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case:1 瀬戸慎也

この世界は不条理に溢れている。

例えば戦争が勃発して人間同士で殺し合いが発生したり、唐突に子供が帰らぬ人になったり、1人じゃどうしようもない不条理に溢れてる。

俺こと瀬戸慎也もそんな不条理に絶賛見舞われたわけだ。仕事帰りで家に向かっている途中、女性がひとりの男に執拗なナンパにあっていた。普段なら目もくれずに通り過ぎるはずだがその日は昇進が決まりテンションが上がっていた。

かっこつけてしまったのだ、慣れないことはするものでは無い。男と言い争いになり肩を突き飛ばされ、ちょうどそのタイミングに通ったトラックに轢かれて死んでしまった。


「で、そんな俺をなんで自称神様が助けてくれたわけ?」


さっきも言った通り俺は死んだわけだが、ずっと気になっていた死後の世界は面接室だった。

絨毯が敷かれている床に小さな机、俺が座っているパイプ椅子の正面にはスーツを着た男が書類を見ながら不満そうにメガネのフレームを指でコツコツと叩いていた。


「何度も言わせるな瀬戸慎也。神様は暇じゃないんだ。さっきも言った通りお前みたいなやつが溢れてるせいで私の力が失われつつある」

「そりゃ神様の職務怠慢だ、ツケがまわったんだろうよ」

「…不条理に溢れているがお前の持論だが、なるほど否定はできないな」

「で、そんな不特定多数の不条理を黙認してた神様がなんで今更急に?」

「事実確認の擦り合わせが多いな」


転生とか急に言われても分からないし、死後の世界って言うには空間が現実すぎるだろ。ドッキリって言われても不思議じゃない。

そう言いたいのをぐっと堪える、もし本当なら俺の態度次第で転生先の処遇を相当良くしてもらえるかもしれない。

メガネを机の上に置き、指をまぶたの上に押し当て溜息をつきながら神様は不満そうに愚痴をこぼす。


「辟易してるんだよ、助けたら助けたで神の解釈で人間は争いを始め、助けなかったらそれはそれで私の力は失われる。愚かな子羊を導く仕事はブラックなんだ」

「なるほど、それで最初に戻るんだがなんで転生させてくれるんだ?」

「大勢を救うことはもう疲れた、だから最低限の力を失わないためにノアを選定することにした」

「ノアっていうのは方舟の?」

「あぁ、あいつは元々地球人じゃない。滅びゆく異世界から連れてきた(わたし)の代理人だ」

「そりゃビッグニュースだな。で、次のノアが俺って訳?地球は滅びるのか?」

「話が逸れたな、質問に答えるが地球は滅びない、まぁ単純に私の力が失われないために少数を異世界に飛ばすだけだ」

「神の恩寵や、奇跡の御業で信仰を失わないために?」

「つまりそういうことだ、最近流行ってるんだろ?こういう異世界転生は」


異世界転生と聞いて心が踊らない男は少なくない。かくいう俺もその1人だ。

強大な力を得て、異世界で何不自由ない生活をする。どれほど素晴らしいことか。


「先人に倣って、チートを授けてやろう。好きなのを選ぶといい」


神様はそう言って指を鳴らし、俺の目の前に半透明のウィンドウを表示させる。中には異世界の基本情報と様々な恩寵が表示されていた。


「好きなのをひとつ選べ、ウィンドウを指で押すと恩寵の内容が表示される」

「選り取りみどりだな」


息を飲み、情報をひとつひとつ精査する。

俺がこれから転生する先は地球に似ている、ただ科学の代わりに魔法が発展した世界のようで魔物なんてのもいるみたいだ。

人族やエルフ、ドワーフに魔族など種族も様々だな。ここら辺は大体名前から分かってはいるが目を通し、情報を頭に入れる。

人族は言わば普通の人間、平均寿命は60歳。魔法を使うための魔力と言われるエネルギーの扱いは他種族と比べて得意ではないが使えないわけではない。

エルフ、精霊と呼ばれる魔力の塊と心を通わせ魔術を発現させる。平均寿命は1200歳。精霊と仲がいいため魔力の扱いに特化している。しかし精霊が肉と金属を嫌うため菜食主義で金属の武器を持つことが出来ない。

ドワーフ、炎と金属の扱いに特化しているためほぼ全員が鍛冶師。平均寿命は400歳。炎の扱いに長けているため親和性の高いアルコール類を好む。洞窟で暮らしているため身長が低く目が少し悪い。

魔族、魔と着いているが悪性なわけではなく魔物の特性を一部引き継いで生まれる特殊体質を生まれ持った人間の総称である。平均寿命は25歳。全ての国で差別対象だが絶大な力を誇る。多くは若いうちに殺されるため寿命は長くない。精霊に嫌われ、魔物に好かれる性質を持つ。

獣人族、魔族に近しいがこちらは動物の特性を引き継いで生まれる人間の総称。平均寿命は45歳。魔族ほど嫌われている訳では無いが一部の国では差別対象。強靭な肉体と尽きることの無い持久力を誇るが人族より魔力の扱いが不得手。

様々な種族がいるがどれもメリットとデメリットがはっきりしているな、魔物と呼ばれる怪物が蔓延っている以上他種族の結束は高いが差別や貧富の格差などは地球より如実に現れてるな。

科学が発展してないせいで地球ほど便利な文明は築いてないが魔法によりある程度の利便性は確保されてるのか。石器時代じゃなくて良かったな。

神の恩寵で貰えるのは様々だが、ひとつしか得られないから慎重に選ばないといけないな。

魔法の才能や膨大な魔力、剣を思いのまま操れたり本当に様々だ。

そこから俺はしばらく考え、考え抜いた末に選び神様に提出する。ゲームのビルドを組む感覚に近く、思ったより楽しかった。


「できた、問題ないか確認してくれ」

「ふむ、男の魔族か。選んだ恩寵は…なるほどな」

「あぁそれと、転生じゃなくてこのまま魔族としてどっかに転移させてもらえないか?」

「無理に決まってるだろ、恩寵はひとりひとつまでだ。異例を作るわけにはいかない」

「そうか、死なないように努力しないとな」

「生まれた瞬間に死なれては困るから恩寵まで行かなくてもアシストはしてやる。安心してくれ」

「サービスが充実してるな」

「じゃあこれで転生の面接は終了だ、瀬戸慎也、せいぜい頑張れ。神に感謝しながら生活しろ」

「もちろんだ、そっちも頑張れよ」

「不敬だ、それではな」


あぁ、と返事をする前に俺の意識は途切れ暗転した。最後に見た神様の表情は苦虫を噛み潰したようでそこに余裕などひとつもなかったようだった。


瀬戸真也を異世界に送り出し、神と呼ばれる男は天井を仰ぎ見る。

少し思慮を張り巡らせ、これから起こる出来事に備えるために再び机に向かう。


「Code:Shadow、クソッタレなプロジェクトを始めるものだな」


1枚の資料を見て神は再び決意を固める、僅か一室にまで狭くなってしまった己の世界で。瀬戸慎也に出来うる限りの恩寵を与え、幸福を祈った。

神である自分が誰に祈るというのだろうかという自嘲気味の笑みを浮かべながら次なる面接者を待った。

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