出会い編3
名家出身で、基本属性を八種類使え、さらに禁忌属性である時属性まで使え、五歳の頃から英才教育されてきた俺が、ド素人と組むなんてあり得るはずがない。
結合指輪に故障が無いとするなら、学校の方に問題があったに違いない。
そう思って俺は一人で職員棟に直訴しに来たのだ。
倉守? 憤慨してどこかへ言ってしまったが、どうせ間違いだから気にする必要なんて無い。
「おじさんちょっと話があるけどいいか?」
「ここでは樹里のおじさんじゃなくて、氷柱先生と呼んで欲しいな」
「わかったよおじさん。それで、俺のパートナーが間違ってるけどどういう事だ?」
おじさんは突然笑い始めた。あまり品の無い笑い方だけど、誰もおじさんの方を見ようとはしない。たぶん聞き飽きてるんだろう。
「あぁ。そういやそうだったな。すっかり忘れていたよ。
確かに昇が間違いと思いたいのも解るよ。確かにボクも昇と倉守さんの判定結果には驚いたし、間違いだろうと思って再検査もした。
しかし間違いはなかった。一年生の中で君と一番相性がいいのは倉守美海だ。
この結果は職員達の合間でも話題になったよ。
火野の中でも歴代最強クラスの素質を持つ入試一位の魔法使いと、
どこの馬の骨かも解らない補欠入学で入ってきた一般人がタッグを組む。
学園始まって以来の最強と最弱のコンビ。
こんな面白いことはボクでなくて面白がるだろうね」
「もう一度再検査をしてください!」
「一度どころか三回ほどしたよ。倉守さんの詳細なデータは無かったけれど、君の正確な判別データを火野に提出させた。その結果解ったことと言えば、他の組み合わせに間違いを見つけたぐらいだ。これ以上の検査はしないし、組み合わせの変更も無い」
頭が真っ白になった。
「ボクとしてはだね。最強と最弱のコンビと言うよりは火野であるのに、火が使えない少年と、火しか使えない少女のコンビであると言う方が面白いと思うがね。
二人で<地獄の業火と名乗るのがベストと思うが、どうかね地獄の業君?」
地獄の業って一言で俺は思考を取り戻した。
俺を蔑むための二つ名。
火野の中でも歴代最強の炎使いと称された俺の父である火野彰は地獄の業火と二つ名で呼ばれていた。
そんな父を持つにもかかわらず俺は炎が一切使えない。だから地獄の業火から火をとって地獄の業。
お前の罪は炎が使えないことだとでも言うような。そんな二つ名。
まぁだからといってこの快楽主義のおじさんが、わざわざ俺を蔑む理由も無いだろう。
条件反射で俺が反応してしまっただけで、おじさんとしてはただ単に言葉遊びとして楽しいから使ったぐらいだ。
何度も快楽に付き合わされた身としてはこれぐらいで怒る気にはなれない。
「わかりました。ありがとうございます」
「倉守さんの今後の成長に期待しなさい」
俺を超えてしまうような爆発的な成長をされたらされたで、俺の今までは何だったのかと疑いたくなるので遠慮して貰いたい。
「そうだそうだ。昇君。後で君はボクに連絡してくるだろう。だから携帯の番号を教えておこう」
こうやって能弁に語るとき、それは不幸の予兆だと今までの人生経験で理解していた。
結合指輪の不良で無ければ学校側のミスでも無いし、変更も認められない。
最低の学園生活が確定した。
だからと言って俺の目標に代わりは無い。火野一族の名誉回復。
これが俺の当面の目標だ。そのためにも是非学園ランキング一位は取っておきたい。
過去の学園ランキング一位の生徒を見ても、誰もが知っている名前ばかりだ。
一位を取るためには当然魔法使いとして優秀なパートナー、例えば樹里が必要不可欠だ。
しかし変えられないと解った以上他の作が必要だ。
あくまで俺の目標は火野の復権であり、名誉だ。学内ランキング以外にも名誉を取ることは可能なはずだ。
例えば、ド素人と組んで学内ランキング上位にいたら、一目置かれる存在になれるのは間違いない。
倉守がどんな事情を抱えてこの学校に入ってきたかなんて知るよしも無いけれど、入ってくる以上魔法使いとしての目標があるはずだ。
そこを上手く使って自分好みの魔法使いに育てあげていけば、どうにかなるかも知れない。
そのためにも先ほどの失態を挽回し、表面上だけでも仲良くしなかれば。
どうやって? と自問自答。
それはこれから考えよう。まずは興奮気味な精神を落ち着けるためにも新住居で少し休もう。
