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俺が魔王で、妹が勇者で  作者: 十文字もやし
プロローグ 兄は魔王 妹は勇者
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プロローグ終 俺達は兄弟だろ?

日はすっかり落ちて夕方。

学校も終わり学生達は帰る者もいれば部活のために残る者もいる。俺は帰宅部だから今は下校の最中だ。

 下校の途中俺はふと歩く足を止める。その目線の先には見慣れた姿があるからだ。あの銀の綺麗なロングヘアー、冬香だった。

 ここは街中で俺たちの通学路でもある。冬香がこんなところで道草をしているなんて珍しいこともあるものだ。


「よお、帰りか?」


 そう声をかけると、驚いたように少し肩を震わせこちらを振り向く。そして俺だと知ると安心したような顔をしたがすぐに目をそらした。


「珍しいな、お前がこんなとこで道草してるんなんて」


「そ、そうかな」


 冬香はそう素っ気なさそうに答える。俺とはやはり目を合わしてくれない。冬香が見ていた物を見ると、そこにはUFOキャッチャーがあり中には猫のぬいぐるみが入っている。子供のときから俺は冬香を見てきた。冬香が好きな物は大体わかっているつもりだ。


「よし! ちょっと待ってろ」


「え?」


 冬香に鞄を持ってもらうと俺はさっそく自分の財布を取り出す。中には1、2……5枚か、5回出来るな。

 俺は硬貨を取り出すとUFOキャッチャーへと入れる。そしてアームを動かしていき、取りやすそうなぬいぐるみへと移動させる。

 一回目、うまく引っかからず失敗に終わってしまう。迷わず次の硬貨を入れてもう一度挑戦する。しかし二回目もとれず、三回 四回と失敗が続く。

 そしてラスト五回目だ、ボタンを押す指が震えるのが分かる。


「頼むぜ……これでいってくれ!」


 アームが開きゆっくりと人形の元へと降りていく、がしかしやはり取れない、と思ったその時猫の耳にアームの爪が引っかり持ち上がった。そしてそのまま絶妙なバランスをとりながら穴へと運び、見事猫のぬいぐるを取ることに成功した。


「よっしゃぁ! とれた!」


 俺は大声をあげると、ぬいぐるみを取る。冬香の元へと戻っていきそのまま冬香にぬいぐるみを渡した。

 冬香はぬいぐるみを受け取ると困惑した表情を浮かべ俺を見る。


「やるよ、欲しかったんだろ?」


 そう言うと冬香の表情とはさっきとは違い笑顔になっていくのがわかった。


「よし、帰ろうぜ」


 そういい秋斗はゆっくりと歩き出す。冬香も俺の後に続き人形を抱きしめながら歩き出した。



 二人で家に向かって歩いている。

 俺が前を歩き、その数歩後ろを冬香が歩いている、その間会話などなくお互い無言だ。朝と同じで気まずい空気が流れ出す。


「なあ」


「あの」


 声が被ってしまった。そしてお互いまた黙ってしまう。

 その気まずい空気の中喋ったのは俺だ。


「なあ、やっぱり親父が言ってたこと気にしてるのか?」


 冬香は軽くうなずき。下を見て歩いている。


「俺もさ、いきなり魔王の子だなんていわれて正直、今も困惑してるよ。きっとお前も俺と同じだと思う、いきなり勇者だって言われたんだからな」


「俺たちは魔王と勇者で本来対立するはずの関係なんだよな……でもさ、魔王と勇者が仲良くしてはいけないなんて決まりはないだろ? 俺とお前は本当の兄弟じゃないけど、俺はお前を大切な妹だと思ってる、魔王とか勇者とか、そんなことで俺はお前との関係を崩したくない――お前は、どうなんだ? 冬香」


 しばらくの沈黙が流れる。そして気づけばお互いの足も止まり俺は冬香と向き合っていた。


「私も……」


「私もお兄ちゃんとの関係を壊したくないよ……だって唯一のお兄ちゃんだから――でもお父さんから勇者って言われて、お兄ちゃんも魔王だって言われて……」


「………」


 冬香の目から涙が溢れるのがわかった。そしてその頬を伝って涙は地面へと落ちていく。冬香も泣くのを押し殺して喋っているのがわかる。


「……お兄ちゃんが魔王だって分かったら、どうやって接したらいいか分からなくなっちゃったの……いつも通りに話そうとしても、勇者だとか魔王だとかが邪魔をして、どうしても目をあわせられなかった……」


 冬香はついにこらえきれず泣いてしまう。


「私達本当にこのまま兄弟でいていいのかわかんないよぉ!」


 目から次から次へと涙が落ちていく。

 魔王に勇者、普通は敵対するはずの存在。それだけでここまで冬香と悩ませていたのだ、そしてどうしたらいいかも分からず、取った行動が今日の朝や先ほどの素っ気なさそうな感じだ。

 そんな冬香の頭に俺はそっと手を乗せると、冬香の頭を撫でる。


「お前なりに考えてたんだな冬香……でも答えは簡単だ、魔王だとか勇者だとか、そんなのは関係ない俺たちは兄弟だ。魔王の兄? 勇者の妹? むしろ面白いじゃないかそんな妙な兄弟あってもさ」


「……そうかな?」


「そうに決まってるだろ! 俺を信じろ!」


「……分かった、お兄ちゃんを信じる!」


 冬香の目からは涙はなく、その顔はいつもの妹の笑顔がそこにはあった。やっぱりこいつには泣き顔より笑顔が似合っていると感じる。


「それとこれ、ありがと!」


 冬香はぬいぐるみを俺に見せるように礼を言う。


「やっとお礼言ったなお前」


「それは……まぁねえ……それより、よく私が猫好きだって覚えてたね」


「まあこれでもお前の兄貴を16年やってるからな、好みぐらいは分かるぞ」


 俺たちはまた歩き出した、今度は仲良く並んで。


「ねえ今日ハンバーグがいい」


「調子いい奴だなあ、さっきまで泣いてたやつとはとても思えん」


「な、泣いてないよ!」


「嘘付け、ボロボロ泣いてた癖になにいってんだか」


「む……絶対泣いてないからね!」


「はいはい冬香ちゃんは泣いてませんねえらいえらい」


「それ以上いうと今日は私が夕飯作るわよ…」


「ちょっとまて! お前が作るとマジで洒落にならないからやめろ!」


「ならハンバーグ作って」


「はあ……わかったよ」


「よろしい!」


 兄が魔王だっていいじゃないか。妹が勇者でもいいじゃないか。

 血の繋がりとか、魔王とか勇者とかは関係ない、俺たちは『兄弟』それだけだ、もうこいつを泣かせない、そう決めた。この笑顔を絶対に守ると、あの頃から決めたんだから。

 そのためなら俺はどんな手段を使っても守る。たとえそれが、魔王の力を使うことになるとしても。



 少し離れた道路に止まる黒い車。

 そこからは何者かが二人の様子を見ていた。見た目はスーツのような服装、そしてどこかの金持ちといった雰囲気を感じさせる。

 男は双眼鏡から目を離す。


「やっと見つけたよ、我が花嫁」


 懐から写真を取り出す、そこに写っているのは冬香の姿。その横には一緒に秋斗も写っている。

 愛おしいそうに冬香を見る、そして冬香の横に移っている秋斗へと目を向ける。


「そして魔王……」


 男は秋斗を睨む様に見ると、すぐに顔をそらす。そして男を乗せた車はどこかへ走り去っていった。








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