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ポンコツヒロインシリーズ

悪役令嬢らしいのですが……性分ではないので別の方向で協力したいと思います。

作者: 紫音

「転生ですか。それは大変でしたね」

「そうなんです。わかっていただけましたか?」


インフルエンザから復帰し、久しぶりに登校した日。

私、『天月あやめ』は私が病欠していた間に転校してきたらしい少女『飯塚ひなた』さんと一緒に学園内に設置されたカフェテリアで紅茶を楽しんでいる。

彼女が言うにはこの世界はある乙女ゲームの世界に酷似しているそうだ。

そして、彼女はヒロインで私は攻略キャラを彼女と奪い合うライバルキャラの悪役令嬢らしい。

自分でヒロインと言ってしまうあたり、少し心配になりますけど、飯塚さんは確かにヒロインと言いたくなるくらいの可愛い容姿をしています。

そのせいか、先ほどから多くの男子生徒の視線を感じますから。


「そうですね。なんとなく、わかりましたけど、あなたは私が悪役令嬢に見えます?」

「……見えないから困っています。ドリルみたいな髪型でもないですし」

「ド、ドリルですか? マンガやゲームの悪役令嬢ってどうして、ドリルみたいな髪型なんでしょうね。大変だと思うんですけど」

「ですよね。朝から、あの髪型をセットするなら、ゆっくりと眠っていたいです」

「そうですね。寒くなってきていますから、お布団の中は至福です……どうかしましたか?」


すべてを信じられない物の彼女の様子からは嘘を言っているようにも見えず、彼女に私の印象を聞いてみる。

確かに私の実家は古くから力を持っており、政界などにも睨みを聞かせられるような裕福な家である。

しかし、私には悪役令嬢と言われるような性格の悪さは持ち合わせていない。

祖父や父が権力者であろうが、私自身はただの高校生であり、特別な権力など持っていないし、悪い見本を見ていたせいか家の権力を盾にわがまま放題などしたくない。

家はお兄様が継ぐだろうし、結婚相手は政略結婚になるだろうけどそれでもそれなりに相手を好きになりたい。

私は……あんな奴、ごめんだ。


飯塚さんは私の事が悪役令嬢には見えないで困り顔である。

他人を困らせる趣味もない私は彼女の言葉に冗談をかぶせると彼女は大きく頷いてくれた。

ころころと変わる彼女の表情はとても新鮮で私の表情も自然に緩んでしまう。

実家が権力を持っているためか、近づいてくる人間は裏がある人間も多いのだが初めて会ったにもかかわらず、ひなたさんの側はすごく居心地が良い。

そんな事を思っている私に彼女は不思議そうな表情をしている。


「天月さんは不思議ですね。普通に話を聞いたら、私、ヘンな子なのに」

「そうですね。ただ、私には飯塚さんが嘘を言っているようには見えないので、ただ、飯塚さんの言う世界とは誤差があるみたいですね」

「そうなんですよ。だから、凄く困っています。狙っている男の子がいるんですけど、その、ライバルキャラである天月さんが良い人なので」

「それは私が悪役令嬢なら情けをかける事無く、叩き潰すと言う事でしょうか?」


飯塚さんもゲームの世界に転生と言うものをした事に戸惑っているようで小さく身体を縮める。

その様子からも彼女が嘘を吐いているように見えないが、ころころ変わる彼女の様子に少しだけ、意地悪をしたくなった。

表情を引き締め、視線を鋭くして見ると飯塚さんは慌てて首を横に振り、その様子にすぐに笑いが込み上げてきてしまう。


「からかうなんて酷いです」

「ごめんなさい。あなたの表情がころころと変わるのがかわいらしくて、つい。それで、それなら、どうしましょうか? 協力はして差し上げたいですけど、私は正直、飯塚さんの言う悪役令嬢を演じられる気はしませんけど」

