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出会い編7

 俺は早速大気中のマナを体に取り込み始める。

 自分が炎そのものになるイメージをして貰えると、マナを取り込む事とマナを魔力に変換をする事が何となく解って貰えるかも知れない。

 ドールマスター戦は一般的に派手な戦闘になりがちと言うことで人気だが、魔法使いの視線になると状況は一変する。

 インがアウトに的確な指示と魔力を送り続け、アウトはその言うことを出来る限り聞きながら状況を相手に伝える。

 まさに人形遣い(ドールマスター)の戦いと言うわけだ。

 もっとも、それは熟達した腕前と阿吽の呼吸が出来るチームの話だ。

 倉守に子細な指示を出したところで混乱するだけだ。

 なので事前に出した指示は、木属性の魔力を送るから体内魔法だけ使え、攻撃のタイミングなどは全部任せる。こちらが指示した時に体外魔法を使ってそれ以降体外魔法を好き勝手に使え。

 ……うん。ほぼ無策だ。

 俺が体外魔法を使うなと言った理由は体外魔法の発動を遅延魔法発動の条件にしたからだ。

 体外魔法による攻撃、水魔法なら氷の具現化による串刺しを防ごうと思うのならば、同じく何らかの体外魔法を使うのがセオリーだ。火なら炎、風なら高圧縮された空気など、そう言った物をぶつけて相殺させる。

 事実、試合開始直後から修也は水属性の魔法を放っている。

 二メートルほどの氷柱状の氷が地面から突き抜けてくるインパクトのある魔法だ。

 しかし、攻撃そのものは直線的な動きで一発一発間が空いているために、倉守は寸前の所で後ろに避けることが出来ている。


 俺は俺でもう一つやらなければならない事があった。

 周りを見渡すとすぐに見つけることが出来た。

 俺はリングを見ながらそちらの方向に移動する。ドールマスター戦ではインの動きを見て、アウトの動きを事前に予測すると言った事がある。

 もちろんその逆に相手に予測させるためにわざと離れた位置に移動することもある。

 奇策として観客の中に紛れるなんてのもある。

 ドールマスター戦のルールにインはリングの中に入る事を禁止しているが、どこに居るかの指定が存在しないからだ。

 魔力の供給は悪くなるが、こちらの動きを見て行動の推測が立てられなくなるし、どうにかしてこちらを見つけようとすれば、今度はリング上の動きが解らなくなり本末転倒。

 そう言うわけで、俺が他の生徒達に紛れ込んでもそこまでおかしくなかった。


 試合は完全に劣勢だった。逃げ回るだけの倉守であるが、攻撃は何度かかすってしまっている。それに対して修也は一歩ずつ全身しながら体外魔法でリングの端に追い詰めている。

 木属性の体内魔法は全体的な身体能力の向上だが、それにだって限界はある。身体能力を向上させるために魔法を使って体を酷使させている訳なので、一瞬の為に長期的な力を先取りしてるような物だ。。

 もうこれ以上倉守に逃げさせるのは無理だ。

 遅延魔法の発動が無くても、修也からの攻撃を二~三度直撃するだけで生死に関わってくる。

(ぶっぱなせ!!)

「了解!!」

 倉守の指輪は真紅に輝く。

 魔力が体外に放出されるとき結合指輪は輝く性質がある。

 それとほぼ同時に修也の背後上部に巨大な氷の固まりが出現し、そこから触手のようになめらかに動く水が倉守をめがけて襲う。


 今だ。

 俺は樹里の手を握った。

 

 その瞬間世界は凍り付いた。


 時間停止は俺と樹里が使う魔法の中でもっとも得意な魔法の一つだ。

 通常の戦闘なら五秒ほど止められる。

 しかしながら、これは戦闘ではない。戦闘なら時間停止後の行動なども考えて、ある程度余力を残しておかなければ成らないし、止まった時の中で何かをしようとするならマナと魔力を時間停止とは別に用意しておかなければならない。

 しかし今そんな事はどちらも些末な問題だ。

 二十秒。

 二十秒は俺と樹里の世界だ。




 俺は樹里に引っ張られてリングの上にあがる。

 今にも襲ってきそうな三十六本の氷の触手一つ一つに、木属性の体外魔法で作られた樹木達が、数秒後に破壊できるように設置しておく。

 この作業が意外に難航してしまう。

 あんまりにも出来が良すぎると介入がばれてしまう可能性がある。

 あくまで倉守が出来そうなギリギリのレベルにしておかなければならない。

 樹木の設置が終わり俺と樹里は元の場所に戻った。


 俺は樹里の手を離した。


 時は徐々に本来の速度を取り戻していく。


 瞬間的に表れた氷の固まりに対応して樹木がそれを蹴散らした。

 皆が呆然としている。魔法を使っているはずである倉守まで驚いてしまっている。

 そんな中でも俺は倉守に供給する木属性の魔力を作り始める。時を止めたばかりなので、かなりきつい。

 

 驚きはさらなる驚きによって覆される。

 さきほど全て壊したはずの氷の固まりがもう一度、そこに出来上がっていた。

 俺は一瞬何があったのか解らなかった。

 俺が仕込んだのは36発を一回分なのだ。二回目が来るわけなんて無いのだ。


 違う。

 他の誰かが俺のを模倣して二回目を仕組んだ。

 修也はこのことについてもう前に話していたじゃないか。

『魔法使いをチームで見る人なら、人を三十人殺すよりもよっぽど高く評価する』

 倉守を殺して利益を得るのは修也だけじゃない。修也のパートナーも当然利益を得る。こちらが、どうにかして防げないかと思案していたときに、修也達は防がれてしまった場合の、保険として同じ遅延魔法をもう一回使うことにしていたのだ。

 こうなってしまうと、ギリギリ使えるレベルの魔法にしてしまったのが災いになってしまう。

 瞬間的に行う通常の魔法ではなくて、ある程度時間をかけることが許される遅延魔法ならば実力よりも上の魔法だって使えるだろう。

 ましてや、お手本まで手元にあるのだ。出来ないわけがない。


 前話してたときはパートナーと仲が悪いって言ってたくせに、一緒に人殺しをしようだなんて超仲がいいじゃねえか。

(避けろ!!!!)

 俺に出来ることは全力で魔力を供給することだけだ。


 倉守は最初の一撃を手元から発動していた木魔法でどうにか凌いだ。

 氷は今までの単調な動きではなく、倉守にぶつかる瞬間まで水の形を取りながら、蛇行しながら倉守に近づいてくる。

 しかし二発目三発目が足にかすりバランスを崩して倒れてしまう。

 四発目五発目六発目が倉守に襲いかかってくる。

 そんな状況でありながらも倉守は微笑む。

 倉守の指輪がもう一度真紅に輝く。

 倉守に向かって氷が刃状になって襲ってくる。そこを倉守は自らを吹き飛ばすように木属性の魔法を使った。

 飛ばされた先は、修也の所だ。

 不意を突かれた修也は身動きを取ることが出来ず、倉守共々リング外へ吹っ飛ばされる。

 位置関係上の問題で先にリング外へ追い出される修也の敗北が確定する。

 しかし重要なのは勝敗ではない。

 生きていられるかどうか。

 勝負の決着がついたところ、魔法がすぐに止まるわけではない。

 魔法はリング外に飛んだ倉守の所まで迫っていった。


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