転校生編1 いつもの朝
カーテンの隙間から光が差し込み、朝の訪れを知らせる。
整頓された机、ハンガーに掛けられた服、そして壁にはぬいぐるみが綺麗に並べて置かれている。
「ん……」
綺麗な銀髪を揺らしながら、布団からゆっくりと起き上がる少女。
彼女が起き上がると同時に目覚ましが鳴り響く。目覚ましを止めると、ふらふらと立ち上がり眠い目を擦りながら服を着替える。
制服に着替え終わると部屋を出て階段を降り、顔を洗うため洗面所へと向かう。
「……いい匂い」
顔を洗い終えるとリビングからいい香りが漂いだす。秋斗が朝食を作っているのだ。
匂いにつられるようにリビングへと足を運び、扉を開ける。
俺は朝食を配っていると扉が開けられる音がする。自然と目線をそちらに向けるとそこには冬香がいた。そうかもうこんな時間なのか。
「おはようー」
「お、起きたかもう出来てるぞ」
俺はテーブルに朝食を配っているところで、それもちょうど終わったところだ。そしてお互い席につき『いただきます』といい、朝食を食べ始める。
「なあ冬香」
「なに?」
昨日のような気まずい朝食ではなく、今日は普通に会話をしている。これが俺達にとっては普通なのだ。
「昨日また誰かに告白されたのか?」
俺がそう聞くと冬香は箸の動きを止める。
「な、なんで知ってるの?」
俺は昨日の昼休み、教室から見えた男子生徒と話していた出来事を言っている。やっぱり告白だったんだな。
「だって教室から見えたし。で――付き合うのか?」
「付き合わないよ、興味ないし」
「そうかい」
興味がない、これはいつも冬香が告白されて断っている理由の一つだ。またこいつに泣かされた男子生徒が増えたのか。
「しかし、もったいないな」
「何が?」
「だってお前学校でモテモテだろ? せっかく可愛いのにもったいないぞ」
「か! ――可愛いって!」
冬香は顔を真っ赤にして目をそらす。
一体何を照れているのか分からん。可愛いなんて学校で言われ慣れてるだろうに。
「それに私はお兄ちゃん以外の男なんて興味ないし……」
「ん? 何か言ったか?」
「なんでもない!」
ボソボソと喋り何を言ったのか聞こえなかった。
聞き返したら怒られた、なんで怒ってるのこいつ? 女心が分からん。
「ごちそうさま! じゃあ私行くね!」
食べるの早! 話始めた時にはまだ半分くらい残ってたよな?
「おい待てよ! 俺もすぐ行くから!」
残りをさっさと口に含み水で流し込む。そして食器を片付ける。洗物? まあ今日はいいだろう。
「はやくー!」
冬香が呼んでいる。さっさと行かなくては。鞄をつかみ玄関へと急ぐ。
「お前食べるの早すぎだろ」
「お兄ちゃんが遅いだけでしょ?」
そんなことを話しながら玄関を開ける。
ほんと、こうやって話してると魔王とか勇者とかどうでもよくなる。
二人仲良く並びながら歩く。こうやって二人で登校するのが俺の日常だ。
「なあ冬香、あのことなんだが……」
「魔王と勇者のこと?」
さすが冬香、察しがいいな。俺の言いたいことが分かっている。
「学校の皆には話してないよな?」
冬香が勇者だということがバレることはまだいいのだが、俺が魔王だということがバレるのはヤバイ。何がヤバイって俺の存在が危うくなる。
「大丈夫、話してないよ」
「そうか、ならよかった」
ほっと胸を撫で下ろす。冬香だから言わないとは思うが念のためだ。
「お兄ちゃんも私が勇者だって言ってないよね?」
「大丈夫、言ってないぞ」
冬香も俺に聞いてくる。
まあ当然か、勇者だと分かればたださえ有名人の冬香はさらに注目を浴びることになる。冬香自身それが面倒だと分かっているのだろう。
「お互いの事は内緒だな」
「そうだね」
幸い俺の見た目は人間だ。まだ魔王らしい部分は一つもない。魔力が多少多いぐらいで特に変わったことは起きていない。冬香も見た目だけでは勇者だとは分からないだろう。
「今日は二人で登校してるのね」
突然背後から声をかけられ二人とも肩を震わせ驚く。声を掛けたのはアイリスだ。
「そ、そんなに驚かなくてもいいじゃない……」
「いや……ちょっとな」
「うん、ちょっとね」
あんな会話をしていたから驚くのも当然だ。
「まあいいわ。それより聞いた? 今日転校生が来るらしいわよ」
「転校生? 初耳だな、誰から聞いたんだ?」
「新聞部のフレイよ、あのフェアリーの」
「あーあの面倒な妖精記者か」
「私あの子苦手……」
フレイ、フェアリーで新聞部に入っている記者だ。正直俺は彼女が苦手だ、というより面倒。冬香も俺と同じで苦手だ。冬香の場合有名人のため取材されまくるからだとか。
「あの子と昨日話してたら、そんなことを聞いたのよ。 確かE-2だから、うちのクラスね」
「一緒のクラスか……一体どんな奴なんだろうな」
「男の子らしいわよ?」
男の子ね……まあ面倒な奴じゃなければいいか。
「なんでもどこかの貴族の坊ちゃんとか言ってたけど……」
「なんでそんな奴がうちの学校に来るんだ? もっとエリート学校があるだろうに」
「さあね、そこまでは分からないわ」
『それは僕の花嫁がここにいるからさ!』
なんか声が聞こえた。
後ろを振り返るとそこには金髪ロン毛の男が立っていた。
え? 誰こいつ?