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溺れる日記  作者: 揺蕩う夜
第八部 溺れる名前
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第四章 改ざんの痕

町役場の資料室は、窓の少ない薄暗い部屋だった。

古い書類特有の、乾いた紙とインクの匂いが漂っている。


職員に許可を取り、私は戸籍台帳と死亡診断書の控えを机に広げた。

ページを慎重にめくると、そこに宗村ヒナの記録があった。


――享年三歳。死因:病死。


一見、整った記載。

だが、診断名の欄だけが不自然に薄く、他の文字よりも新しいインクで書かれている。


さらに、医師署名欄の筆跡を見た瞬間、背筋が冷えた。

これは、以前見たヒナの母の署名と、あまりにも似ている。


紙の裏に光を透かすと、かすかな筆圧の跡が浮かび上がった。

斜めに走る線と文字――


「およげなかった」

「水のそこ」

「みんなみてた」


思わず息を呑む。

公式記録の裏に、消された言葉が残っている。


そのとき、机の上に置いた日記が音を立てた。

ページがひとりでにめくれ、開いた箇所に、稚拙な筆跡でこう書かれていた。


> みさきちゃん みてた


インクは乾いていない。

指先で触れると、冷たい水滴がすっと染み込む。


急いで手を離すと、水は文字と共に紙の中へ沈んでいった。


私は目を閉じ、深く息を吐いた。

病死という記録の下に、別の出来事の痕跡が確かにある。

だが、それを表に出せば、この記録もまた消えてしまう気がした。


机の隅で日記がわずかに震えた。

次のページが、ゆっくりと開こうとしている。



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