第24話 中枢暴走と書き換えられる世界
“世界の裏側”――データ層。
そこに存在する巨大な構造体は、ただそこにあるだけで圧倒的だった。
規模が違う。
今までの敵とは根本からして異なる存在。
それは“個体”ではなく、“機能”だった。
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『異常侵入者……再確認』
重く、明瞭な声が空間全体に響く。
先ほどまでの“残響”とは明らかに違う。
これは、本体。
この世界の中枢そのもの。
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「……完全にラスボスだね」
アイリスが淡々と呟く。
だが、その目は鋭いままだ。
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「笑えねぇ規模だな……」
ガルドが盾を構え直す。
リーナもすでに戦闘態勢に入っている。
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次の瞬間。
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構造体の一部が変形した。
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光が収束し、“形”を成す。
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それは――
人型。
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だが先ほどのものよりも遥かに精密で、完成されている。
輪郭は安定し、ノイズはない。
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『排除処理……開始』
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「来る!」
アイリスが叫ぶ。
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瞬間。
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“消えた”。
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「っ!?」
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視界から消失。
気配もない。
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「上!」
リーナが反応する。
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頭上。
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すでに攻撃が振り下ろされていた。
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「くっ!」
ガルドが盾で受ける。
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衝撃。
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重いどころではない。
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「ぐぁっ……!」
地面がないはずの空間で、押し込まれる。
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「……速すぎる」
アイリスが目を細める。
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(転移じゃない)
(座標移動……)
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つまり――
(好きな場所に瞬時に出現できる)
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「面倒だね」
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だが、焦りはない。
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「ガルド、無理しないで!」
「分かってる……が、重ぇなこれは!」
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リーナが側面から斬りかかる。
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だが――
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すり抜ける。
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「……当たらない」
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「位相ズレ+高速移動」
アイリスが即座に分析する。
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「つまり?」
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「普通じゃ無理」
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短い結論。
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次の瞬間。
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敵が再び消える。
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「左!」
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アイリスの指示。
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ガルドが反応する。
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ギリギリで防ぐ。
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「チッ……!」
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連続攻撃。
まるで“どこにでもいる”かのような動き。
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「……なら」
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アイリスは弓を構える。
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(範囲で潰す)
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「ガルド、リーナ!」
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二人が同時に距離を取る。
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「いくよ」
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魔力を集中。
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「ファイア・バースト!」
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広範囲爆発。
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空間全体を巻き込む。
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そして――
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一瞬だけ、“当たる”。
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「……いた」
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そこを逃さない。
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矢を放つ。
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だが――
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『回避』
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完全に避けられる。
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「……読まれてる」
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「そりゃそうだろ」
ガルドが苦笑する。
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「相手は“中枢”だ」
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つまり――
(最適解を選び続ける存在)
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「だったら」
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アイリスの目が光る。
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「最適化できない状況にする」
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「……できるのか?」
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「やる」
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即答。
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アイテムボックスを開く。
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今度は、今まで以上に“無茶”をする。
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矢。
魔法素材。
石。
武器。
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すべてを同時に出し入れ。
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空間が歪む。
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『異常値……急上昇』
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「いいね」
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さらに加速。
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出し入れの“ズレ”が拡大する。
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存在が重なり、増殖する。
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空間のルールが壊れる。
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「……これなら」
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弓を構える。
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だが、今回は違う。
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矢だけじゃない。
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“空間ごと”撃つ。
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「いける」
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放つ。
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その瞬間。
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広範囲に“ズレ”が発生する。
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逃げ場がなくなる。
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『……回避不能……』
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初めての言葉。
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攻撃が直撃する。
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人型が大きく揺らぐ。
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「効いてる!」
ガルドが叫ぶ。
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「畳み掛ける!」
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リーナが突っ込む。
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斬撃。
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ガルドが叩きつける。
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連携。
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だが――
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その瞬間。
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構造体全体が“光った”。
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「……っ!」
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嫌な予感。
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『緊急処理……発動』
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空間が、変わる。
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光が走る。
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そして――
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“書き換えられる”。
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「……なに、これ」
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アイリスの声が低くなる。
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景色が変わる。
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足元に地面が現れる。
空ができる。
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まるで――
“新しい世界”が構築されている。
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「……マップを作り直してる……?」
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ガルドが呆然とする。
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「違う」
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アイリスは首を振る。
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「ルールそのものを変えてる」
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つまり――
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(バグが通用しなくなる可能性)
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ゴミスキルと呼ばれた力。
それすら無効化されるかもしれない。
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だが――
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アイリスは笑った。
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「いいよ」
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「え?」
ガルドが驚く。
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「だったら、もっと壊すだけ」
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その目に、迷いはない。
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そして少女は――
“世界の書き換え”そのものに、挑む。




