転校生編2 突然の転校生
誰こいつ?
いや本当に誰だよ? 急に現れたと思ったら『それはここに花――』花……なんだっけ? まあいいや。今の俺最高に輝いてるみたいな顔してるけど全然輝いてないよ、むしろ滑ってるよ。
沈黙が走る。突然現れわけの分からないことを言ったから当然だ。
「あの? どちらさまで?」
沈黙を破ったのはアイリスだ。
「おっとすまない、僕としたことが自己紹介もせず――僕の名はシエル・スピリア、名門のスピリア家の長男さ!」
「どうもご丁寧に……私はアイリス・グランバードです」
「俺は霧島秋斗」
「私は――」
冬香が自分の名前を言おうとした瞬間シエルが割ってはいる。
「あなたが、霧島冬香さんですね?」
「え? あ、はいそうです」
こいつ冬香を知っているのか? まあ冬香は有名人だがまさか学園以外でも有名とは。
そしてシエルはそのまま冬香に歩み寄る。
「あなたのことはよく存じてますよ。 なんでも頭脳明晰、スポーツ万能、魔法の素質、そして周りへの気配り……どれをとっても素晴らしいと! そして何よりその美しさ――まさに僕の花嫁にふさわしい!」
テンション高いなこいつ……ん? 花嫁?
「花嫁って……まさかあんた冬香ちゃんにプロポーズでもしてるの?」
「プロポーズ? 冗談を言わないでほしいな、彼女は私の許嫁なんですから」
「「え?」」
冬香と声が被った。許嫁? それはあれか、こいつと冬香が結婚する約束をしてるってことか?
「許嫁って……私そんなこと聞いたことないんだけど……」
「まさか――!忘れてしまったんですか!?」
「本当に私何も覚えてないんだけど……」
「……まあ覚えていないのも無理はありません、あれはあなたがまだ3歳でしたから」
三歳かそれなら覚えてないのも納得だ、それにしても許嫁なんて俺も聞いたことない、親父か母さんに聞けば分かるだろうか? 後で連絡してみよう。あと本当にこいつテンション高いな。
「そ、そうなんだ……」
「おい、許嫁とかなんだか知らんが、あんまり冬香を困らせないでくれるか?」
「おっとすまない、僕としたことが感激のあまり興奮してしまったよ」
シエルは冬香から離れると、俺の方を見る。その視線は邪魔者を見るような目つきだ。
「そうですか、あなたがお兄さんですか」
お兄さんとか言うな気持ち悪いから。寒気がする。
「その呼び名はやめてくれ、秋斗で構わん」
「では秋斗、これから仲良くしていこうではないですか。お互い身内になるのですから、どうぞよろしく」
こいつとは身内になりたくない。絶対ならん。
「丁寧にどうも、では俺達は時間がないので」
冬香の手を掴むとそのまま歩き出す。アイリスはそれを慌てるように追いかけていく。
「ちょっといいの?」
「何が?」
「だって冬香ちゃんの許嫁なんでしょ? それをこんな……」
「いいんだよ、俺はあいつが気に食わん」
「はあ、これだからシスコンは……」
「シスコン!? 俺がシスコンなわけないだろう!」
「冬香ちゃんもこんなのが兄で大変ねー」
「うん」
即答か我が妹。でもなこれだけはいえる、俺はシスコンではない。
「でもありがとうお兄ちゃん、私本当にどうしたらいいか困ってたから」
何年も一緒にいるんだから冬香が困っているなんてのは顔を見れば分かるし、声の調子でも分かる。
しかし何だろうか、なんだかとても嫌な予感がするんだ。
転校生ってもしかして……
「僕はシエル・スピリア! 堅苦しいのは苦手でね、気軽にシエルって呼んでくれ」
嫌な予感的中してしまった瞬間だった。転校生とはシエルだったのだ。なんとなく予想は出来ていたが。
シエルは俺を見ると、そのまま俺の机へと歩き出す。
「また会ったね秋斗、これからよろしく頼むよ」
「………」
シエルはニッコリと笑みを作りながら挨拶をする。その笑顔が作り笑顔だとすぐ分かる。そして指定された机へと移動する。
教室は俺が転校生と知り合いと分かり少しざわついている。
「おい秋斗、お前転校生と知り合いか?」
健が少し楽しそうに聞いてくる。なんで楽しそうなんだお前? 最初女の子じゃないって聞いて落胆してたよな? 俺が知り合いで面白いことでも起きるかと期待でもしてるのか?
「知り合いたくなかったけどな」
大きくため息をつくとそのまま窓に目を向ける。
空は青くいい天気だ。そらはこんなに青いのに俺の心は暗いよ畜生。面倒ごとがこれだけで終わってくれればいいんだけどな。
結論から言おうか。
奴は、シエルは完璧だった。頭もよく、スポーツ万能、魔法も得意まさに完璧だ。理由を知らない奴はなんでこの学校にいるのだろうと思うほどだ。
悔しいが俺はシエルに勉強、魔法……すべてにおいて負けている。この半日でそう思い知らされた。おまけに顔もいいもんだから女子から人気だ。しかし当の本人は全く興味はないようで冬香一筋だ。
「あのメガネ……一日でモテモテになりやがてぇ……」
「そんな目で見るな健、みっともなく見えるぞ」
「お前は悔しくないのか!?」
「悔しくないけど?」
全く悔しくないとは言えない。だってすべてにおいて負けていたから。
「しかもあのメガネ、冬香ちゃんばっかりと話てやがる」
「まあ冬香のことが気に入ってるみたいだからな」
「やっぱり冬香ちゃん狙いか……冬香ちゃん人気だな」
許嫁……あいつの言ったことは本当なんだろうか? 冬香自身の問題だから俺が言うことじゃないけど。でも気になる。
「それより飯食わないか?」
「そうだなー あ、今日は屋上で食べようぜ」
「屋上か、たまにはいいかもな」
俺は弁当、健はパンの入った袋を持つと屋上へと移動する。
「あら、あんた達も今からお昼食べるの?」
そこにアイリスも弁当を持ってやってくる。
「たまには気分を変えて屋上でな」
「あらいいわね、なら私も一緒に行くわ」
アイリスも加わり三人で屋上へと向かう。
屋上の扉を開けると気持ちいい風が吹き抜けるのを肌で感じ取れる。
「気持ちいい風ねー」
「絶好のお昼日和だな!」
屋上に置いてあるベンチに座ると、健はさっそくパンを取り出して食べ始める。今日もやきそばパンか、飽きないのか?
「天気のいい日は屋上で食べるってのもいいかもな」
「それいいわねー今度からそうしましょ?」
俺とアイリスも弁当を開け食べ始める。
弁当を食べていると勢いよく屋上の扉が開けられた。そこにいたのは妹冬香だった。