマヤは喜んでいた。何故なら……
「唄!やっと来てくれたんだ!」
何故なら、そこにいたのはマヤの罪だからだ。
唄と呼ばれた男性は群青色のショートで首根っこ辺りが内にはねている。服は黒の燕尾服に黒革の靴。まるでどこかの貴族に仕える執事のようだ。彼は強欲の罪である。
マヤは着ているフリルたっぷりの白いワンピースの、スカートに見える短いズボンを両手で軽くつまみ、軽くお辞儀し、言った。
「また会えて嬉しい!私、ウタに言いたい事出来たから、会えるの楽しみにしてたんだよ!」
マヤの行動に鈴都と哀はどうするべきか迷うが、彼が自分達を見逃してサツキ達の元へ行かせてくれるわけもないので少し様子を伺うことにした。
多分、目指してる一日一話投稿。