プロローグ
それを男と呼ぶのは難しい。
腕や足と呼ばれていた部分は使い古された雑巾のように散り散りになっており、人や男と表現するよりも、肉袋と表現した方がより的確な表現になる。
肉袋はリングの上で儀式の貢ぎ物みたいに置かれている。
儀式を連想させるのはそれだけでは無い。肉袋から吹き出した血しぶきは肉袋を中心とした魔法陣を思わせ、会場内に高ぶる喚声は神の神託を今か今かと待ちわびている教徒にでもなるのだろう。
そのような連想でこの状況を考えるのならば、
肉袋の目の前で大剣を握る少女は神の神託を受け持つ巫女と考えるべきだ。
少女は小柄でありながらも、自らの背丈を超える大剣を指揮棒でも振るうように楽々と振り回す。
肉袋に大剣が振り落とされる。
肉袋は冷淡に、ただ剣を握る少女を見つめている。最初からこうなることを予期し望んでいたかのようだ。
少女は振り下ろした大剣を持ち上げる。
肩を大きく振るわせて笑う。泣き叫ぶ行為を笑いに変換したのならば、きっと少女の笑いに酷似するだろう。
血しぶきがあがる。それと共に会場の声が絶頂を迎える。
肉袋から腕だった物が完全に分断され、人としての形を無くす。
少女は大剣で肉袋を踏みにじる。
何度も叩きつける。
その度に血が流れ、喚声がうねり、笑い声が響く。
これが魔法高校、正式名称、魔法特区大学附属高等学校における日常生活、
とまでは言えないが、迎える可能性のある終焉の一つだ。
魔法高校が発表しているデータでは毎年数千名にも及ぶ死傷者が出ている。名目上は事故として処理されているが、実際は魔法使い同士の戦闘によって死んだり怪我をした数だ。
魔法使い同士の戦闘では、ミンチになって肉片だけになっていることも珍しくは無い。
対照的に過失致死罪での逮捕者はいない。
これは魔法高校が、いや魔法特区が事実上戦闘行為による殺人を容認しているからだ。
だからといって魔法高校が生徒の死を望んでいるわけでは無い。
魔法高校では入学希望者に対して事前にこれらの事を説明している。
それでもなお、若者達はそれぞれの野望を、希望を抱いてこの学校に入学してくる。
すべての人に崇められる名誉、絶対的不動な地位、使い切ることのできない金銭、
魔法高校ではどんな願望も手に入れることが可能だからだ。