「私も無理だと思います。それに、私、天月さんとは仲良くしたいです」


頬を膨らませる彼女の姿に協力をしてあげたいと思う。

それでも、悪役令嬢と言うには私にも今まで積み上げてきた友人関係がある。

いきなり、悪役令嬢などを演じればその方達にも迷惑がかかってしまう。

私の考えている事は飯塚さんもわかってくれたようで頷いてくれた後、気恥ずかしそうに笑う。


「そうですね。私もひなたさんとは仲良くして行きたいですね」

「ひ、ひなたさん!?」

「どうかしましたか? お友達になったのですから不都合はないでしょう。私の事は好きに呼んでください」

「好きに……あやちゃんでも?」

「問題ありませんよ」


彼女が私と友達になりたいと言ってくれた事に勇気を出してひなたさんと名前で呼んでみる。

ひなたさんは驚きの声を上げるが割と柔軟なようで遠慮なしにあやちゃんと呼ぶ。

ちゃん付けで呼ばれた事など今までなかったので戸惑うかとも思いましたが、私の口からは自然に了承の言葉が出て行った。


「それでは悪役令嬢としては手伝えませんが、お友達としてひなたさんの協力できる方法を探しましょう。それでひなたさんの想い人はどんな方なんですか?」

「あ、あのね。凄く言い難いんだけど……桜峯ゆ」

「その方はおやめなさい」


ひなたさんの想い人を知らなければ協力はできないと考えて、聞き出そうとしたのだがひなたさんの想い人は私が嫌悪する男の名前であり、言葉をさえぎってしまう。

『桜峯裕翔』。天月の家と肩を並べるくらいの名家の後継者で私の元婚約者(幼馴染)……あの男だけはダメだ。親の権力を盾に好き勝手な事をする性悪男。


「そ、そうだよね。あやちゃんの婚約者だよね」

「……気持ち悪い事を言わないでください。あんなのが元婚約者なんて、人生の汚点でしかありません。ゲームの世界ではどうだったかわかりませんが、あのような男性とは縁を結ぶ価値などありません」

「そ、そんなに酷いの?」

「最悪です。学内でも王子様扱いされているようですが、ただのわがままなだけです。他人の事が思いやれないような下種。あれが桜峯の家を継いだら、きっと、由緒正しい桜峯家も潰れてしまうでしょうね」


ひなたさんの言葉に私の奥底にあるトラウマが溢れ出してしまう。

表情に出てしまったようでひなたさんは腰が引けているようにも見える。

私は自分を落ち着かせようと紅茶へと手を伸ばし、一息入れるとあのクズの人間性の悪さを彼女に滔々と聞かせてしまった。


「そうなんだ。憧れの王子様だったのにな」

「夢を壊してしまい。申し訳ありません。ただ、私にはひなたさんが傷つくのは我慢ができませんので」

「良いよ。あやちゃんが言うんだから、間違いないだろうし。それなら、どうしようかな? 他の攻略キャラってあまり好きじゃなかったんだよね。だから、攻略ルートも覚えてないし」


ひなたさんは私の話を信じてくれたようで残念だと言いたいのか、テーブルに突っ伏してしまう。

彼女の落ち込みように悪い事をしてしまったと思うが、お友達が傷つくのがわかっていては薦められない。

表情に出てしまったようでひなたさんは笑顔で私を励ましてくれるが、やはり残念に思っているようであり、小さく肩を落としている。


「それなら、新しい出会いを探してみてはどうですか? ゲームとは誤差があるようですし、もっと良い出会いがあるかも知れませんよ」

「そうだね。それにあやちゃんみたいなお友達もできたし。しばらくは女の友情を楽しむよ」


ひなたさんを励まそうとするが、すでに彼女は割り切っているようで笑顔で嬉しい事を言ってくれる。

その表情に私はちょっときゅんとしてしまったのだが、同時にこんな事を考えてしまった。


















……百合エンドって無いですよね?


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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒロインと悪役令嬢のキャッキャうふふ…だと…? 何それみたい(真顔) [一言] 初めまして!
[一言] ヒロインと悪役令嬢の仲良しこよしキャッキャッウフフ・・・ 最高です(真顔)
[一言] オチに笑ってしまいましたw つかこの悪役令嬢役さん……記憶が無いけど前世は男でした……とかじゃないですよね?
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