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出会い編5

 そこまで思考がたどり着くと行動は早かった。その日の受業が終わると俺は早速魔法特区内の法律と校則を調べ始めた。

 人殺しを容認しているけど、サスペンスドラマよろしく、ナイフでさされてたり、毒殺されたり、ちょっと違うが強盗、詐欺、なんてしたら当然捕まる。

 あくまで魔法使い同士の戦闘、模擬戦、などに限られる。

 逆に言えば戦闘と模擬戦ならば、いくら人を殺しても問題が無いどころか、むしろ魔法使いとしては箔がついてしまうし、中には人を殺すことを目的としている奴までいる。

 自分のパートナーを殺すのは難しいが、自分のパートナーを殺して貰うのは難しく無い。それが俺のたどり着いた結論だった。

 もちろんその場合は共犯者が必要になってくる。

 しかしながら、共犯者を見つけるのは容易だ。

 人を殺してでも、金が欲しい、地位が欲しい、箔が欲しい奴はこの学校にいくらでもいるのだから。


 例えば、仰木修也とか。


 次の日俺は修也に倉守を殺したいと言うこと、それに協力して欲しいと言うこと、倉守を殺すことでどれだけプラスが生じるかと言うことを懇切丁寧に話した。

 修也はそれらの話をひたすら黙って聞いていた。

 そして俺が全てを言い終わると「やらせてもらうぜ」の一言の後に、修也は色々と語り始めた。

 実家が貧乏であり引け目を感じている事、自分は魔法使いとして有名になって金持ちになりたいと言う事。そのためには入学当初から注目される何かが必要だと思っていた事。

 俺は人目のつかない校舎裏に修也と共にいた。

「俺もパートナーがウザイと思ったことはあったけど、殺そうって思ったことはない。イかれてるよ」

 と言いつつ俺が投げ渡した結合指輪を指にはめているのだから、人のこと言えたもんじゃない。

「ウザいとも思っていない人間を殺そうとするお前の方がよっぽどイかれてると思うぜ? それに俺としては別にしななくても構わない。

 痛い目を見て、少し入院してくれるだけでも良い。

 そうすりゃ怖くなって魔法使いに成ろうとは思わなくなるだろう」

 もっと言えばウザイから殺す訳じゃない。目標の為には殺すしかないって結論が出たから殺すだけだ。

 俺は人殺しを楽しむような酔狂では無い。

 出来れば、今だって殺したく無いと思っている。

 倉守があと少しでも協力的だったら、頑張って魔法に取り組んでいたら、そうしたら弱くてもどうにかできるのに。

  

 俺が考えた倉守美海の暗殺計画はいたってシンプルだ。

 事前に遅延魔法を修也の体に入れておく。

 修也達のチームと俺と倉守のチームで戦う。

 そのタイミングで修也の遅延魔法を発動できるように仕組んでおく。詳しく調べない限りは修也がその場で魔法を使っているようにしか見えない。

 遅延魔法の内容は相手に魔法を使われた時に、受業で教わった水属性の魔法を三十六回連発する事にした。

 一年生が使っても怪しまれないギリギリのレベルだ。



 俺は修也に魔力を送り修也に遅延魔法をかけて貰う。通常の遅延魔法とは違う小細工も入っており、入念に調べない限りばれる恐れは無い。

 十五分程度で遅延魔法は完了した。

「これで明日の試合俺が倉守を殺すことになるんだな」

「あぁ、それでお前は学園で一目置かれる存在になる」

「緊張するな」

「人殺しは一般的に忌避されるからな。でも、魔法使いにとってはそれは違う。どちらかというともっと身近な物だ。だから緊張するなって」

 俺はそう言って修也をなだめた後、解散する事になった。


     ***


「良いかノボル。

 大事なのは使える属性の数でも、同時使用魔法数でも、パートナーとの相性でも、ましてや名家の血統でも無い。

 光を目指す意志だ。

 私たち魔法使いはその光を目指すために、魔法を使っているだけに過ぎない。

 光が無ければ、どんなに強力な魔法が使えた所意味なんて無い。

 光で無いところを目指すのは間違いであり、破滅の道を歩む」

 親父と最後に特訓をしたときに言われた言葉だ。

 深く意味は解らなかったが、俺はその時に『うん』と返事をした。

 きっと今の自分もその言葉を本当には理解していないのだろう。


 この言葉を聞いた一週間後、親父は消えた。


 2007年8月21日


 その日は特別と言うほどの事でも無いけれど、父が東京で戦うことになっていた。

 当時の父は魔法使い同士の格闘技であるウィザードの選手であり、日本ランキング世界ランキングともに一位だった。それに加え日本魔法協会の理事長でもあった。

 俺にとって父は周りに自慢できる存在だった。そして俺は父を超えるようなもっと偉大な魔法使いになるとその時から心を決めていた。

 父の試合を俺はテレビ越しに眺めていた。今思い返すと父の試合はつまらない。だってピンチにならずに一方的に倒してしまうからだ。

 でも、それが良かった。あぁやっぱり父さんは強いんだ。そう当時は思えたから。

 しかしその日の試合は違った。父は大分苦戦していた。

 俺はそれをまばたきすら惜しむように画面に食いついていた。

 そして午後八時十一分。画面はぷつりと消えた。

 最初はテレビの故障だと思った。一緒に見ていた母はテレビの故障では無いかと疑っていたし、姉は自分専用のラジオを取り出して、試合の状況を知ろうとした。

 どちらも間違っていた。

 正確な情報が入ってきたのはそれから数分後。


 ウィザードの試合中に東京会場が消滅した。

 番組は次々と事故現場を写し始める。

 そこには戦争の後のようにガレキの山があった。


 意味が解らなかった。

 無敵である父が死ぬわけがない。完璧である父がこんな事を未然に防げないわけがない 俺は母にそうやって主張したけれど、母と姉はひたすら泣きじゃくるだけだった。


 そこからはもう転落するだけであった。

 事故の原因は父の初歩的なミスであったこと。

 父が日本魔法協会で大量の裏金作りなどの違法行為をしていたこと。

 

