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人生最後の日は、綺麗な場所で。【2000文字】

作者: 有梨束
掲載日:2026/01/04

人類は神を怒らせすぎたらしい。

そして、罰を受けることとなった。

ある世代の赤ん坊から、体に数字が刻まれて生まれてくるようになった。

それは人によって数字がバラバラで、最初は何を示されているのかわからなかった。

そして、ある地域で『10』と刻まれて生まれた赤ん坊が、10日後に亡くなった。

人類はどよめいたと言う。

人は生まれながらに、死ぬ日が決まっている。

それは今や、当たり前のことだった。


昔の人は、誕生日を祝うという風習があったそうだ。

なんでも生まれてきてくれてありがとう、という意味合いだったらしい。

今、個人で最大に祝われるのは、死ぬ前の日だ。

別れの会と称して、たくさんの人が死ぬ人のために集まって、1日中宴を開く。

死ぬ直前まで楽しい思いをして欲しいという願いが込められている。

そんなの余計なお世話である。

俺は俺のしたいようにする。

俺は山を目指して歩いていた。

次の街を抜けたら、本格的に人がいないところに入っていくだろう。

水を買い足しておくか。

商人や冒険者くらいしか通らない寂れた道に、少女が一人ポツンと立っていた。

関わらない一択だ、俺は暇じゃない。

「あれ、お兄さん旅人ですか?随分軽装ですね」

…関わらない一択である。

「旅じゃないからな」

「では、どちらへ?」

「山だ」

「山に何かあるんですか?」

俺のことを言えないぐらい軽装な少女は、会話をやめようとしなかった。

だから、早く済ませる。

「綺麗な場所で死ぬと決めているんだ。ここらで一番綺麗なのはあの山だから、そこに行く」

「へえ〜!綺麗な場所で死ぬ、素敵ですね!私も一緒に行っていいですか?」

「断る」

「ちなみにお兄さん、いつ死ぬんですか?」

「明日だ」

俺の手首には『6897』と刻まれている。

少女は目をまんまるくして、それからにっこり微笑んだ。

「奇遇ですね、お兄さん」

「何がだ」

「私もちょうど明日死ぬんです」


「ねえねえ、ヒビさん全財産いくら持ってます?」

最後の街に来ると、少女─ノナ─は意気揚々と訊いてきた。

「なんでだ」

「前日祝いに肉買いましょ、肉。私のお金と足してお祝いしましょうよ」

「荷物が増えると、山登りが面倒になるぞ」

「1日くらい苦労したっていいじゃないですか、どうせ死ぬんだから」

確かに、と思ってしまった。

結局、ノナは俺についてきた。

許可はしていない。

だが、同じ日に死ぬのなら、後腐れもない。

「荷物、半分持てよ」

「わーい!」

街で一番大きい肉屋で調理済みの肉と、あと菓子と、飲み物を買って、山を登った。

目指すは、山の上にある湖だ。

手前辺りで暗くなり始めたので、火を灯して、ノナと前日祝いをすることにした。

「では、明日死ぬ日にカンパーイ!」

「乾杯」

瓶同士をぶつけて、口をつける。

「うえっ、酒美味しくない…。ヒビさんのジュースください」

「だから言っただろ」

「死ぬ前に飲んでみたかったんですも〜ん」

俺は予備で買っておいたジュースをノナに渡す。

「準備いい!」

「それ飲んで大人しくしてろ」

「前日祝いなんだから、はしゃぎましょうよ」

「疲れて明日登れなかったら、置いてくからな」

「さっ、肉食べよう〜」

ノナはジュースを呷ってから、肉を頬張った。

美味しそうに食べている姿は、見ていて気持ちが良かった。

前日祝いは、明日以降も生きている奴らに祝われる。

それが、釈然としていなかった。

でももう死ぬ奴と一緒に過ごすのは、苦に感じなかった。

「前日祝い、これなら悪くないな」

「はい〜!肉食べ放題、最高ですっ!」

「そうだな」

「今日は飲み明かしましょう〜!」

「ジュースをな」


野宿をして、翌日は朝から山を登った。

進むごとにノナの息が荒くなっていく。

肩を貸して、ゆっくり、確実に上がっていった。

「もう着くから、励め」

「…はい」

顔色の良くないノナを置いていこうとは思わなかった。

ようやく道の終わりが見えた。

そこに足を踏み入れると、湖一帯に白い花が咲き誇っていた。

「すげえ…」

「…天国みたい」

ノナは俺から離れると、自分の足で花畑へと入っていく。

俺も自分のペースでそこを歩き、立ち止まったノナの横に立った。

しばらくお互い静かに、そこを見ていた。

それもずっとは続かず、「うっ」という呻き声が聞こえて、ノナが膝をついた。

「ノナ…!」

「はあ…、はー…、どうやら私の方が先みたいですね」

心臓の辺りを握り締めて、ノナが弱々しく笑った。

ノナの耳の後ろに『5235』と刻まれているのが見えた。

「私、一人で死にたかったんです…。みんな私より生きるのに、見送られたくなんかなかった…」

「…」

「でも、やっぱり独りは寂しかったみたい。…ヒビさん一緒にいてくれてありがとう」

「ああ…」

「前日祝い、たのしかった…」

「そうだな」

「あんなお祝い、できると、思ってなかった…」

そう言って、ノナは目を閉じた。

目の前に広がる花畑を、もう一度目に焼き付けた。

俺も一人で死にたくなかったのかもな。


まだ温もりのあるノナに肩を寄せ、目を瞑った。



毎日投稿4日目。お読みくださりありがとうございました!

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