暗闇に響き渡る回転音
暑かった夏が一段落してもなお暑さが続く残暑、草木はその力強い日の光を浴びて成長していく。
そんな暑さの残る中、喧騒と共に沢山の学生が学校の正門から出てくる。
夏休みが終わり久しぶりに会った友達との話に花を咲かせたり共に夏休みを満喫したのか、元気よく歩く学生達。
その中である一人の生徒の携帯が鳴る。
ハライ〜ン
バイブレーションと共にその独特な音は、隣に並んでいた金髪の女の子の耳に飛び込んでくる。
「来たわね!」
声を聞いただけで喜んでいることが分かるぐらいに、嬉しそうに話す女の子。
「依頼、かな」
ショートボブでハーフアップ後ろ結びしている携帯の持ち主である女の子は、そう呟きながら立ち止まり画面を見つめる。
「今度は何?」
「何が来てもこの天才退魔師である土御門 嬢子が祓ってあげるわ!」
金髪でドリルな長髪巻き髪を振り回しながら、体全体を使って叫ぶ女の子、嬢子ちゃん。
日の光よりも暑い感じがひしひしと滲み出ている。
「だじょ〜」
その女の子のおでこには、黒色に大きな目が二つあるアイマスクがあり、そのアイマスクも一緒に叫ぶ。
「とりあえず落ち着いて、嬢子ちゃん」
嬢子ちゃんのアイマスクが喋っているのに、驚きもせず冷静に嬢子ちゃんをたしなめる文花ちゃん。
こちらは嬢子ちゃんとは対象的に、静かな物腰で話す文花ちゃん。
「ハニー」
文花ちゃんの肩の辺りから相槌?が聞こえてくる。
つるりとした茶色い身体に左右の手を上げ下げしたポーズ……いわゆる埴輪である。
埴輪が文花ちゃんの肩に乗って喋っているのだ。
「落ち着いてなんか居られないわよ!」
「この稀代の天才祓魔師、土御門嬢子の晴れ舞台よ!」
こちらも喋る埴輪に意を介さず、捲し立てるように話す嬢子ちゃん。
残暑がますます残暑になりそうな喋りである。
「ぇと……」
そう呟きながら立ち止まり携帯を操作して、通知内容を確認する文花ちゃん。
「……!?」
すると、少し驚いた様な顔をする。
「ん?」
「どうしたの、文花」
そんな顔を見て、嬢子ちゃんが声をかける。
「ぁ、いや」
「今週の土曜日みたいだね、依頼」
直ぐに普通の顔に戻り、嬢子ちゃんの問いに答える文花ちゃん。
「ほうほう」
嬢子ちゃんは自分の携帯にも来ていた連絡の内容を確認する。
「みたいね……」
「って、詳細内容は書いてないし」
「文花について行って、とだけ?」
少々不思議な依頼内容に訝しげな顔をする嬢子ちゃん。
「まぁ、文花が案内してくれるって言うなら安心ね」
その喋りには文花ちゃんを信頼している様が感じ取れる。
「それで、どんな内容で何処に行くの?」
続けて嬢子ちゃんが文花ちゃんに問いかける。
「ん〜と」
「色々事前確認があるみたいで、当日は支部に寄らないといけないんだって」
「だから……土曜日に、うちの神社のある公園に集合でいいかな?」
少し考えた後、文花ちゃんはそう答える。
「わかったわ!」
「気合い入れて行くわよ!」
片腕を前に突き出し、何故かガッツポーズをする嬢子ちゃん。
この二人、高校生ながら退魔師資格の3級に合格した3級退魔師なのである。
昔から一緒に行動していて、仲の良い友達以上にバディと言った感じである。
とは言え、暴走気味の嬢子ちゃんを文花ちゃんがたしなめている、と言った構図の方が正しいのかもしれない。
それでもお互いを信頼しあっているのが感じ取れる。
長縄 文花、家が神社なので巫女さんをやっている。
その神社は家の側の公園内にあり、古墳の上に建立されたものだ。
古墳の上にあることもあり、比較的由緒ある神社である。
ちなみに文花ちゃんは、古墳と縄文時代が大好きな歴女?でもある。
