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出会い編1

 新入生代表の挨拶が終わり拍手が湧き上がった。戦闘で衆目に晒されるような事はあっても、こうやって文章を読むような事は今までなかったから、妙な汗がでてくる。

 俺がほっと一息をついて壇上から降りる頃には、闘技場内に広がるのが拍手から話し声に変わっていた。

 一人二人ならいざ知らず、会場内にいる新入生約一万人が喋っているのだから、うるさくてしょうがない。

 うるさいとは思うが、だからといって騒いでしまう気持ちも解る。

 これからこの学園の入学式における最大のイベントが待っているのだから。


 席に戻ると俺のパートナーである氷河樹里(ひょうがじゅり)が隣の席で待っていた。

 氷河樹里とは八歳の時からの幼なじみで俺個人としては異性として認識できない。

 樹里の特長を言えば、大きな瞳とおっとりめの性格で、中でも一際目を引くのが、胸元まで伸ばしている青い髪だ。綺麗に手入れされており、手でかき上げると、さらっと流れていく。

 この青い髪色は魔力が関係しているらしいが、魔法使いの名家に数えられる氷河の家でも、髪の毛が青いのは樹里ただ一人だ。

 他の名家、例えば俺火野昇(ひののぼる)は黒髪であるし、他の火野の一族でも髪色が違うような人はいない。

 樹里はにこりとしながらゆっくりとした動作で拍手を俺に向ける。俺は親指を立てて、返事をする。

 そんな応対とは関係無しに樹里は手のひらサイズの袋を俺に手渡した。この袋がイベントの主役であり、お喋りの原因だ。

 壇上に樹里の叔父である氷河氷柱(ひょうがつらら)が登っていく。

 前に何度か会ったことがあるけれど、あまり相手にしたい相手では無い。快楽主義者を自称して、その場その場の刹那的な生き方をしている。そんなわけで俺も樹里も何度か迷惑を被った事がある。

「君たちの学年を担当する氷河氷柱です。まぁボクの事なんてどうせイヤでも覚えるので、さっそく本題。

 さきほど君たちに配られた袋には指輪、鍵、寮の住所と部屋番号が書かれた紙の三つが入っているはずだ。……もしも無かったら後で職員棟に来なさい。

 それでだ。指輪を取り出して中指に付けて貰いたい。

 この学校で初めて魔法に触れる者も少数いるので説明しておくと、この指輪は結合指輪リンクリングと呼ばれる物で、二つ一組の指輪だ。この指輪を使い二人一組で使う魔法、和声魔法ハーモニーが君たちの学ぶ魔法だ。

 なぜ二つ一組なのに君たちの手元に一つしか無いのかと言えば、もう一つは君たちがこの学校で和声魔法を使うパートナーに渡っているからだ。パートナーに不安があるかも知れないが、入試の時に相性も調べてあるので、魔法が使えないなんて事態は起こりえない。

 この指輪は魔法を使うだけでなく、もう片方の指輪をはめている人物と通話することが出来る。それで通話して友情を深めて貰いたい。

 相手の声は頭の中で響く、自分の声を伝えたいときは口で喋るのではなくて、強く思えば伝わる。逆に言えば言いたくなくても伝わってしまうこともあるので、慣れない内は気をつけるように。以上。これをもって入学式は閉会。」

 そう言うと氷柱は逃げるように壇上から降りた。

 俺の時とそう変わらない拍手が舞った後についにみんなのお楽しみタイムであるパートナー発表の瞬間だ。

 パートナーは席替え、いや、クラス替えなんかよりもよほど重要だ。和声魔法を一緒に使う相手を変えることはほとんど無い。相性によっては全然使えない可能性もあるし、同じ相手としている方が魔法の扱いが容易になるからだ。

 逆に言ってしまえば、パートナーがすでにいると、まず相手が変わるような事が無い。長期間同一のパートナーだと、お互いの魔力の波長が似通ってくるからだ。

 つまりだ。八年間もパートナーである樹里を超えるような相手なんてまず表れる訳が無い。見知った顔に安堵することはあっても驚きやとまどい興奮とは無縁だ。

 そう言うわけで、俺にとってはこのイベント、特に楽しいところが無かった。通話の必要性が全く無い距離だぜ? 友情を深める必要なんて今さら無い。

 俺は袋から指輪を取り出すと、早速指に付けることにした。と思ったら樹里に止められた。

「もう一人で付けないでよ。いっせ~の~っせ、で一緒に指輪をつけよ」

「はいはい」

 まぁ樹里が相手なら特に問題も無い。人見知りと言うわけでも無いが、これから寮生活が始まる時に、友人が居ると言うのは非常にありがたいものだ。

「いっせ~の~っせ!」

 樹里のかけ声と共に俺と樹里は指輪をはめた。と言うか何でお前は左手薬指にはめる? どの指でも、と言うか足の指でも問題は無いけど、そこは別の意味で問題があるだろ?


 指輪をつけて十秒もしたけれど、頭の中で特に言葉が響く様子は無かった。樹里が目を細めてにらみつけてくる。メガネでも忘れてきたようにしか見えない。

「ノボルなんか反応してよ」

「お前こそ何か言えよ」

 樹里は顔をほんのりと赤く染める。どうして?

「ねぇこれって故障なのかな?? ノボルは叩けば治ると思う?」

「試してみるか」

 俺は樹里の顔を軽く潰してみた。人がミンチになってるのに結合指輪は無傷でした何てことがあるのに叩いて治るわけがない。叩いて治る可能性を考慮するならば、幼なじみの方がよほど高い。

 樹里の顔はふにふにしてて楽しい。

 樹里の目つきが変わった。迷子になった時と同じように瞳をきょろっとさせる。

 俺は樹里の顔から手を離す。樹里は言葉を探すように戸惑いながら言った。

「あの、私のパートナーノボルじゃないみたい・・・・・・」

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