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転校生編6 妹の将来のために


 誰もいない空き教室に俺達は移動していた。

 ここへ来る途中授業開始のチャイムが鳴ったが今はどうでもいい。ここなら誰にも聞かれることなく話が出来る、さらに今は授業中で人が来る心配もない。


「単刀直入に言おうか、君では彼女を幸せできない」


「いきなり何言ってんだお前?」


「分からないのかい? ではわかりすく言おうか……君では、『魔王』には彼女を幸せには出来ないと言っているんだよ」


『魔王』、その単語を聞いた瞬間に俺は顔をしかめる。

 やっぱりこいつどこでこのことを知った?


「魔王? 冗談はよしてくれ、だいたい魔王は大戦で――」


「倒された。そして魔王には跡継ぎがおり、その跡継ぎを秘密裏に霧島家は育ててきた……違うかい?」


 なるほど、どうやら全部知ってるみたいだな。


「どうやって調べたんだ? このことはまだ両親と冬香しか知らないはずなんだけどな?」


「簡単さ、うちの情報網を使えばわけないよ。それに君が魔王の子であるということはいつか分かることだからね。君は自分の魔力が日に日に高くなっていることに気づいてないのかな?」


 シエルのいうように俺は最近自身の魔力が高くなっていることは知っていた。そしてそれが魔王の力の影響であることも。


「それで、俺が魔王でなんで冬香を幸せに出来ないことに繋がる」


「やれやれ……君は一から説明してほしいのかな?」


 ため息をつきながら、シエルは頭を抱える。


「まず魔王と勇者が一緒にいること自体間違いなんだよ。彼女の才能はこんなところじゃ十分に発揮できない、彼女はもっと高みを目指せる才能を持っている。それを生かす方法は一つ、僕のようにエリートのような者と一緒になることですよ。彼女の足を引っ張っているのは君だよ――秋斗」


 シエルの言葉は俺の心に深く突き刺さるように聞こえた。まるでナイフのようにグサリと刺さる感じだった。

 俺が冬香の足を引っ張っている? 冬香は何でもできる。確かにこいつの言うとおりこの学園ではなく、もっとエリート達が通う学校に行ったほうがいいのだろう。俺がこの学校を選んだとき、冬香も迷わずここを選んだ。他の学校から推薦も来ていたのになぜか、俺と一緒の学校を選んだ。


「君が彼女の傍にいるだけで、彼女の将来は閉ざされていくんですよ? 流石にもう分かるでしょう? 彼女の傍にふさわしいのは君ではなく、僕だと」


 俺はこぶしを握り締める、悔しさが溢れるのが分かる、でも何も否定できないのが事実だった。


「で、でも俺達は兄弟だ! 俺はあいつの一番の理解者だぞ!」


 16年も俺達は一緒に暮らしてきた。あいつのいろんなことを知ってる。一番の理解者だと思っている。


「ええ、とてもすばらしい絆だと思うよ君たち兄弟は。ですが君は魔王、彼女は勇者ですよ? ましてや血すら繋がっていないのに兄弟と呼べるかい?」


「くっ……! 血とかそんなの関係なく俺達は兄弟なんだよ!」


 そうだ、俺達は兄弟。魔王とか勇者とか関係ない。昨日だって俺はそう冬香に言った。


「くどい!」


 シエルの大きな一言が教室に響き渡る。俺はその声を聞くと少しビクッとするように驚く。


「いい加減自覚をしないか、魔王ごときに彼女は幸せに出来ない。それはただ彼女を不幸にするだけだ……彼女を、冬香さんを幸せにするのは許嫁である僕ですよ」


 そう冷たく言い放つとシエルは扉を開け、教室から出ていく。


「私が彼女を必ず幸せにします。あなたの出る幕は最初からないんですよ魔王……では」


 去っていく足音だけが教室に静かに鳴り響く。そして残された俺はその場に崩れ、床を殴る。


「ちっくしょう! 俺が……足を引っ張ってたのか……そうなのか? わかんねえよ畜生……なんで俺は魔王なんだよ……俺はあいつを幸せに出来ねえのかよ!」


 悔しかった、だから叫んだ。でも何も変わらなかった。ただその悲しい叫び声が寂しく教室にこだまするだけだった。




 日は傾き夕方、授業はすべて終わり下校していく者がちらほら見える。俺は外をぼーと見ている。あの後以降ずっとこの調子だ。

 俺は一日あいつの言っていた事を考えていた。冬香の将来を考えるならあいつと婚約したほうがいいのだろう。でもあいつは婚約はしないと言っていた。でも……あいつのためを思うなら――俺は一体どうしたらいい?


