出会い編2
「俺よりも相性が良いと言うことはかなり強いって事でもあるし、むしろ良い事だろ?」
一般的にパートナーは自分と同じ程度の実力であることが望ましいとされる。パートナーを決めるのに使われるワーグナー方式の判別法では実力の部分も加味されている。つまり、樹里のパートナーは俺ともほぼ同等の実力を持ちながら、さらに俺よりも樹里との相性が良い相手であると言うことだ。
「でも、わたし、ノボルが良かった・・・・・・・・・」
「俺も樹里相手が良かったが、決まった以上しょうがない」
俺は樹里の頭を撫でる。何時撫でても撫で心地は満点だ。髪は乙女の命だからと毎度言うだけはある。
「こんなところでへこんでるとパートナーに失礼だ。いつもの笑顔に戻って出迎えてやれよ」
「う、うん。じゃあ向こうから場所の指定されたから行ってくるね。また後で、連絡してね、絶対だよ。そしたらお互いにパートナーを紹介しようね」
樹里は俺に向かって手を振りながら人混みに紛れていく。名残惜しそうにこっちを見続けるものだから樹里は他の人に当たってしまった。
俺が見て無くて大丈夫なのか少々不安だが、俺が付き添う訳にもいかない。
樹里が違う相手と言うことなら俺の相手も樹里では無いって事だ。
もう一度結合指輪で通話してみようとしたが、反応無し。
しょうがないので俺はゲーム機を取り出し暇つぶしだ。
ゲームを始めて十分たったころだ。
(遅れてごめんなさい。あの、名前?)
頭の中に妙に癖のある女の声が響いた。
(遅いよ。何かあったのか?)
(緊張して、指輪はめられなかった・・・・・)
(俺は火野昇、君は?)
(倉守美海<くらもりみみ>)
(よろしくな倉守)
ぐだぐだと指輪越しで会話するのもあれなので、俺たちは場所を指定して落ち合うことになった。
他の生徒達もまぁ似たような物で、あえて分類したとしても、学生寮の方まで行くか(基本的にパートナーの部屋は隣になってる。)か、そこら辺のファーストフード、ファミレスにでも入るかの二択だ。
俺も倉守も人混みが嫌いだったので、闘技場から一駅離れた大学研究棟駅のホームで落ち合う事になった。
学園の敷地内には電車が走っている。
学校ごときに何で鉄道までしかれているのかと言えば、正確に言うとこの学校は学校ではなくて魔法特区に指定された特別な場所だからだ。その魔法特区の中に教育施設が分散して配置されていると言った方がより正しいが、世間一般では魔法大学と一緒くたにされている。
この学校が殺人を実質容認しているのもこの魔法特区制度が主な原因だ。
日本が魔法産業を主軸にする国家戦略を打ち出して五十年ちょっと。その甲斐あってか現在の日本は魔法技術に関しては独走している。
そう言うわけで、この学園の敷地というか、魔法特区には様々な企業があり、様々な魔法の実験が行われ、富、名誉、地位を求める人が集まり、命がゲーム感覚で消えている。
電車に数分ほど揺られていると大学研究棟駅についた。
学生寮がある方面とは反対側にあるので、先ほどの人混みは夢か幻かと聞きたくなるほど人が居なかった。
駅にいるのはスーツを着たおじさんとか、白衣のままスーパーの袋をぶらさげている姉さんとかで、少なくとも俺のパートナーと言えるような人じゃない。
俺はちょろちょろっと辺りを見回すけれど、やはりそれらしい人はいないし、指輪で話しかけても反応が無かった。大半の人間にとって指輪による通話は思考が漏れ出ているのとほとんど一緒なので、用が無ければまずしない。
つまり、また待つのか……これなら携帯電話の番号ぐらい聞いておけば良かった。
ベンチに座り十分ほど待っているとようやく次の電車が来た。扉の開く音と共に俺はその中に少女がいるかどうか探すためにきょろりと見回す。
はずだったのだが、そんな必要もなく、目の前にあぁ絶対こいつだ。と確信させる少女が目の前に立っていた。
初めて見たときの感想を言わせて貰うのならば、最悪だった。
まず身長が低くて、手足が細い。これが女の好みについての感想だったならば、まぁ悪くない。と軽く返せたかも知れないけれど、魔法使いとしては致命的だ。
魔法使いは肉弾戦もこなすので、出来れば高身長でがっつりした肉体である方が好ましい。(まぁちっちゃくて強い奴もいるが)
真っ赤な髪をツインテールにしており、つり目で真っ赤なアンダーフレームの眼鏡をかけており俺のことをまっすぐ見据えている。唇は上に曲がり、さてこれからどんな悪戯をしようと悩んでいるようにも見えた。
眼鏡をかけているのも魔法使いとしてはマイナス要素だ。コンタクトレンズに後で強制的に変えさせよう。
俺が値踏みをしているように倉守も値踏みをしているのだろう。電車がホームから立ち去ると倉守は口を動かした。
「倉守、倉守美海よろしくね」
少し耳にささる子供っぽい声だ。
「火野昇。さっそくで悪いが、倉守は何の属性が使えるんだ?」
これから一緒に戦っていくパートナーなのだ。しっかり特長を覚えて今から戦略を組み立ててて行かないとな。
「私、試験だと火属性って言われたけど」
魔法は基本の九属性である水、金、土、火、木、風、電、光、闇、と特殊な属性群である禁忌属性の二つに大別される。
「俺は禁忌属性の時と木、金、風が得意だ」
使える属性で言えば火属性以外全てに禁忌属性の時になる。基本的に人間の使える属性は4~6程度と言われており、名家出身者だと8~9ぐらいが普通。その中で得意な属性を主軸にし戦い方を決めていく。
もちろん使える属性が大いに越したことは無いが、5属性使えれば戦闘に必要な魔法が全てそろえられる。
倉守が今言った火属性も得意な属性を答えたのだろう。
「他には何が使える?」
「他にって?」
倉守は首をかしげる。
「いや、だから他に使える属性」
「だから火属性が使えるって・・・・・・」
「・・・・・・」
寒気が走る。そんな馬鹿な事があるのか? いやあっては成らない。俺はゆっくりと、浮かんでしまった疑問を解消するために失礼な質問をするしかなかった。
「もしかして、魔法の初心者か?」
こんなことを名家出身の相手に言ったらバカにしてると言われても文句は言えない。今でも火野一族の評判があまりよくないのにこんな事さらに落としたくないが、聞くしかない。
「うん。初めてだよ。火野君もでしょ?」
倉守は無邪気に答えた。
視界が歪む。そのまま倒れそうになるのを抑える。
吐き気がする。
「火野君どうしたの」
倉守が俺の体を支えようとするが、俺は手を突き出してその手を拒絶する。
「……ふっざけんじゃねえぞ!」
倉守が思わず後ろにのけぞる。
「何で俺が、魔法のド素人と組まなきゃいけないんだ!」
和声魔法の威力はパートナーの実力に左右される。当然強い魔法を使いたいのなら、強い魔法使いと組まなければならない。
それにド素人とパートナーと言うことは、俺の実力もド素人と同じ程度と証明しているようなものだ。
こんな事、あり得るはずがない。