文花ちゃんの肩に乗っていた埴輪が、喋っているのも頷ける。
「まぁ……」
「嬢子ちゃんだし、大丈夫かな」
そんな事を言いながら、文花ちゃんは嬢子ちゃんに手を振り、迎えの車に乗って帰っていく嬢子ちゃんを見送った。
そして、約束の土曜日。
嬢子ちゃんを乗せた車が公園内の駐車場に止まる。
そこで待っていた文花ちゃんは、車に乗る嬢子ちゃんに手を振る。
嬢子ちゃんの家はホームセンターなので、配送用の車が空いている時は、その空いた車を使用し送り迎えしてもらっているのだ。
「お待たせしました」
その車を運転するお付きメイドの乙木メイさんが、運転席から文花ちゃんに声をかける。
「さぁ、乗って」
助手席に乗っていた嬢子ちゃんも、文花ちゃんにそう言って文花ちゃんは車に乗り込む。
「今日はワンボックスか……」
乗り込みながら文花ちゃんは、そう呟く。
ホームセンターの配送用の空いた車を使わせて貰っているのだか、今日空いていた車はワンボックスカーのようだ。
ちなみにこの間は軽トラックだった。
軽トラックに三人乗ると、窮屈にならないかと少し心配だったが、ワンボックスカーだったので一安心、と胸を撫で下ろす文花ちゃん。
「では、向かいますね」
運転席のメイさんがそう言う。
「お願いします」
文花ちゃんは律儀にそう返答し、車は走り出した。
何となくぼんやり窓の外を眺める嬢子ちゃん。
この町はそれほど都会でもなく、はたまた田舎でもない。
ちょうど良いトカイナカ、という感じの町である。
その町中を暫くを走り、支部のあるビルに到着する。
「私は車を止めてまいります」
嬢子ちゃんと文花ちゃんは先に車を降り、ビルの中へと入る。
一階には受付カウンターがあり、文花ちゃんはそこで受け付けを済ませる。
「じゃあ、行こっか嬢子ちゃん」
手早く受け付けを済ませた文花ちゃんが、暇を持て余しそうだった嬢子ちゃんに声をかける。
「よし、悪霊はどこ?」
気がはやる嬢子ちゃんは、文花ちゃんにそう叫び目を輝かせる。
「いや、ここには居ないよ」
「事前確認があるって話、したよね」
嬢子ちゃんの先走りに慣れているのか、軽くあしらう文花ちゃん。
「そうだっけ?」
「まぁいいわ、行くわよ!」
相変わらず話を聞かずに、気がはやる嬢子ちゃん。
ウイィィィィィィ……
下に向かうエレベーターに乗り、目的の階まで移動する二人。
「事前確認がいるって事は……」
「きっと大物の悪霊ね!」
「腕が唸るわ」
絶好調な嬢子ちゃんは!捲し立てる様に文花ちゃんに語りかける。
「腕が……鳴る、ね」
そんな嬢子ちゃんを冷静にあしらう文花ちゃん。
チーン
目的の階に着いた二人は、その先の通路を進む。
「あら」
「また会ったわね」
そんな声が前から聞こえてくる。
「「摩夜さん」」
前から歩いてきたのは、摩夜さん。
二人は声を合わせて、そう声をかける。
「お二人は……支部に用事、ですかね」
オトナな女性の摩夜さん、夏休み中にあった出来事で知り合った人だ。
「です!」
嬢子ちゃんは相変わらず元気な返しをする。
「はい、ちょっと所用で」
文花ちゃんは丁寧に返答する。
「……ふふ」
「お大事に」
摩夜さんはそう微笑みながら、手を振り去って行く。
「……」
「なんだか、知ってそう……なのかな」
その返答に文花ちゃんは、少し警戒する。
「どうしたの?文花」
そんな文花ちゃんに声をかける嬢子ちゃん。
「ぁ、いや」
「何でもないよ、行こっか」
すぐに普段通りの顔をして、歩を進める文花ちゃん。
しばらく歩くと目的の部屋が見えて来る。
「……控室」
部屋に書かれている文字を見て、呟く文花ちゃん。
「ここに悪霊が居るのね!」
バン!
