プロローグ2 気まずい空気
俺は簡単に身支度を済ませると、部屋を出て階段を降りリビングへと向かった。日課である朝食作りと弁当を作るためだ。
「さて、作るか」
慣れた手つきで料理を開始する。俺は次々と弁当のおかずと作っていき、二つの弁当箱へと詰めていく、一つは青色、もう一つは白色の弁当箱だ青は俺の。白は冬香のだ。
それらを盛り付けた後は朝食作りへと取り掛かる。そして朝食もあっという間に作り終えた俺はテーブルへと置いていく。
朝食を配り終えた頃に、階段を下りてくる足音が聞こえたと思うとリビングの扉が開けられる。扉が開けられた音と同時に目線を向けると、制服に着替えた冬香の姿があった。
そう彼女こそが昨日の晩、父親から勇者宣言された妹。霧島冬香だ。
美しいロングの銀髪、細い身体。可愛らしい顔立ち。見ただけでわかるだろうが美少女だ。町を歩けば10人が10人振り返ると言ってもいいだろう。
「よぉ……おはよう」
「お、おはよう……」
お互いぎこちない挨拶を交わす。いつもならこんなことはないのだが、昨日のことがあるのだろう。
「朝食できてるから、食べろよ?」
「う、うん」
冬香は椅子に座ると、ゆっくりと用意された朝食を食べ始める。俺も冬香に続き朝食を食べる。
そして沈黙が流れ、気まずい空気が漂いだす。そしてなんの会話もなく気まずいまま朝食は終わりを向かえてしまった。
「じゃあ、先に行くね?」
「ああ、俺は洗物だけしてから行くよ」
「あの……お弁当いつもありがとね」
そうお礼だけいうと冬香は自分の鞄を掴むと、逃げるようにリビングを去っていった。
そんなに俺と一緒の空間にいるのが嫌なのだろうか……昨日の一件があるとはいえ、兄としては悲しい。でも……今は魔王なんだよな。本当の兄ではない。
「くよくよしてもしょうがないか……」
洗物を済ませると、秋斗も鞄を掴み学校へと向かった。
学校に着き、靴を履き替えていると。一人の男がやってくる。
「あれ? 今日は冬香ちゃんと一緒じゃないのか?」
こいつは芳田健、茶髪のツンツンヘアーが特徴的なやつだ。まぁうざいクラスメート兼友達みたいなもんだ。
「もしかして喧嘩したのか? 珍しいなお前たちが喧嘩するなんて」
「お前には関係ないだろう……まあ、そういうことにしといてくれ」
そんなに俺一人で登校するのが珍しいか?
「でも冬香ちゃんと喧嘩ね……あんな子を怒らせるなんて、お前一体なにしたんだよ……」
「だから関係な――」
「あら、今日あんた一人? 珍しいこともあるのね」
話に割って入ってきた女は、アイリス・グランバード。金髪のポニーテールでどこにでもいる女子高生といった体系な感じをしている。だが俺たち人間とは違い彼女は、エルフだ。
エルフは見た目は人間のように見えるが全然違う。エルフはプライドが高く、魔力が高い種族だ。そしてなによりあの人とは違ったとがった耳が印象的だ。
「お前まで言うのか……」
「どうせあんたがあまりにもダメダメであきれちゃったんじゃないの?」
「アイリスじゃないんだから、冬香ちゃんはそんなことしないだろうよ」
「なんで私なのよ!」
朝からよくこれだけギャアギャアと騒げるな……本当に仲いいなぁこいつら。よく言うだろ? 喧嘩するほどなんとやらって?
