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溺れる日記  作者: 揺蕩う夜
第五部 母の頁(はしら)
15/50

第二章 思い出のつくりかた

ヒナの写真を久しぶりに見た。


リビングの棚に飾っていたはずなのに、いつのまにか奥にしまい込まれていた。

手に取ると、薄い埃が指についた。


笑っていた。たしかに笑っている。

けれど、その笑い方が、どこか見覚えのあるものに思えた。


——私の笑い方だ。


そう思った瞬間、胸の奥がざわりと揺れた。

私は日記を開いた。


> 4月14日 くもり

> 体育の時間に転んで、ひざをすりむいた。

> 帰りに見た空が、まるで海みたいだった。


この日のことを、私は覚えていない。


ヒナがそんなことを言っていた気もする。

でも、それは私が書いた記憶と混ざっているだけなのかもしれない。


この空の描写は、昔、私自身が日記に書いた表現に似ていた。

もしかして私は、自分の記憶を“ヒナのもの”として書いていたのではないか。


いや、むしろ。


ヒナの記憶が空白だったぶん、私は自分の記憶でそれを埋めようとしていたのかもしれない。

ヒナはこう言っていた——と私は何度も日記に書いた。


でも、それは本当にヒナが言ったことだったのだろうか?


日記に書いてしまえば、それが“あったこと”になってしまう。

私の頭の中では、もう現実と記録の境界が曖昧になっていた。


私は書き続けた。

書かなければ、ヒナがいなかったことになってしまいそうだった。


記憶にないのに、記録だけが残っていく。

インクが滲む音が、呼吸のように部屋に響いた。



その夜、夢を見た。

空が海のようにひろがっていて、誰かの後ろ姿が見えた。

あれはヒナ? それとも——

私だったのかもしれない。


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