表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
溺れる日記  作者: 揺蕩う夜
第五部 母の頁(はしら)
14/50

第一章 生きている日の記録

ヒナの部屋には、まだ日が差し込む。


カーテンは青。

机の上には教科書と、キャラクターのペン立て。

窓際には、買ってあげたリボンが一つ、陽に透けていた。


もう何日も、この部屋にヒナは入っていない。

それでも私は、今日も日記を開く。

ページをめくると、私の手書きの文字が並んでいる。


> 4月12日 晴れ

> お母さんに新しいリボンを買ってもらった。青くてきれい。

> 学校はつまらなかったけど、帰りに川べりでカエルを見つけた。


これを書いた日のことを、私はよく覚えている。

ヒナがリボンを見て笑っていた。

あの笑顔はたしかにあった。


……あったはずだった。


リボンはある。けれど、その日、ヒナがそれを受け取った記憶が、どうしても浮かばない。


私は思わず、日記に手を添える。

書いてあることは、確かに私が見た光景だ。


でも、それは“見た”のではなく、“こうであってほしい”と願って書いたものだった。


私は、ヒナのいない空白を埋めるように、毎日少しずつ日記を綴っていた。

ヒナが学校で何をしたか、どんな服を着て、何を食べて、誰と話したか。


全部、想像だった。


だけど、日記を書いているときだけは、その一日が“本当にあった”気がするのだ。


今日も、書こうと思う。

昨日のこと、ヒナが笑ったこと、帰ってきて私に話してくれたこと。

記憶にはないけれど、 私は、その“日の記録”を書ける。


ヒナが、生きていた日として。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