袋の中に入っていたプリントを頼りに寮までやってきた。パートナーと仲良くしているのか寮が異様に騒がしい。
寮には生活に必要な道具がほぼ一式そろっており、持ち込む必要がある物は私物と、衣服程度だ。その私服も事前に配達してしまっている。
203号室に鍵を使って寮の中に入る。
「あっ!?」
「え!」
そこには倉守がお茶を飲みながらくつろいで居るところだった。
「何でさっきの俺様野郎が私の部屋に入ってくるのよ! 出ていけ!」
「変なあだ名つけるな! それよりもお前こそ俺の部屋から出て行けよ!」
「ここは私の部屋!」
倉守はプリントをテーブルに叩きつける。紙にはここの住所と部屋番号が書かれていた。
「俺も同じ部屋番号だ」
俺もプリントを部屋に置く、当然俺のにも同じ内容が書かれている。
「あれ? じゃあ学校ののミス? ごめんなさいね俺様野郎」
「いや」
後で連絡してくるだろう。の一言がよぎる。
「その疑問に答えてくれる奴に電話するからちょっと待て」
俺は携帯電話を取り出すと、氷河氷柱(おじさんではなくて先生)と自己主張の激しいアドレスに電話をかけた。
「やぁボクの予言は良く当たるねぇ。教師を辞めて占い師にでもなりたいぐらいだ」
「ほんと教師やめてくれよ」
「やれやれ、女の子と同居するのがそんなに嫌なのかい? ボクが同じ年齢の頃なら、大喜びしているぐらいだよ。当時のボクは女の子と一つ屋根の下で暮らして朝起こされたいと常々思っていたからね」
「てめえの妄想なんて聞きたくねぇ! 何でそんな無茶苦茶な話が通るんだよ!? 何か間違いがあったら大変だろ!? 倫理的におかしいだろ!?」
「ほう。樹里と二週間前まで一緒に生活していた君が言うのかい? 片腹痛い。」
「俺以外の生徒達の話だ」
樹里に関して言えば、異性と認識するのが難しい。認識したって妹か姉かその辺りだ。
「簡単に説明すると、パートナー同士で衣食住を共にした方が、相性が良くなるのは君は身をもって知ってるはずだ。それを全生徒にもして貰おうと言うだけだよ」
「倫理的にありえない!」
「君は楽しいことを言うね。
この学校に入るときに人を殺すかも知れない。殺されるかも知れない。
そのような決意を胸に抱いて来るし、実際に書類にサインまでしているのに、今さら男女の同居ぐらいで文句を付けるようなのは、この学園ではやってはいけないね。
個室が欲しいと言うなら学園ランキングの上位に入れば特典で貰える。君の実力なら十二分に可能だろ?」
俺は人を殺す覚悟をしてきた。きっと倉守も樹里も同じように決意して来たはずだ。
「おじさん俺が悪かった。ごめん」
「君が謝ることは無いよ。同居の話を学校に持ちかけたはボクだしね」
「お前が原因かよ!! どうしこんな無茶が通るんだ!」
「ボクは魔法使いとしては三流だけど、人心掌握は一流なんだよ。折角だから説明すると、同居で開いた学生寮を他に貸し出す為だよ。他にも色々諸事情があるけど一番の理由はこれだ」
「本音は」
「面白そうだったから」
「死ね!」
「君はそうやって怒っているけど、男同士でむさ苦しく同居する人々に土下座しなくちゃいけないと思わないのかい?」
「全く」
俺としてはそっちの方がまだマシなんだよ!
「そうか。とにかく同居するのも変更は無い。ボクも忙しい身だから失礼させてもらうよ」
俺が文句を言う前に携帯は切れてしまった。
「……クソ野郎!!!!!!!」
一人暮らしになるからアニメグッズに囲まれて暮らせると思ってたのに!
今まで頑張って樹里にもばれずにオタクやってきて、高校に行けば一人暮らしになるから、好きなだけ囲まれて暮らせると思ってのに!
あのジジイ!
魔法少女かなめマギカのトモエさんのフィギュアとか、トモエさんのおっぱいマウスパッドとか、トモエさんの抱き枕とか全部買えないだろ!!
「誰と話してるのよ」
「あぁ!!」
「ごめん」
悪いのは倉守じゃなくておじさんだ。それなのに倉守に怒りをぶつけたってしょうがない。
「あぁごめん。今の電話は氷河先生だ。同居で間違い無いって」
「げえ」
「君たちは人を殺すかも知れない覚悟、人に殺されるかも知れない覚悟をしてきたのに同居ごときグダグダ言うなってさ」
間違いを犯すかもしれない危険性は、殺すかも知れないと言う覚悟の中に内包されている。らしい。
ところで、一人暮らしだからアニメグッズを収集しようとしていた俺の野望は?