第参話サラマンの秘宝
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
俺は稼ぐために歩き出す。こんなことを言ったらなんかカッコいいが、ただ歩いているだけだ。
「でも、どうやって稼ぐんですか?」
歩いているそばでそんなことを言うが
稼ぐって言えばアレしかないだろ。と思いつつ、軽く無視して歩く。ま、この世界の住人はやろうとしない事なのだが。
そして
「着いたぞ。ここだ」
「ここは…ギルドじゃないですか」
そうだ。ここはギルド。ギルドは冒険者を中心に集めて結成される組織だ。
あのイベントをするにはまずギルドに加入しないとイベントは発生しない。
まずはギルドに加入だ。
「ギルドに加入しにきた」
俺はウラに一言だけ言って、
ギルドの扉を開けて、ギルドの受け付けに行く。
「ギルドに加入したいんだが」
俺が受け付け嬢にそう言うと、
「ギルド加入ですね!少々お待ちください。お待ちになられる際にこちらの紙に必要事項をご記入ください」
そして紙を二枚渡された。
俺はそのうちの一枚をウラに渡すが…
「ヨシさん、これ…おかしいですよ」
「何が?」
「何がって…ペンが無いじゃないですか」
あー。そうだな。でもそれはこのゲーム初心者が言うことだ。
このゲームで文字を書く時は基本、手をかざし、魔力を込めて、頭の中で意識することで書ける。
それを知らない初心者はギルドに入れないまま、どうすることもできない。
なんかやけくそになって、ギルドに入らずに ソロでレベル200以上も上げて魔王を倒した奴がいたが…
ま、それはおいて置こう。
ってゆうかNPCがこんなことを言うこと自体がありえないのだが…
おれは聞くより見る方が良いと思って実践してみせる。
「うわ~!すごい!」
だろ?すごいだろ?
なんかもう勇者にでもなったような気分だ。
俺が何かを勝ち誇ったようなドヤ顔してると…
「でも、これ、何処の国の文字ですか?」
俺は自分が書いた紙を見る。普通に日本語で書き込んでいた。
本当にこの世界がゲームであれば日本語を意識するだけでこっちの言語で書き込まれるはずだ。ってゆうか文字設定担当は別の奴だから不具合があっても俺の責任じゃない。
ウラはまだ「何処の国?何処の国?」と、しつこいくらいに聞いてくるし、
なんかもうゴブリンになったような気分だ…
どうするかなぁ。
俺は必死に頭を回転させて言い訳を絞り出す。
そして
「俺って冒険者だろ?そ、その、前に住んでた国の文字が定着しちゃってさ」
自分でも見事といえるくらいに見苦しい言い訳だったが、
「へぇ~!すごいんですね!」
簡単に引っかかってくれた。
気を取り直して、俺はもう一枚受け付けからもらってきた。
そういえば…
「ウラ。ちょっとここでまっててくれ」
「何処に行くんですか?」
と、聞いてきたが、適当なことを言ってごまかす。
俺はギルドの扉を開け、バックシールドを使い、スピードを上げて、とあるところに辿り着く…
俺はゲーム中、絶対に必要ないだろ!とツッコミをいれたこともある場所。
それは「爺の卸売り」だ。
その名前の通り爺が切り盛りしているが、売っている商品は2つだけ、
「言語通訳の書印」と「スケルトンの骨」だ。
「言語通訳の書印」があれば、どんな言語も通じるようになる。通じると言っても文字だけだ。
ゲームでは別に使わなくても言語は通じたから必要なかったのだが、
今はめっちゃ必要だ。必需品と言ってもいい。
「すいません。これとそれ買います」
そういうと
「120Nじゃ」
早く会計を済ませたいのか、素っ気ない声で値段を言う。
そして、俺は指定された通りに120N払う。
俺は別に金が全く無い訳ではない。
初期装備のうちに1000Nが入っている。
1000Nは宿泊代二日分くらいだ。
そして無事に会計が済み、商品貰うと
バックシールドを使い、ものの数分でギルドに帰ってきた。
流石にバックシールドを連続に使うとスタミナが持たない。
「何してたんですか!一人になって、死にそうだったんですよ」
お前はウサギか…と思いつつ。
「いや、なんでもないよ」
そういって紙に書き込んで、二枚とも受け付けにだす。
「はい、これにて受け付けは完了しました。早速、クエストをうけますか?」
ここだ。
イベントが起きるにはここで全財産を出してあのクエストを頼むといえばイベント発生だ。そして俺は全財産を出す。
「あのクエストを頼む」
これで大丈夫なはずだが。
少しの間、沈黙が訪れた。壁を這いずり回るゴキブリの音さえ聞こえてきそうなくらいに静まり返る。
そして受付嬢は元気良く、
「畏まりました。あのクエストですね。大丈夫です。受け付け完了となりました。頑張って来てください」
良かった…無事成功だ。
もし、ここで、は?みたいにされたら、もう…死のう…ってなってたことだろう。
俺は受け付けを済ませると直様ギルドを出る。
「あのクエストって何ですか?」
ウラが俺の右で顔を覗きこみながら聞いてくる。
「サラマンの秘宝だよ」
サラマンの秘宝とはゲームの中での名前で
正式名称は
宝を探せレヲンファントス!!という。
ここでウラが声を張り上げる。
「え!?それって高レベルモンスターがうじゃうじゃいる、ペストの森に行くクエストですよね!?
