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出会い編8

 気がつくと俺の目の前に倉守が泣き出しそうにしていた。

「両腕が吹っ飛んだぐらいで大騒ぎするな」

 倉守に魔法が当たる直前、俺が捨て身で身代わりになった。

 俺だってこんなマネがしたかった訳ではない。

 しかし、あのままだと倉守の頭に魔法が直撃して即死の可能性があったのだからしかたない。

 魔力還元によって、魔法による攻撃は魔法によって治しやすいが、さすがに死ねば治せない。

 しかし生きているのなら、治療はさほど困難ではない。

 もっとも戦闘中に治すのは無理だし、その魔法によって受けた痛み恐怖苦痛を癒すのは魔法では無く己の強い意志だけだ。

 それらを克服できずに学校を止める奴だって居る。

 倉守だってその一人だと思っていたのだが……どうやらその予想は大ハズレみたいだ。


 俺は担架に乗せられて闘技場から離れていく。教師が今の戦闘について軽く解説している。その横で次の生徒達が準備を始めている。

 両腕吹っ飛ばしてこれだ。

 死んだらその場で埋葬までしてくれそうだとマナで痛みを中和しながら他人事みたいに考える。



「あたしが、弱いから……」

 俺が治療を受ける横で、倉守が俯きながら語る。

「お前には悪いと思ったが、実は例の作戦を中止にしようと色々やっていた。俺は完全に止めたと思っていた時に、

 仰木が二発目をやってきたんだ。

 あれは完全に俺の想定外だった。そんな中で勝てたんだ。

 もっと喜ぼうぜ」

 医者が俺の腕を治療している最中なので、さすがに人殺しの作戦とは言えない。

「十分強いじゃねーかよ」

「うん…ありがとう」

 それだけ言うと倉守は帰って行ってしまった。俺も特に止めようとはしなかった。

 倉守の笑顔が全てを物語っていたからな。


 30分。肉と表現するのさえ難しい腕から生えたボロボロの何かも魔力還元により、おおよそ元の形を取り戻す。

 戻っている合間も、腕が微少に発光しながら形勢を戻していくので見た目は気持ち悪いが、治っていく部位がほのかに熱を持つので、治されている方はぽかぽかとして案外気持ち良い。


「動かしてみてください」

 医者に言われて俺は腕を動かす。グーチョキパーと右手と左手でジャンケンをしてみせる。

「もう大丈夫みたいですね。あんまり無理はしないように」

「はい」

 気のない返事をしながら俺は扉を開ける。受業には出られなくても、学校に私物を持ち帰らねばならない。

「ノボル!!」

 治療室から出てくると、樹里が俺に抱きついてきた。

「なんだよ!いきなり」

「もぅ! 本当に心配したんだから!」

「俺が死ぬわけ無いだろ」

「でも! でも! でも!!」

「落ち着けよ、両腕だってきちんと戻ったんだ。何も問題ないさ」

 俺は樹里の肩に手を置く。

「……ねぇノボルちょっと聞いて良いかな」

 俺の耳元で倉守が呟く。

 先ほどの驚いた様な声が鳴りを潜める。

 変わりに出てくるのは薄暗い楽しみに満ちた声だ。赤の他人が聞いたなら楽しそうにしている声にしか聞こえないだろうが、

 俺には解る。


「ノボル。みみちゃんを殺そうとしてたよね?」


 幼なじみの目はごまかせなかった。

 八年間もパートナーやってたら俺が使いそうな魔法なんて一発で解っちゃうよね。

「私が昼休みで聞いたときは、仰木修也君がみみちゃんを殺そうとしてるって話だったんだけどな」

「そ、それはですね……」

 樹里は俺の腕をそっとほどいて俺の瞳を覗き込む。

 俺の瞳にはにこやかに微笑む樹里が写るが、俺は目線をそらす。

「私ノボルに人殺しになって欲しくない。自分のわがままの為に人殺しちゃう人はイヤ」

「トテモハンセイシテマス」

「謝るんだったら私じゃなくてみみちゃんに、じゃないの?」

「ハイオッシャルトオリデゴザイマス」 

 樹里は子供っぽい笑顔をしながら俺の周りを歩く。

 そんな状態が何分か続いた後、樹里は唐突に手をパンっと叩いた。 

 そして樹里はイタズラっぽく人差し指を口につける。

「もしもまた似たような事があったら、パパに頼んで許嫁の話を無かったことにして貰うね」

「マジ?」

「本気だよ」

 ウインクをする樹里は非常に楽しそうだった。

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