「仲いいなお前ら」
「「誰が!」」
おお見事に被った、流石だな。
「まず冬香ちゃんはお前と違って頭脳明晰 スポーツ万能 そして誰にでも優しく、気を使ってくれるまさに聖女だぞ? お前とじゃあ格が違うっての」
「うっ! 確かに冬香ちゃんは何でもできるけど……このダメ兄と違って」
おい、さらっとダメ兄とか言うな。まぁ否定が出来ないから痛いんだが。確かに冬香は何でも出来るし、兄の俺がいうのもなんだが美少女だ。そのため学園の種族問わず男子からはモテモテである。本人は告白されるたびに断っているらしいが。あまりにも断り過ぎて、学園の男泣かせとまで言われるくらいだからな。
「そんなとこで駄弁ってないで、さっさと教室行こうぜ? 時間ないぞ?」
「おっとこんな時間か、早くいこうぜ!」
健は時間を確認すると教室へと走っていく。それを追いかけるようにアイリスも走る。
「ちょっと待ちなさい! まだ話は終わってないわよ!」
「秋斗も早く来ないと遅れるわよ!」
俺も駆け出すと教室へと向かった。
ここ『マルス魔法学園』では多種族の学生が魔法学を学びに来ている。
人間が大半だが、先ほどのアイリスのようにエルフ。
魔法が苦手だが身体能力の高いドワーフ。
大きな翼もち火炎などのブレスを吐けるワイバーン。
小柄な身体で透き通った羽を持つフェアリーなどが代表的な一族だ。
ちなみに俺、魔王っていうのはどこの種族かわからない。
そしてこの学園では魔法学、魔法を主に学んでいく。魔法とは魔力を使い魔法式を組み込むことにより発動するというものだ。魔法式ってのは、魔法を発生させる魔方陣みたいなものと思ってもらえばいい。
魔法だけでなく魔法以外の勉学も勿論学ぶ。ここの生徒は魔法使いを目指すものや、企業で就職をするものなど目的はさまざまだ。
授業が過ぎ時間は昼頃、退屈な授業が終わりようやく昼飯だ。机から外を見れば太陽の日光が眩しく外を照らしている。まだ五月半ばだというのに暑そうだ。こんな日は屋上で食べるとさぞ気持ちいいだろうな。
そんなことを考えながら俺は弁当を鞄から取り出す。
「また弁当か? お前もよく毎日作るなー」
「日課だからな、それに冬香の分も作らなきゃいけないし」
「あんた勉強とかまったくダメダメだけどそれだけは得意よねー」
健とアイリスが俺の机へと集まる。
健の手にはおそらくコンビニか購買で買ったであろうパン。アイリスの手には俺と同じ弁当。
「あんたまたパンなの?」
「ふん、男は黙ってパンだ! 弁当なんていらん!」
健はパンの袋を開けると食べ始める。具が焼きそばなことから焼きそばパンか。
「彼女の一人でも作って弁当作ってもらえばいいじゃない、まああんたには無理か」
「なにおぉぉぉ!? 見てろよ、可愛い子を彼女にして見せるからな!」
そんなに悔しがるほど彼女欲しいのかお前。
「というわけだから冬香ちゃんと付き合う許可をください! お兄様!」
健が俺に向かって頭を下げる。本人に許可を取らず兄に先に許可をとるのはどうなのだろうか?
「俺に許可を取る前にまず冬香に許可をとったらどうだ……」
というよりこいつが冬香の彼氏になったところを想像したら……駄目だ無性にこいつを殴りたい。よし殴ろう。
そして一発、健の顔に俺の拳がめり込む。
「いってぇ! 何しやがる!」
「いや、なんか想像したら無性に殴りたくなった」
「同感ね、私もそう思ったわ」
「え? そんなに? というより想像すらアウトかよ!」
「まぁ健だしな」
「そうね健だし」
健は『ちくしょーどうせ俺はモテないよ!』と言い泣きながらパンに噛ついていた。泣くほど悔しいのだろうか、ひたすらパンに噛つく。
しかし彼氏か……考えたこともなかったがあいつももう16歳、彼氏の一人や二人できてもおかしくない年頃か……まあ、俺には関係ないか……実の兄ですらない……魔王の俺には。
「魔王」忘れかけていた嫌なことを思い出してしまった。俺は目線を机に落とす、食べる速度も遅くなっていく。
そう昨日の一件で俺は魔王ということを知った。それは今まで兄弟だと思っていた冬香とは本当の兄弟ではないことも言っている。それどころか俺は家族の誰とも、血すら繋がっていないのだから。
「ちょっと? 顔色悪いわよ?」
「大丈夫、すこし考え事してただけだからな」
「そうか? それにしてはお前なんか死んだような目してたぞ?」
「だから大丈夫だって言ってるだろう? ほら!」
俺は弁当をかきこむように食べ、元気な様子を見せる。
「大丈夫ならいいけど、無理しちゃ駄目よ?」
あいつも今頃弁当食べているのだろうか、そして俺と同じように自分について考えているのだろうか? もうあんな頃に戻れないのだろうか?
そんなことを考えながら俺は弁当を食べた。
弁当を食べながらふと、裏庭で冬香がなにやら男子生徒と話しているのが目に入った。