皆危険だからクエストを受注した人はいないって聞きましたけど…」
耳元で大声を出されたものだから耳が痛い。おれは耳を抑えながら冷静に対応する。
「普通ならな。でも実はこのクエストはギルドのクエストの中でも1番と言っていいくらい…
簡単なんだよ」
「でも…!」
「いいから、行くぞ」
進める足を速くする。
このイベントの名前がサラマンの秘宝と言われる由縁は、昔、サラマンという勇者がいて、別に魔王を倒したとか、街を救ったとかそんな類の勇者ではない。
ただ、金があっただけだ。
なぜ金があるだけで勇者なのか、それは俺にもわからない。スタッフに聞いてほしいくらいだ。
そのサラマンが、死ぬ直前に、
「ワシの家の地下に全財産を置いた…見つけた奴にそれをやろう。だが気をつけろ…途中の道には化け物がいる…」
と言い残した。
どこかで聞いた事のあるこのセリフはこぼしてしまった水の様に直様広がり、
腕に自信のある冒険者は皆こぞってサラマンの家に行った…
別にサラマンの家に行く途中にある「ペストの森」自体には強い魔物はいなかった。
しかし
彼の警告通り、そこには化け物…つまり魔物がいたのだ。
その魔物の強さは周辺地域の魔物の群を抜き、最強だった。
例えるなら魔王の側近を務めるレベルだ。
冒険者は歯も立たず、徐々に挑戦する者はいなくなったのだ。
でも俺は抜け道を知っている。
確かに今の装備とレベルではいくらスキルを出し切っても勝てるかどうかはわからない。
いや、負けるだろう。
しかし、抜け道を知っている俺なら…
「着いたぞ。ここだ」
「なんか…怖いです」
そこにはホラー映画に出て来そうな程手入れのされていない古い屋敷があった。
ネットの間では余りにも不気味すぎて何であんなボロい建物が壊れないの?とか、呪われてる…とか、いろいろ噂が流れた。
「やっぱりやめません?」
急に怖気づくウラだが、後は引けない。
「待っててもいいんだよ?」
そういって、勝手に入ろうとすると、
「…や、やっぱり行きます」
一人で待つの方が怖かったのか、直ぐについて来ることを決めた。
「じゃあ行くぞ」
俺は扉を開ける。
扉がギィィと、きしむ音が聞こえたと思ったら、
「ヴオォォォオ!」
大きな鳴き声が聞こえる。
「ひっ!な、な、な何ですか!いい今の!」
めっちゃビビるウラに俺は冷静に
「あぁ。地下に居る魔物だよ」
と答える。
「な、何でそんなに冷静何ですか!?」
いや、別に怖くないから。
こんな時は無視が1番だと思う…
「そんなにしがみつかれたら歩けないじゃないか」
俺の右腕に両手を巻きつけ、くっついているウラにそう言うと
「あ、すいません…」
そう言って、少し間を開ける。
しばらく歩くと上に続く階段と下に続く階段が見えてきた。
俺は下に続く階段の方へ行く、
「ちょ、ちょっと!そっちは魔物がいるところですよ!?」
「当たり前だろ。魔物が秘宝を守ってるんだから」
「そ、そうですけど…」
ブツブツ文句を言うウラだが、気にしていたら何もできない。
俺は無視して下に進む。
やがて突き当たりに扉が見えてきた。
「準備はいいか?この扉を開けたら魔物がいるからな?」
ウラは自分の持っている短刀を片手に扉の先を警戒する。
「いくぞ?」
俺は今にも壊れてしまいそうなドアノブを手に掛け、扉をあけると…
「ヴォォォオオ!」
魔物も準備をしていたらしく、いきなり飛びかかってきた!
その魔物の大きさは異常で、例えるならばティラノサウルスの様だ。
部屋もそれなりに広い。
だが、俺は一切めげずに…
ピロリロリン
ヨシハルは身を守る術として、「聞こえないふり」と「無視」を覚えた!