第17話 必殺の裏技――バグ化する一撃
黒い霧の人型を撃破した後も、遺跡の奥は静まり返ったままだった。
だが、それは“安全”を意味しない。
むしろ逆だ。
(強い個体がいなくなった時ほど、奥に本命がいる)
アイリスはそう理解していた。
「……進むよ」
短く告げる。
リーナとガルドは無言で頷いた。
⸻
さらに奥へ。
通路はやがて広い空間へと繋がっていた。
円形の部屋。
中央には――
「……また、あれか」
ガルドが低く唸る。
そこにあったのは、先ほどよりもさらに巨大な紫の結晶。
だが今回は――
ただの結晶ではない。
その周囲に、無数の黒い霧が渦巻いている。
⸻
「……本体」
アイリスが呟く。
確信だった。
(さっきのは端末)
これは“中枢”。
⸻
次の瞬間。
結晶が脈打った。
黒い霧が形を成す。
さっきの人型よりも大きく、より濃い存在。
⸻
「……来る!」
リーナが構える。
ガルドも盾を上げる。
⸻
敵が動いた。
速い。
今までとは比べ物にならない速度。
⸻
「っ……!」
ガルドが受け止める。
だが、押される。
「重っ……!」
⸻
「普通にやるとキツいね」
アイリスは冷静に分析する。
(耐久も、速度も、攻撃も上)
正攻法では時間がかかる。
そして――
(長引くと不利)
⸻
その瞬間。
アイリスの中で、一つの“記憶”が蘇る。
⸻
(……あった)
ゲーム時代。
トッププレイヤーだけが知っていた“裏技”。
仕様の隙を突いた、異常挙動。
通称――
「必殺バグ」
⸻
「リーナ、ガルド」
二人を呼ぶ。
「ちょっと変わったことする」
⸻
「なんだ?」
「勝つための近道」
⸻
アイリスはアイテムボックスに手を入れる。
取り出したのは――何の変哲もない矢。
だが。
⸻
(これをこうして……)
アイテムボックスを“開いたまま”。
矢を出し入れする。
高速で。
連続で。
⸻
空間がわずかに“ブレる”。
⸻
「……何してる?」
ガルドが怪訝な顔をする。
⸻
「いいから見てて」
アイリスは集中していた。
⸻
(タイミングはシビア)
出す。
戻す。
出す。
戻す。
その“ズレ”を利用する。
⸻
やがて――
矢が“二重”に見えた。
⸻
(来た)
成功。
⸻
「それ……どうなってる」
リーナが小さく呟く。
⸻
「増えてる」
ガルドが目を見開く。
⸻
「うん」
アイリスは頷く。
「存在がズレて、重なってる」
⸻
一本の矢。
だが実際は――
“複数存在している状態”。
⸻
「つまり」
弓を構える。
⸻
「一発で、複数ヒットする」
⸻
狙いを定める。
敵の核。
⸻
「ガルド、止めて!」
「任せろォ!」
⸻
ガルドが全力で押さえ込む。
リーナが側面から牽制。
⸻
敵の動きが一瞬止まる。
⸻
「……今」
⸻
アイリスが放つ。
⸻
矢が飛ぶ。
⸻
その瞬間――
“ブレた”。
⸻
一本の軌道。
だが、実際は――
重なった複数の矢が、同時に命中する。
⸻
衝撃。
⸻
黒い霧が大きく歪む。
⸻
「……効いてる!」
リーナが即座に判断する。
⸻
「もう一発!」
アイリスが再び構える。
⸻
(これ、消費なしで撃てる)
アイテムボックスの特性。
取り出したものは“消費扱いにならない”。
⸻
つまり――
(無限連射)
⸻
「終わり」
⸻
連続で放つ。
⸻
矢が重なり、叩き込まれる。
何重にも。
何十にも。
⸻
黒い霧が耐えきれず――
崩壊する。
⸻
同時に、中央の結晶に亀裂が走る。
⸻
「今!」
リーナが飛び込む。
⸻
一閃。
⸻
核を断つ。
⸻
結晶が砕けた。
⸻
静寂。
⸻
完全な沈黙。
⸻
「……なんだ、今のは」
ガルドが呆然と呟く。
⸻
「裏技」
アイリスはあっさりと言う。
⸻
「裏技で片付けるな」
⸻
だが、その目は笑っていた。
⸻
「でも、強いだろ?」
「否定はできねぇな……」
⸻
リーナが静かに言う。
「規格外」
⸻
アイリスは肩をすくめた。
⸻
ゴミスキルと呼ばれた力。
それは、仕様すら歪める。
⸻
そして少女は――
“世界の裏側”を、力でねじ伏せていく。




