第18話 遺された宝とプレイヤーの影
紫の結晶が完全に砕け散ったあと――
遺跡の奥に広がったのは、これまでとは明らかに異なる空間だった。
静寂。
そして――
「……光ってる」
リーナがぽつりと呟く。
視線の先。
そこには、部屋の奥に積み上げられた“何か”があった。
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三人は慎重に歩み寄る。
敵の気配はない。
だが、ここまで来て油断する理由もない。
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「……これは」
ガルドが思わず息を呑む。
そこにあったのは――
金貨、銀貨、宝石。
そして装飾品の山。
まさに“財宝”だった。
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「すごい量……」
リーナが珍しく感嘆の声を漏らす。
床一面に広がる輝き。
まるで王城の宝物庫のようだ。
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だが、アイリスはそれを見ても表情を変えなかった。
「……想定内」
冷静な一言。
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「想定内って……」
ガルドが呆れる。
「いや、普通じゃねぇだろ、これ」
「うん。でも、この遺跡の構造的に“溜まる”場所はここしかないから」
淡々と分析する。
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魔物が集めたものか、あるいは過去の探索者の遺品か。
いずれにせよ――
(全部回収)
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アイリスはアイテムボックスを開く。
そして――
次々と財宝を収納していく。
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「……一瞬で消えたな」
ガルドが苦笑する。
「便利すぎるだろ、それ」
「便利だよ」
即答。
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金貨も銀貨も、宝石も。
すべて収納。
重さも関係ない。
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だが。
「……まだある」
アイリスが手を止めた。
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財宝の奥。
木箱がいくつか並んでいる。
普通の宝とは違う。
どこか“人工的”な雰囲気。
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「……なんだこれ」
ガルドが近づく。
「開けるよ」
アイリスが箱を開ける。
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中にあったのは――
瓶だった。
ガラス製の、美しく整った形。
中には琥珀色の液体。
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「……酒か?」
ガルドが目を細める。
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「ただの酒じゃない」
アイリスの声がわずかに変わる。
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ラベルを見る。
そこに書かれている文字。
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「……やっぱり」
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「知ってるのか?」
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「これ……プレイヤー製」
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その言葉に、ガルドが眉をひそめる。
「プレイヤーってのは……お前が言ってた“異世界の人間”か?」
「うん」
アイリスは頷く。
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ゲーム時代。
プレイヤーたちは、様々な生産を行っていた。
その中でも――
(酒は有名だった)
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「これはレアだよ」
瓶を手に取り、光にかざす。
「効果付きのやつ」
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「効果?」
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「飲むと一時的に能力が上がる」
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「……そんなもんがあるのか」
ガルドが驚く。
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「しかもこれ、当時かなり有名だったシリーズ」
アイリスはラベルを確認する。
「味も良いし、効果も高い」
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「……売ったらいくらになる?」
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「かなり」
即答。
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だが――
(売らない)
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「これは使う」
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「戦闘用か」
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「うん。ボス戦とかで」
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合理的な判断。
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アイリスはすべての酒瓶もアイテムボックスへ収納する。
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そして――
その時だった。
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「……待って」
リーナが低く言う。
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空気が、変わった。
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さっきまで完全に消えていた“気配”。
それが――
わずかに戻ってくる。
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「……なんだ?」
ガルドが警戒する。
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アイリスはゆっくりと振り返る。
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そこに――
“影”があった。
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人の形。
だが、実体はない。
床に落ちた影のように、薄く、揺れている。
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「……また、あれか?」
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「違う」
アイリスは即座に否定する。
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「これは……もっと別」
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その影は、動かない。
ただ、そこに“立っている”。
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だが――
視線だけが、こちらを見ているような感覚。
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「……プレイヤー」
アイリスが小さく呟いた。
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「え?」
ガルドが聞き返す。
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「これ……プレイヤーの残滓」
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ゲーム時代。
高難易度エリアでは、ごく稀に発生した現象。
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“ログアウトできなかったプレイヤーのデータ残留”。
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「……つまり、幽霊か?」
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「近いけど違う」
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アイリスはゆっくりと一歩前に出る。
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「意思があるかもしれない」
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その言葉に、空気が張り詰める。
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影が、わずかに揺れた。
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そして――
一歩、動いた。
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「……来るぞ」
ガルドが構える。
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だが、アイリスは手を上げた。
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「待って」
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制止。
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「敵とは限らない」
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影が近づく。
ゆっくりと。
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そして――
アイリスの目の前で止まった。
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次の瞬間。
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“声”が、頭の中に響いた。
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『……やっと……来たか』
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「……っ!」
アイリスの目が見開かれる。
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(会話できる……!?)
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予想外。
だが――
チャンスでもある。
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ゴミスキルと呼ばれた力。
それは、宝も、裏技も、そして――
“異世界の遺産”すら引き寄せる。
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そして少女は――
プレイヤーの影と対峙する。




