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期末試験編3

 試験初日。倉守は風邪を引いた。

「これぐらい大丈夫だって」

 と鼻声で喋る人間の言うことを一体どれだけの人が信じるだろうか?

「風邪薬飲んでおけ」

 俺はふらつく倉守を椅子に座らせ、体温計で熱を測らせた。

 これに関しては俺の失態だ。コーチだの何だのと言っておきながら、初歩で重要な体調管理が出来ないだなんて。

「魔法でどうにかならない?」

「風邪は無理だ。」

 魔法にはふれられない部分も多い。風邪などの病気はその代表的な例だ。

「カンニングは?」

「テスト中は結合指輪の着用禁止だ」

 魔法を使ってのカンニングは難しいが、古典的なカンニングは不可能と言い切れる。教師達は一流の魔法使いぞろいだ。易々と見抜くだろう。

「ぼーっとするのだけでもどうにかならない」

「……それは出来るかも知れない」

 水属性の体内魔法に精神を落ち着かせると言うのがある。逆に心を弄るのはそれぐらいしか存在しない。他の精神や記憶を弄るには、禁忌属性の心属性が必須になる。

「テスト直前に樹里に頼んで掛けて貰うから安心しろ」

「わかった」

 体温計の音が鳴る。俺は倉守から奪い取る。倉守なら一度や二度ぐらい詐称してわたしは元気なんだから病人しないで。と言い出しかねない。

 体温計で示された温度は38度9分だった。

 

 倉守は最悪のコンディションの中でも必死に問題を解いた。家に帰ると、そのまま布団に飛び込み、テスト問題の復習などできる様子ではない。

 俺は倉守を医者に連れて行ったり、部屋の掃除などの分担部分の作業も行った。俺だけではどうしようもない部分は樹里と風間の手を借りた。

 倉守に体を休める時間を作って上げたかったからだ。

 親の心子知らずと言う言葉があるが、まさにそんな状況だった。俺の作った時間で倉守がやった事と言えば、

 新たなテスト対策だった。

 

 テスト最終日、テスト終了後俺は倉守と一緒にパソコンの画面を見つめていた。

 倉守の風邪はようやく治りかけたが、一度受けてしまったテストの点は取り戻すことが出来ない。

 自己採点の結果はあまり芳しいとは言えない。赤点のラインを超えてはいるが、依然として退学は口を大きく開いて待っている。

 そこから逃げ出せるかどうかはこれからの実技試験の対戦相手によって決まると言って良かった。俺の推測する限りだと、八勝七敗。ここが倉守のボーダーラインだ。

 俺は懇親の力を込めてマウスをクリックした。テキストからテキストへページが飛んでいく。俺はそのリストに並ぶ名前を一つ一つ確認して、勝てるかどうかの憶測もたてる。

 俺の予想は七勝七敗だった。

 どうにか成るかも知れない。

 俺は希望を持ちながらマウスをスクロールする。

 実技テスト最終日俺たちが戦う最後のチームは、氷河樹里と風間恋愛の二人だった。

 予想される俺と倉守の成績は七勝八敗。

 奇跡が必要だと突きつけられた瞬間だった。


 俺は落胆のため息を吐いた。

「もう一勝なんでしょ! どうにかならないの!?」

「現実的な見方をすると4勝11敗ぐらいの所を、かなりひいき目で見て7勝8敗だ」

 倉守が苦虫をかみ潰したような顔になる。ようやく事態を理解したらしい。

「あたし、退学なんて絶対にしないから」

「俺だって、お前をそのまんま退学させる気は無い」

 ここまで来たら最後まであらがってみせるさ。


 魔法高校の期末試験は少々歪な形をしている。

 単純に実力を測りたいのならば、事前に組み合わせを十五組作るのではなくて、模擬戦の勝率を元に最初の相手を決めた後は、勝率で判断していく方が強さの順序が解っていくだろう。

 もちろん学校側だってそれぐらい認識済み。

 では何故こんな変則的な方法をとるのかと言えば、

 賭博の対象だからだ。

 世界中に配信されると共に、賭の対象にもなっている。そのため事前に人気が出そうな組み合わせを意図的に作っているのだ。

 十五戦目の樹里と風間のチームも俺と樹里が元々チームで無敵の強さを誇っていたからだろう。

 火野昇、

 氷河樹里、

 二人合わせて永宴のエターナルブルー

 倉守の退学が掛かっていなかったら俺と樹里も喜んで戦っている所だ。

 しかし樹里だってこの状況を知っている以上。複雑な心境だろう。

「氷河に勝ち譲って貰うってできない?」

「八百長がばれたら四人共に退学になるし、俺が認めない。もう模擬戦のような事をするのはごめんだ」

 それに今回の事に樹里と風間を巻き込むのは気が引ける。俺と倉守はチームで一蓮托生な関係だけど、樹里と風間は関係が無い。

「どうするの?」

「正攻法で駄目なら搦め手で行くしかない」




「賭博なんてしてる余裕ないでしょ」

「賭博しに来たわけじゃないぞ」

 俺たちは魔法特区内で一番有名なブックメーカーの販売所に来ていた。店内には複数の大型液晶テレビに飲食物の販売もしており、純粋にウィザードの観戦だけを楽しむことも出来る。

