転校生編5 妹の心が分からない今日この頃
次の日の朝。俺と冬香は朝食を食べていた。しかし楽しそうな会話は一つもない。
「な、なあ?」
「何? 『秋斗君』」
朝からなにやらぴりぴりした空気を漂わせる。
昨日の脱衣所での出来事のあと、冬香は俺をお兄ちゃんではなく『秋斗君』と呼んでいる。これは冬香が怒っている証で、昔から怒らせると呼び方が変わる。
「いい加減機嫌直してくれよ……な?」
「怒ってないし。 秋斗君には関係ない」
そっぽを向き、俺と顔を合わせてくれない。完全に不貞腐れているのが分かる。
「いや絶対怒ってるよな?」
「怒ってない」
「いーや怒ってる」
「だから怒ってない!」
冬香が箸を音が響くほど強く置くと、そのまま立ち上がる。一体なんで怒っているのかまったく分からない。
見たことは謝罪したけど、ほかに何か原因あるのか? こうなったら物でつるしかないと考える。
「なにをそんなに怒ってんだよお前は……謝るだけじゃ駄目か? だったら今度――」
「ねえ秋斗君……本当に私の裸見たくなかったの?」
「――駅前のシュークリームを買ってやる……はぁ!?」
一体朝から何を言い出すんだこいつは。そりゃ裸を見たくないというのは嘘になる。俺だって男だからな、でも相手は妹だぞ?
脳内に昨日の冬香の姿が思い浮かべられる。そしてそれを消すように頭を振る。
「お前何言ってるんだ? ちょっとおかしいぞ?」
「いいから、見たいか見たくないか答えて」
冬香の目つきが怖い。その視線で人を殺せるほどの目つきだ。
俺は試されているのか? なんて答えるのが正解なんだこれ、誰か教えてくれ。
「別に妹の裸なんて見たくない……ぞ?」
嘘を言っている自分がいる。本当は少しばかり興味ありました。すいません。
「そう……」
冬香は小さく呟くと、鞄を持ち玄関へと走っていく。そして走りながら叫ぶ。
「――秋斗君なんて知らない! 勇者に倒されろ!」
冬香は玄関を飛び出していき、走っていってしまった。
なんでこうなるんだ……じゃあ見たいって言ったらよかったのか? それじゃあ変態兄貴じゃないか。まあちょっとは興味はあったけどさ。それに勇者に倒されろって、お前だろそれ。お前俺を倒すつもりか?
「あー妹の心が分からん!」
ガシガシと頭を掻きながら叫ぶ。
「もういいや、とりあえず帰ったら謝るか……」
考えても分からないため、諦めた口調で俺も鞄をつかみ玄関へと移動する。その足取りは特別重たく感じた。
玄関を開けると空は曇っていた、まるで俺の心を見ているかのように。
足取りが重いまま学校へ着くと、俺はそのまま机に倒れるように座る。
「よっ秋斗! ってどうしたお前?」
そこへ今登校してきたであろう健がやってくる。お前朝から元気だな。
「朝から元気ないなお前ー そうか! 今日の課題やってないんだろ?」
「違うわよ健、こいつがこんな顔してる時なんて決まってるじゃない」
アイリスも少し遅れてやってくる。
「あー冬香ちゃん絡みか……」
健はまたかというような顔で俺を見る、アイリスも一緒の表情をしている。
「なんだよ二人揃ってそんな顔しやがって……」
「あんた今度は何やらかしたのよ……」
「お前らには関係ないだろ」
「まあそうだけど、あんたがそんな顔してるとこっちも気分落ち込むのよ」
「そうだそうだ、この世の終わりみたいな顔しやがって」
そんなに落ち込んでるのように見えるか俺?
「何があったか知らないけど、とにかく冬香ちゃんには謝っておきなさいよ?」
怒ってる理由が分かれば苦労しないんだけどな……とりあえずあいつの好きな物でも買ってやれば機嫌直るかな?
「まったく、冬香さんの気持ちも分からないとは……君は本当に兄なのかい?」
いつの間にかシエルが後ろに立っていた。
こいつも来てたのか、まったく面倒なのに聞かれたな。
「こんな兄に彼女は任せていられないな、そう! やはり僕のように完璧な者にこそふさわしい」
朝からうぜえなこいつ。この自信満々の顔がそのうざさをさらに引き立ててるのが分かる。関わると面倒なため適当に流す。
「そうかいそうかい、そうだなお前にふさわしいな」
「バカにしてるのかい君は? まあいい、それより秋斗には少し大事な話があってね。いまから二人で話せないかい?」
メガネを指でくいっとあげ、腕を組む。
こいつと二人で話すのか……面倒事になることしか予想できない。
「悪いな、今は――」
面倒なため断ろうとするしかし、シエルが俺にだけに聞こえるよう呟く。
「君が魔王と知っているとしたらどうする?」
そう呟くと口元を上げ微笑む。
こいつ俺が魔王ってこと知ってやがるな。一体どこで知った?
「……分かった聞いてやるよ」
俺はシエルを睨みつけるように席を立つと、二人は教室を出て行く。
「お、おいなんだ今の?」
「さあね、どっちにしろ面倒事じゃないの? それよりもうすぐ授業はじまるけど大丈夫なのかしら?」