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溺れる日記  作者: 揺蕩う夜
第五部 母の頁(はしら)
16/50

第三章 笑っていた顔は、誰?

日記のページをめくるたびに、ヒナの声が頭の奥に響くような気がする。


けれどその声は、思い出の中のヒナの声とは、少し違っていた。


静かすぎる。感情がない。けれど、私の言葉をなぞるように、確かに響く。


> 4月23日

> 学校のトイレで鏡を見たら、水の中みたいだった。

> 自分の顔が揺れて、違う人みたいで、

> でもその顔、笑ってた。私じゃないのに。

> あれは、私の“ふりをした何か”だった。

> 笑ってる意味が、わからなかった。

> 怖かった。


これは、私が書いたものだ。


ヒナが鏡の前で怖がっていた場面を想像し、そこに浮かんだ言葉をそのまま書いた。

けれど、なぜか、あとから読み返すと、これは“ヒナが書いた”ようにしか見えなかった。

書いた本人であるはずの私ですら、そう錯覚する。


……なぜだろう。


日記の筆跡が、少しずつ変わっている気がした。


最初の数ページは確かに私の文字だった。

けれど、いつの間にか、少しずつ角度や筆圧が変わっている。


誰かが私の手を借りて、書いているような——そんな感覚。


私は鏡の前に立ってみた。

そこに映る自分の顔は、たしかに私だった。

けれど、その目の奥で、誰かがこちらを見返している気がした。


ヒナだろうか。


私は目を逸らし、ページを閉じた。


けれど、すぐにまた、次のページが勝手にめくられていた。


私はその日、自分の名前を声に出してみた。

言い慣れたはずの音が、舌の上で少し引っかかった。


私はまだ、私だろうか?


それとも、ヒナの“ふりをした何か”が、今、私の中で笑っているのだろうか?




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