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期末試験編1

 魔法使いの朝は……別に早くない。

 受業が終わってからトレーニングをすることに決めたからだ。。

 一緒にトレーニングをするようになってから一ヶ月が経過し強くなったかと言うと、そんなすぐに効果が出るなら苦労しない。

 もちろんお手軽ですぐに効果が出るような素晴らしい物があるのなら、俺だってそれをやるだろうし、

 倉守だってすぐにでも実戦してただろう。

 いや、実際に実戦していたと言った方が正しい。

 倉守が自分でくみ上げたメニューはかなり上級者向けのメニューだった。少なくとも初心者に出来るわけがない。

 では初心者にも優しくきちんと上達するメニューとは何か。


「もう、無理……」

 倉守は息を荒げた。

「まだまだ、これからが本番だぜ?」

「え、そんな……」

 初心者には7キロのジョギングは厳しいのだろうか?

 もしかしたら魔法使いだから特殊な特訓でもすると思う人がいるかも知れないが、基礎的なトレーニングの方が多い。

 一応魔法使いの家にだけ伝わる門外不出の特訓と言うのもあるけれど、あんな危険な特訓を一般生徒に考えなしにやったら、

 毎年の死亡人数の桁が一つか二つ増える。

 俺も火野に伝わる特訓を一度だけやった事がある。確かに効果抜群だったがもう二度とシタクアリマセン。

「ねぇ、短期間で強くなれる方法って無いの?」

「ンなもんあるか!」

 火野の特訓方法を教えたら倉守は絶対やる!って言い始めるんだろうな。

 断言してもいい。やったら絶対に死ぬ。

「ほら、走れ走れ、後2キロあるぞ!」

「え?」

「俺はいつも18キロ走ってるぞ。それに一緒にトレーニング始めてから一ヶ月そろそろ5キロから7キロにするには良いタイミングだと思う」

「本気?」

 倉守はうなだれる。

「強くなりたいんだろ?」

「うん・・・・・・」

 強くなりたいんだろ?と、問いただすと、倉守は何時だって気合いを入れ直す。

 強くならないと貴方は死にますよと死刑宣告でもされてるようで少々怖い。

 いや違う。倉守は怖い。

 行動原理が全く理解できない。

 単純に強くなりたいと思っていたのなら、もっと知識を蓄えてたりしててもおかしくないはずなのに、倉守は魔法に関する知識がとことん欠けている。

 俺には倉守が魔法に興味が無いように見える。

 魔法に興味が無いけど魔法高校に入学する奴なんて、俺の知ってる限りだと、樹里のパートナーである風間ぐらいだろう。

 彼女の場合はかなり例外的だ。魔法使いの名家であるから体面上しょうがなく通っているだけにすぎない。

 彼女の意志はそこに介入してない。

 対して倉守は自分からこの道を選んでいる。

「なぁそう言えばお前は何で魔法使いとして強くなりたいんだ」

 倉守は視線をそらした。

 言えない理由。

 それは俺が信頼されてないからなのだろうか?

 まぁきっと何時か話してくれるだろう。

 それよりも今はもっと大事な事がある。

「解った。5キロで走ろう」

「ううん。頑張る。もっと頑張る」

「もちろん走って貰いたいけど、ちょっと嫌な事思い出してね。そろそろテスト対策しないと不味い」

「テスト?」

 今は六月の中旬。確かにテストの一週間前から頑張るタイプには少々早いだろう。

 そう普通の学校なら

「筆記試験は七月前にやる。七月からは実技の試験が入る。実技のテストは三週間連続での試合だ。一日一回合計で十五戦やるぞ」

「そんなに多いの?」

 この学校に入ってきてそんな事を言うのはきっと倉守だけだろう。

 魔法高校の実技試験は全国で放送されている。成績上位陣の戦いはプロのウィザードと比較しても引けを一切取らない。そんなプロレベルの試合を毎日長時間見ることが出来るのでウィザードファンならばこの時期を忘れるはずが無い。

 そう忘れるどころか知らないはず無いんだよ。この学校に来るような奴だったら……

 ホント、どうして魔法使いになりたがるんだか。

「とりあえず、実技のテストに関しては今学期はあきらめてる。たぶん五勝も出来たら良い方だ」

「模擬戦けっこう勝ってるんだからもっと上を目指そうよ」

 倉守暗殺の後にも模擬戦は何度か行われた。俺たちチームの成績は四勝二敗。確かに悪くない成績だ。確かにこの成績から考えれば控えめに見えるかも知れない。

「ルールが違う。ドールマスター戦じゃなくてスタンダード戦。ようするにチーム二人ともがリングの上にいるルールだ」

 どう考えても相手は倉守を率先して狙ってくる。どちらがイン、アウトをするにしてもかなり苦戦を強いられる。

「違うルールもあるんだ」

「だから実技で取れない分を筆記の方で稼いでおかないとかなり不味い」

 まさか俺がこの心配をする事が来るとは思っていなかった。

「最悪退学になる」

 殺すのも殺されるのも日常茶飯事な魔法高校ではあるが、別に学校側だってそれを望んでいるわけではない。

 その証拠の一つとしてあげられるのが、退学させるラインが異様に高いことだ。

 他の魔法学校なら成績が少し低い程度の扱いで済むような事でもここでは命取り、魔法を使う才能が無いのなら、死ぬ前に帰って貰うのがこの学校の嗜み。

 そんなありがたいのかありがたくないのか全然解らない制度だ。

 個人的に言わせて貰えば、退学を阻止するために人殺しへと拍車がかかるシステムであるとも思う。

 まぁ実技が駄目でも平常点と筆記の方の試験点を取っておけば、そこまで気にする物ではない。

 さすがに十五戦十五敗をするのは難しいからね。

「倉守大丈夫か? ちょっと顔色が悪いように思えるぞ」

 いや、顔色が悪いというか死んでるというか。

「なぁ倉守、最近は受業聞いてるよな」

 こくこくと顔を上下に倉守は振った。

「確かに最初の頃寝てたから、平常点は悪いと思うが、テストできっちり―――」

 ここまで言って俺はどういう事態になっているのかにようやく気づいた。

「もしかして受業全然解ってなかった?」

「うん……」

 もっと早くに気づいていてもおかしくなかった事態なのに。

 倉守は魔法に興味が無い。それはつまり本来この学校に来るような生徒だったら知っていて当たり前のような知識が無いと言うこと。

 それが受業そのものにだって当てはまると言うこと。

 そして倉守は序盤の授業をずっと寝ていたと言うこと。

 本来、一年生に成ったばかりの受業はさほど難しくはない。しかしそれは魔法に興味があればの話だ。

「どうしてそう言うことをちゃんと言ってくれないんだよ!」

「………ごめん」


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