「おーい秋斗、授業終わったぞー」


 健が目の前で手を振りながら話す。


「分かってる……」


「お前メガネと話してからずっとこの調子だなー大丈夫か?」


「なあ健、冬香のそばに俺がいるのはよくないのかな」


 健は何言ってんのこいつという顔で俺を見ている。


「まあ兄離れしないといけないとは思うが……それよりどうしたんだお前? そんなこと聞くなんてやっぱりあのメガネになんか言われたのか?」


「そうか、やっぱりそうだよな」


 そう言うと俺は立ち上がり、鞄を持つと教室を去ろうとする。やっぱりあいつのためを思うなら……


「ちょっと秋斗!! 大変よ!?」


 するとそこに慌てた様子でアイリスが走ってやってくる。こいつがここまで慌てるのは珍しいな。


「お前らしくないなーアイリス、どうしたんだ?」


「健の言うとおりだ、まずは落ち着け」


 呼吸を落ち着かせると、アイリスはとんでもないことをいいだした。


「これが落ち着いていられるわけないでしょ! 冬香ちゃんがね……シエルと結婚するって、さっき言ってたのよ!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は反射的にアイリスの両肩を掴み問いかける。


「どういうことだ!? 冬香は婚約しないって言ってたはずだ!!」


「落ち着きなさい! 説明するから!!」


 アイリスに叱られ、肩から手を離すと心を落ち着かせる。


「落ち着いた? 実はさっき冬香ちゃんが悩んでそうな顔してたから心配になって後を追ったのよ」



 それはつい先ほどのことだ、アイリスは下校の準備をし廊下を歩いていたところだった。

 そこへ見慣れた後ろ姿が目に入る。そう冬香だ、その顔は複雑そうな顔をしていおりアイリスに気づかないまま階段を上がっていく。


「あれって冬香ちゃんよね? あんな顔しちゃって……まだあいつと喧嘩してるのかしら?」


 その様子をみてアイリスがため息をつくと。


「まったくしょうがないわねー」


 アイリスは冬香の姿を追っていくすると、そこにもう一人知った人物、そこにいたのはシエルだ。なにやら冬香と話している。


(げ、金髪メガネ! あいつもしつこいわねー)


 その様子を壁の角から見るアイリス、幸い二人には姿は見えてない。ちょうど話し声も聞こえる。


「私が勇者だって知ってるの?」


「ええ、勿論秋斗のこともね」


「そう、で? 私にそれ言ってどうするの?」


「別にどうもしませんよ……ただ、秋斗が魔王だとはまだ世間に知られていないみたいだね?」


(え? 冬香ちゃんが勇者!? 秋斗が魔王!? どういうこと!?)


「何が言いたいの?」


「いや、魔王だと知られたら大変だと思ってね。魔王と分かれば彼は世界から狙われるだろうからね。いやあ苦労してるよ彼は」


 シエルは笑みを作りながら喋る。その顔を冬香は睨みつけている。アイリスもまさかの出来事に驚きを隠せない。


「脅してるの? 最低ね……!」


「まさか、僕は世間に話すなんて一言も言ってないよ君の勘違いだよ」


「分かったわ、あんたと結婚してあげるわよ……」


「おや? どうしたんだい急に、今まで嫌だといっていたのに」


「ただ、お兄ちゃんが魔王だってことは言わないことを誓って。それが条件だからね」


「言うなんて言ってないんだけどね……まあいいや、誓おうじゃないか花嫁の願いなんだから」


 冬香は歯を食いしばり悔しそうにしていた。兄を助けるために、シエルとの結婚をすることにする。


(これってかなりまずい事態じゃない! 早くあいつに伝えないと!)


 アイリスはここまでの会話を聞いたところで、秋斗がいる教室へと急いで向かった。

 手遅れにならないまえに、早く兄である秋斗に知らせなくてはと。


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