勢い良く部屋のドアを開けて、中に入る嬢子ちゃん。
「……」
「あれ?」
何の変哲もない部屋の様子に拍子抜けする嬢子ちゃん。
部屋の中は……なんてことない控室。
楽屋というか、待機室というか、珍しいモノも悪霊も何も無い。
暫くその部屋に居ると、声が聞こえてくる。
「土御門さん」
「土御門 嬢子さん」
「へ?私?」
「ほぁい」
名前を呼ばれた嬢子ちゃんは、不意をつかれたのか素っ頓狂な返事をする。
名前を呼んだのは……看護師さんの様な出で立ちの女性。
「こちらへどうぞ」
控室から続く別の部屋へと案内される。
「あれ?文花は?」
呼ばれたのは自分だけで、文花は呼ばれていない事に気付く嬢子ちゃん。
「ぁあ、私はね」
そんな嬢子ちゃんの疑問に答えるかのように、文花ちゃんは嬢子ちゃんに近づく。
「付き添い、よ」
そう言って、嬢子ちゃんのオデコにあるアイマスク……大きな目のついたジョー君、と言う名前のアイマスクを下ろす。
「ぅあっ」
「これじゃ見えないわよ」
アイマスクを下ろされ、視界が塞がれる嬢子ちゃん。
「大丈夫、私がついてるし」
「ジョー君が代わりに見てくれる、でしょ」
文花ちゃんはそう言いながら、嬢子ちゃんの手を握る。
大きな目のついたアイマスクを下ろされて、前も見えないまま手を取り連れられて行く嬢子ちゃん。
「ふぁっ!」
「へぁっ!」
視界が塞がれているからか、時折変な声を上げながら歩く嬢子ちゃん。
暫く歩いた所で、文花ちゃんが口を開く。
「ここに座って」
そう言って前も後ろもわからない嬢子ちゃんを、椅子に座らせる。
「……一体」
「何が、始まるの?」
ビビっているようで、ビビっていませんよ風に喋る嬢子ちゃん。
暫くすると、どこからか音が聞こえてくる。
キュイィィィィィィィィィ……
「!?」
「な、何の音?」
突然鳴り響いた音に、嬢子ちゃんはビビり倒す。
いや、本人に言わせればビビって無い。
キュイィィィィィィ……
「キュイィィィィィィ……」
自分でその音を口に出して確認している嬢子ちゃん。
「回転体?」
「しかもこの音の感じは……小型のモノね」
「わかったわ!携帯用の小型ドリルでしょう!」
さすがドリル好きなだけある、音を聞き取り形状や大きさまで当てる嬢子ちゃん。
そんな嬢子ちゃんに文花ちゃんが答える。
「当たり」
「じゃあ、私は控室で待ってるわね」
文花ちゃんはそう言うと、嬢子ちゃんのアイマスクを上げる。
眩しい光が目に飛び込み、慣れてくるまで暫く待つ。
やがて目が慣れて辺りが見えて来る。
「ぅあぁぁぁあ!」
嬢子ちゃんは目の前の光景に悲鳴を上げる。
そう、嬢子ちゃんが見たもの……それは、
「歯医者!!」
「なんで!?」
嬢子ちゃんが連れてこられて、座らされた椅子。
そこは歯医者だったのだ。
「どういう事!?」
そう言って嬢子ちゃんは、立ち去ろうとする文花ちゃんに向かって叫ぶ。
「ぁ〜」
「嬢子ちゃん」
「春の歯科健診で引っかかったのに、治療せず放置してたでしょ」
「ハライン協会の方から指摘があってね」
「強制治療になったから」
「じゃ」
そこまで言って、再び去ろうとする文花ちゃん。
「ぁ、え?」
「そんな!」
完全に不意打ちを食らい、慌てふためく嬢子ちゃん。
治療せずに放置していたのは間違いない、が……
「あ!いや!」
「心の準備……とか!」
精一杯叫び、言い訳じみた話をし始める嬢子ちゃん。
すると文花ちゃんが、再び嬢子ちゃんの方を向く。
「あれぇ〜」
「嬢子ちゃんって、ドリル好きだったよね」
「それもドリルだけど」
「やっぱり嫌い?」
そう言いながら不敵に微笑む文花ちゃん。
確かに嬢子ちゃんは無類のドリル好きである。
自身の必殺技やら武器やら、ドリルまみれな上に好きな食べ物はトキントキンコーンやら、トルネードポテトやら螺旋状のものばかり。
挙句の果てには自身の髪型も巻き髪、いわゆるドリル髪だ。
「……くっ」
「あぁっ、もぉぉっ!」
そんなドリル好きの嬢子ちゃんは、響き渡るドリルの回転音に覚悟を決める。
「わかったわよ!」
「さぁ、来なさい!」
「私はどんなドリルでも受け止めるわ!!」
嬢子ちゃんはそう言って覚悟を決める。
そんな嬢子ちゃんを見て一安心した文花ちゃん。
「それじゃ、後は頑張って」
そう言って部屋を後にする。
その後、治療室に響き渡るのは嬢子ちゃんの悲鳴。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁあ゛っ……」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁあ゛っ……」
こうして嬢子ちゃんに巣食う悪霊は退治されましたとさ。
うなぎちゃんのカチューシャに出てくる、退魔師コンビの話です。
ハライン短編もあるので、よろしければそちらもどうぞ




