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第七章 遺された証言
翌日。
管理人が部屋を開けると、中は静まり返っていた。
家具も衣服も、そのまま残っている。
けれど、住人の姿だけがどこにもなかった。
机の上には、一冊のノートが置かれていた。
昨日と同じように、勝手に開かれている。
ページの中央に、淡くにじんだ文字。
> あなたは選んだ
> 佐伯は救われた
> 木下は転んだ
……佐伯? 木下?
管理人は首をひねった。
そんな名前の人物は、少なくともこのアパートにはいないはずだ。
余白にはさらに小さな文字が浮かんでいた。
> 証言はここに残る
> 名前は呼ばれた
指先で紙をなぞると、冷たい水滴のような感触があった。
管理人は顔をしかめ、ノートを閉じた。
だが、その瞬間も確かに耳の奥で、かすれた声が響いた。
「……呼んで」
自分の名を呼ばれたような錯覚に、背筋が粟立った。