case:4 独学で頑張ろう
「ごめん!属性同じじゃないと勝手が違うから教えれない…」
「え〜」
「教えることはできるけど水と土のクセが移っちゃって風の良さ消えちゃうんだよ…だから魔法教本渡すからちょっと自分で勉強してもらうことになる…」
申し訳なさそうに手を合わせてレイは申し訳なさそうに謝る。まぁ独学にはなるが魔法を学べるなら別にいいか。
「ダブルだから同じ属性になる確率高いと思ったんだけどなぁ〜」
「それでもならない確率の方が高いだろ、まぁいいよ」
「風属性専門の教本は私持ってないから基礎しか覚えれないけど大丈夫…?」
「いいよ」
レイが渡してきた古びた分厚い本を開き、中を見る。幸いレイにこの国の共用語であるデカルタ語の読み書きを教えて貰えたから難なく読めた。
魔法とは魔力を用いて自然界の事象を発現させることらしく、そのことから基本属性が定まった。また魔法は自然現象の再現だが、魔術は魔法と違い再現ではなく創造だ。故に魔法使いは魔法を極め、頂きである魔術に至ろうとする。
また、魔力総量は個人により差異がある。
基本属性と魔力総量は才能によるものだ。故に魔法使いは才能の世界らしい。属性間の不利を覆せるダブル以上は重宝され、どの業界でも引く手数多。
魔法を用いる方法は主に三つ。詠唱、魔法陣、魔法書である。
詠唱は魔法言語を組み合わせて魔力を込め、唱えると発動される。長所は無数の組み合わせによって様々な魔法を扱えること、短所は扱いが難しく詠唱の中断による不発は魔力の消費が激しい。
魔法陣や魔法書は一旦後でいいな、とりあえず詠唱が基本の型みたいだし。
風属性の基本魔法となる『風刃』は風を意味する『イ』と刃を意味する『ソラ』によって構成されている。『イ』を他の属性に変えればもちろん変わるし、これが詠唱の難しいところだな。
とりあえず風属性の基本である『風刃』と『風速』を習得するべきだな。風の刃を発生させる『風刃』と風を纏って速度をあげる『風速』の魔法は使い勝手が良さそうだ。
外に出て手のひらを前に出す、とりあえず柵の外にある1本の木に当てることを当面の目標にしよう。
本を片手に魔力を込める、魔石に込めた時よりも熱を帯びた魔力が右手に集まるのを実感する。
「『風刃』」
右手の前に風が集まり、やがて形作られたら半円状の風の刃が木に向かって飛んでいったが目標には当たらず隣の木に僅かに切れ込みを入れただけだった。
練習が必要だな、そして想像以上にどっと疲れが溜まったのを感じる。だが生まれて初めて使用する魔法に俺は興奮を感じずにはいられなかった。
続いて『風速』を使うと俺の後ろから急速な追い風が発生し、背中を押した。ものすごい勢いで家の壁に激突し、中から慌てたレイが出てくる。
「シン!大丈夫!?」
「だ、大丈夫…。『風速』の魔法を使ったら思ったより速くて止まれなかった…」
俺が鼻血を服で拭いながら立ち上がるとレイは嬉しそうに大声で笑った。
「あっはっはっは!心配して損したよ全く」
「そんなに笑うことか?」
「いやなに、独学でもう魔法の行使まで行ったんだかもう笑えちゃってね」
「魔力を込めて、詠唱しただけだぞ?」
「まず魔法を使う上での最初の関門が魔力操作だからねぇ…シンはなぜか最初からできていたけど。その上で神経と魔力を消耗する詠唱を唱えて、目標に向かって飛ばす」
「ふーん、そういうものか」
「そういうものだよ」
そう言ってレイは再び家の中に戻って行った。
さて、魔法は使えたし幸いなことにまだ魔力に余裕はある。ここからがマグマだ。
俺が神から貰った恩寵は影魔術だ。魔法ではなく、魔術だ。これには魔法言語を用いる必要はない、詠唱も魔法陣も魔法書もいらない。必要なのは魔力と触媒だ。影魔術に必要な触媒は"影"であり、これを用いて魔術を行使する。
例えば『影狼』と念じると俺の影がぐにゃりとねじ曲がりやがてそれは一頭の黒い狼になる。元にしている俺の影がまだ小さいからかサイズは大きくなく、漆黒を閉じ込めた体には不規則に目がついている。少し不気味なためすぐに術を解く。
影魔術のいい所はその利便性だ、影を触媒に用いるから簡単だし、できることも多い。圧倒的な破壊力はないが小回りが利く。
あとは風魔法を実践レベルまで仕上げれば完了だ。
その日は日が沈むまでひたすら『風刃』の特訓をした。気になったのは魔力が尽きる気配がほとんどなかったし、一日中使っても結局魔力は尽きなかった。
二人で晩御飯を食べている時、ふと気になったことがあった。
「そういえばパンや食べ物はいつもどこで買っているんだ?」
「普通に村だけど、まさか行きたいとか言うんじゃないよね?」
「ダメって言うなら行かないけど俺たち魔族を入れてくれる村なんてあるの?」
村で買い物ができるのはいいことだが、俺たちは被差別の魔族だ。当然街には入りにくいし、入れたとしても不当な扱いを受けたり最悪奴隷になったり殺されたりする。
「ないよ」
「ならどうやって?」
「魔族の特徴を隠すんだよ、例えば私はドレイク種の鱗を隠すためにローブを着てるしね」
「そんなものでバレないのか?」
「バレたら大変だけど、元は同じ人間なんだ。なら少し頑張れば大丈夫だよ」
「ふーん、大丈夫ならいいけどさ」
特徴を隠す…か。バット種である俺の特徴は背中に生えた小さな羽と伸びた鋭い犬歯だ。細かいところをいえば瞳孔も違うがまぁ大丈夫だろう。
「いやでも同世代の子たちと触れ合うべきか…?」
「俺は別にどっちでもいいよ、それで生活が脅かされるならむしろ行きたくない」
「う〜ん、ちょうど食べ物も少なくなってきたしもしかしたら風属性の本が売られてるかもしれないから明日行ってみる?」
「いいのか?俺から話に出して悪いが別にいいんだぞ」
「まだ10歳なんだから別に気にしないでいいよ、子どもは大人に頼らないと」
自分も魔族で大変だったはずなのにレイはいつだって俺を気にかけてくれている。いつも感謝しているがいつか贈り物とか渡してみたいな。
「じゃあ、頼む」
「大丈夫だよ、それじゃあご馳走様。今日も美味しかったよ」
そう言ってレイは部屋に戻り、再び実験に戻っていった。俺はその日魔法の練習で疲れていたのか食器を片付けてすぐに眠りについた。