表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
溺れる日記  作者: 揺蕩う夜
呼ばれる日記 第二部 他人の足音
46/50

第三章 救おうとする手

ノートを開くと、昨日の予告がそのまま残っていた。


> 今日、駅で見知らぬ人が倒れる


文字の縁は乾いているはずなのに、光を吸うように濡れて見えた。


ページを閉じても、脳裏に焼きついたまま離れない。

出かけなければ避けられるのか。

けれど、そうすれば別の形で予告が現実になる気がして、結局、私は駅へ向かっていた。


朝の駅は人であふれていた。

改札を抜け、階段を降りる途中で、前を歩いていた中年の男性がふらついた。


手すりに触れたまま膝が折れ、その場に崩れ落ちる。


「大丈夫ですか!」


私は駆け寄り、肩を支えた。

男性の目は虚ろで、声にならない声を漏らしている。


周囲の人々もざわめき、誰かが駅員を呼びに走った。


私は無意識に彼の胸元へ手を当てた。

と、その時。


後ろで、乾いた音が響いた。


階段の上から転がり落ちたのは、男性が手にしていた鞄だった。

中から水筒が転がり出し、階段を跳ねて誰かの足元へぶつかる。


若い女性が悲鳴を上げ、バランスを崩して階段を踏み外した。


「危ない!」


咄嗟に手を伸ばしたが、間に合わない。

女性は肩から転げ落ち、下の床に激しく倒れ込んだ。


周囲の悲鳴。

私の耳には、血が流れるような音しか届かなかった。


家に戻ったのは、夕方近くだった。


靴を脱ぎ捨て、机の上のノートを睨む。

すでに新しい文字が浮かんでいた。


> あなたは倒れた人を助けた

> そのとき、別の誰かが傷ついた


手が震えた。

これは、私が書いたわけじゃない。

なのに、まるで私の行動が日記に吸い取られたみたいに、正確に記されている。


ページの余白がじわりと濡れて、黒い染みのように広がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