 今日から賭けが開始なので、店内は人で賑わっている。

 誰に賭博するか悩んでいる青年、賭博なんて関係なしに食事をしている女子二人組、俺の試合に賭けに来たからなのか俺に手を振っくる大学生の姿などがあった。

 俺の探している男は賑わってる店内の中でも一際人の集まる場所の中心にいた。

 予想屋だ。勝敗の予想や、注目されている選手の情報を買ったり出来る。

 魔法特区内においては、いくらかの上納金と審査を通り抜けると合法的に出来る職業らしい。

 俺が近づくと予想屋の男の方から話しかけてきた。

「やぁ火野の旦那何か入り用で?」

「俺が期末試験で戦うチーム全員分のデータが欲しい」

 一部の生徒、例えば樹里なんかは別に買わなくても模擬戦で見ているから知っているのだけれど、ここまで来ると一人二人減ったところで値段も変わらないだろ。

「金額がシャレになりませんよ?」

「シャレでこんな事を言う人間に見えるのか?」

 予想屋は豪快に笑う。間違ったことをしてるみたいで不快だ。

「いやいやいや、中々スゲーぜ。永宴のエターナルブルーの時にはけっこう無茶苦茶な戦法を取ってたから、最近の試合だとジミーな感じに見えたけど、さすが旦那! 良いよ。ただで、全部調べてやる」

「本当にタダでいいのか?」

 俺は高校生一年分のバイト代が全部吹っ飛ぶぐらいの金額を予想していたのだが。

「別にタダでいいさ。こっちはこっちで貴重な情報をいただいた訳だからな。火野昇がすごい必死だってな」

 なるほど。俺が他の生徒の情報を必死になって集めていると言うことも情報になるのか、自分が有名だから出来る裏技みたいな物か。

 一挙一動がそうやって売買されているのはあまり良い気分ではないけど、そうも言ってられないか。

 しかし、これはむしろチャンスだよな?

「ところで、結合指輪をオーダーメイドで作りたいのだけど、どこか良い店か生徒を知らないだろうか?」

 結合指輪は学校側から配布されている基本的な物以外も使用が認められている。例えば、炎属性を伝達するのに特化した指輪なんてのを使っても良い。

「どんな結合指輪」

「炎属性に特化した指輪が欲しい」

「それなら良い店を知ってますよ。お代はいりませんって、これぐらいサービスサービス。だからごひいきよろしく」

 予想屋がニタっと笑うのを確認した。

 これで、倉守の炎属性で戦うと憶測をたてるはずだ。

 じゃあ帰るかな。と俺があたりを見回すと、倉守は受付で少々もめていた。

「何してるんだよお前」

「願掛けの為に私の試合を賭けようとしたんだけど」

「試合の関係者はご購入になれません」

 受付嬢は苦笑いをしていた。


 俺はブックメーカーで倉守と別れた後に、情報屋に教えられた店で炎属性特化型の結合指輪を二つ購入した。

 二つと言うのがポイントだ。

 一つは普通に使わせて貰う。倉守が今後他の属性を使えるようになったとしても、炎属性が一番強い属性であるのは変わらない以上、炎属性を中心とした戦略を立てていくしかない。

 もう一つは特長の無いの結合指輪として使えるように細工する。魔法道具の製造は俺の専門分野外だが、樹里に協力してもらえばこれぐらいは可能だ。

 こうすれば、一回限定のインアウトの奇襲的入れ替えが可能だ。

 さらに俺はスーパーで包丁も購入した。

 期末試験では魔法道具で無い道具の持ち込みは認可されている。

 と言っても、手に持てる範囲限定と言う注釈もあるし、持ち込むような生徒はあまり居ない。

 なぜそんなルールがあるのかと言えば、風属性を使う生徒が、魔法で操る物を持参してくる為だ。

 ならば持って行けば風属性メインで戦ってくれると誤認してくれる……かもしれない。

 俺も風属性と水属性が強い樹里のパートナーをしていたので解るが、風単体で強力な攻撃を出来るようになるには、かなりの熟練が必要になる。俺もそこまでの実力は無いので、水属性で作った水の中に、研磨剤を入れてウォーターカッターのようにして使っていた。

 後は相手の情報を見て個別に対策を取りながら、倉守が劇的に成長してくれるのを祈るしかない。

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