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溺れる日記  作者: 揺蕩う夜
本編
1/46

第一章 発見と違和感

部屋の片づけをしていたときだった。


引っ越しの準備で、棚の奥に積まれていた段ボールを一つずつ崩していたとき、底から一冊の古びたノートが出てきた。


それは、厚手の革のような素材の表紙で、角が擦り切れ、どこか湿気を吸ったようにふやけていた。


「……誰のだ、これ」


開くと、表紙の裏にうっすらと「ヒナ」と読める筆記体が書かれていた。

見覚えはない。

だが、なぜか手放す気になれなかった。


不思議なことに、紙は柔らかいのに破れず、インクもにじんでいない。妙に丁寧に書かれたページの一行目を目にした瞬間、目が離せなくなった。


> 4月12日 晴れ

> お母さんに新しいリボンを買ってもらった。青くてきれい。

> 学校はつまらなかったけど、帰りに川べりでカエルを見つけた。


子供の字だ。小学高学年か、中学生くらいか。

どこにでもあるような、些細な日常の記録。


> 4月14日 くもり

> 体育の時間に転んで、ひざをすりむいた。

> 帰りに見た空が、まるで海みたいだった。


最初はただのノスタルジーだった。

けれど、ページをめくるたび、微妙な違和感が積もっていく。


> 4月16日 雨

> 夢を見た。深い水の中。どこまでも静かだった。

> だけど、底に“誰か”がいた。

> 起きたら、枕が濡れてた。なんで?


「……夢、か?」


そのときだった。窓の外で、小さな“ぴしゃ”という音がした。


雨は降っていない。風もない。

けれど誰かが、水たまりを踏んだような音だけが耳に残った。


嫌な予感がした。

けれど、俺は日記を閉じることができなかった。


何かが、この続きを読ませようとしている。そんな気がした。



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