 そうして過去には名家を序列していけば最初に来ていた火野も、今では良ければ最後、悪ければ除外されるようになってしまった。


 だから俺はもう一度名誉を取り戻したい。

 父は強いと言うことを俺が勝利を掴むことで証明したい。


     ***


 嫌な夢だった。

 定期的に821蒸発事故の日の事を夢に見てしまう。夢だと解っていても、父が戦っている姿を入念に眺めてしまう。

 そして画面はぷっつりと消えて、ニュースの速報が入って来て―――

 もう考えるのを止めよう。

 俺は枕元にある目覚まし時計を手に取った。

 4:32いつもより少々早い時間である。倉守の布団を見ると、倉守はすでに起きているようで、もぬけの殻だった。

 あいつホント何であんな早起きなの? その習慣治して受業起きろよ。

 いつもの俺なら、一時間ほどジョギングと筋トレをして朝食を食べてから学校に行くのだけど、何というか、気分が良くない。

 それが夢を見たせいなのか、これから人を殺すからなのか俺にはよく解らない。

 いいや、シャワーでも浴びてサッパリしようじゃないか。

 そう思い俺は脱衣所を開いた。

 そこには一糸まとわぬ姿の倉守がいた。

 無いと思っていた胸がそこには存在していた。

 もっと繊細な描写も時間があれば出来たのだろうけれど、残念ながら、扉で頭をギロチンのように絞められてそんな余裕は無かった。

 前に見られてしまったとき俺が怒られたんだからここは怒る場面だよね?


 一分もしないうちに倉守は脱衣所から出てきた。何故かランニングウェアを着ている。

「最低!」

「んな時間にシャワーを浴びるなんて知らなかったんだよ。ってか何でお前ランニングウェア着てるの?」

「あんたには関係無いでしょ」

「練習してたのか?」

 倉守は不機嫌そうに口をへの字にまげて視線をそらす。どうやら本当らしい。前に早起きして何してるか聞いたら読書って言ってたのに…

「……笑えば。どうせ、天才のあんたら見たら、わたしのしてる努力なんて・・・・・・

 聞いたよ。あんたって強い魔法使いなんだね。本来ならわたしとパートナーになるはずが無いほど飛び抜けて強いって、そんなあんたから見たらわたしのしてること何ておままごとだよね。

 あんたはわたしの目の前で差を見せつけて、さらに伸びていくのに、わたしと来たら学校入ってからずっと魔法の特訓してたけど、何の成果も無い・・・

 だから笑いなよ。あいつらみたいにさ」

「俺は、俺は笑ったりしない」

 パートナーが弱いと嘆くことはあっても、

 日常生活が悪すぎて殺したくなっても、

 努力してる人間を笑うことは絶対にしない。

 父が俺にそう教えてくれたから、父のように俺は成りたいと願うから。

 強くなりたいと強く願い実行しているのなら、目に見えていなくても、いつかたどり着けると信じているから。

「強くなりたいなら俺も今日からトレーニングに付き合う」

 倉守の目が点になった。

「笑わないの?」

「光を目指す意志があるからな」

 倉守が小鳥みたいにオーバーに首をかしげる

「俺だって五歳の時から毎日練習練習練習だぜ? 確かに俺は名家の出だけど、それだけで強くなれるほど魔法使いってのは甘く無い。

 最初に悪態ついて悪かった謝るよ」

 俺は頭を下げる。

 本当はこれぐらいでは許されないのだろう。

 この一ヶ月ほどの期間は取り戻しようが無い。

「俺のパートナーになってください」

「私みたいな初心者で良かったら喜んで」

 倉守が笑った。花が咲くようなはなやかな笑顔だ。何だ可愛いところ、あるじゃないか。

「倉守、俺はお前に謝らないといけないことがある」

「なに? 初日の事は今謝ってくれたでしょ?」

「だからこれからする事だよ」

 倉守は首をかしげる。

「今日の模擬戦でお前を殺そうとしていた。遅延魔法で止められそうに無いから今日の試合には出ないでくれ」

「……嫌だ」

 倉守は俺を睨む。殺そうとしている相手を脅しつけるような瞳ではない。

 絶対に勝たなければならない決闘に挑む勇敢さがある瞳だ。

「どうして?」

「あんた前に半端な気持ちで来てるなら止めろって言ったでしょ。

 あんたは私が努力していることが解れば良いのかも知れないけど、私は納得できない。

 私はあんたと釣り合いが取りたいの!

 目標の事もあったけど、私はあんたの凄さをしってから、あんたに負けない魔法使いになるって決めたの。

 だから今日の試合で私が無事でいれたら、私はやっとあんたの隣に立って良いと思える。だから、だから私は逃げない。

 逃げたくない!」



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