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努力の理由。生きる意味。

第8話 


朝。

空は晴れ渡り、窓の外では鳥が鳴いている。

「こっちの世界でも早朝のハトは癖のある鳴き方をするもんなんだな。」


そんなどうでもいいことを考える、異世界に転生して初めての朝。


……が。


「!?うぃ!!!?いてててて!!!」


全身がバキバキに痛い。

慣れない寝床、昨日の逃亡劇、生死をかけたワインぶっかけバトル。


そりゃ疲労・・・というか筋肉痛になって当然だ。


「……ノイア、俺の体力ゲージはどんなもんだ?」

体力ゲージってなんなんだよと自分にツッコみつつ、ノイアに冗談めいて聞いてみる。


<現在のスタミナ値、30%です。>

脳内にゲームのHPのようなゲージが表示される。


「ほんまにゲージあるんかい!!」


そして朝起きた時点で3割程度の体力しか残っていないという絶望。

このまま寝てたい。いつもならそうしてたな・・・。


そんな俺の惨状を知る由もなく、部屋の扉が開いた。

アリシアは朝から元気だな。


「まだ寝てるのか?早く飯を食って訓練場に行くぞ。」


突然扉を開けたと思ったら無慈悲な言葉だ。


「朝は『おはよう』からスタートじゃろがい!!

 そもそも異世界にきてまだ2日目だぞ!?

まずはこの世界について説明してくれるのが

親切ってものじゃないんかい!?!?」

と、心の中で言って何とか身体を起こす。


「……まさか昨日のアレ、冗談だよな?」


「何の話だ?」


「なんだっけ?素振り50本からスタートみたいな話・・・」


「あぁ。1000本から始めていくぞ。しっかり飯を食えよ。」



なんていうか、サイコパスなのかもしれない。



アリシアに連れられ、宿の裏にある訓練場へ。

そこには木剣が何本か並んでいた。


アリシアがその中から一本を俺に放る。

見た目はただの木刀と変わらない気もする。

重さも普通といえば普通だ。そんなに重くもない。


そういえば昔修学旅行で木刀を買って帰るアホな学生がいたものだった。

俺はその「アホの学生」にもなれない、親にお土産のお菓子を買ってそそくさ帰る側だったが。


あの時みんながいなくなってからこっそり握った木刀。

あれ以来だな。


「まずは素振りだ。1000本やれ。」


「まずってなんやねん!そんなやれるわけないだろ!!」


「……貴様、1000本も振れんのか?」


「いや、普通無理だろ!! むしろアリシアは最初からそんなできたのかよ!?」


「私も初めは死ぬ気で特訓したからな。

 言っておくが、私の運命持ちの力は『未来視』のみだぞ。」


「え・・・?じゃああの人間離れした動きは努力の賜物ってことですか・・・?」


「そういうことになるな。やらないと死ぬからな。」


そんなことを言われたら無理だと喚く自分が恥ずかしくなった。


(ノイア、俺の筋力で現実的にできる回数、計算して!)

<……計算完了。マスターの筋力では200本が限界です。>


(今のスタミナが30%とか言ってたけど・・・

これはここでゲームオーバーの予感じゃないの?)


とりあえずはやるしかない。やらないとその時点でこの世界で生きていくことはできないだろう。


必死で剣を振り続けて100本くらいまではギリギリできた。

けど、それを過ぎたあたりで腕が動かなくなってくる。


アリシアは腕を組みながら俺をじっと見て、ため息をつく。


「スピードが遅い。振り方が雑。気持ちが足りん。

 これで100本振ったと言えるのかすら疑問だな。」


「え?ノーカンの可能性まであるの?こちとら100%でやってんだが!?」


あかん、マジで無理だ。そろそろ倒れる・・・。


(ノイア、なんか楽にやる方法はねぇのか……!?)


<最適化モードを起動。無駄な動きをなくして、疲労を軽減するフォームを解析します。>


「そんな機能があったのかよ!?最初から言えや!!」

思わず声が出てしまう。


アリシアは突然叫んだ俺を見て眉をひそめた。

・・・が、そんなこと今の俺には見ている余裕すらなかった。


俺はノイアの指示通り、最小限の力で効率よく木剣を振る。

これなら、多少は続けられそうだ。


最適化フォームで振り続けること数分。

なんとか300本は超えた。


……が。


アリシアが腕を組んでじっとこっちを見ている。

なんというか、疑いの目のような眼差しだ・・・。


「……異端者のくせに、覚えが早いな。」


「え?いや、まぁな!」

「というか、突然動きがよくなったと言えばいいか・・・?」


(勘の良い奴は嫌いだよ!!

そうだよ、俺じゃなくてノイアがすごいんだよ!!)



アリシアはじっと俺を見つめた後、ゆっくりと口を開いた。


「……だが、"それ"は努力とは言わん。」


「……は?」


「貴様のやっているのは、ただの"効率化"だ。

 努力とは"耐えること"だ。楽をしているうちは、鍛錬ではない。」


その言葉に、俺は言葉を失った。


アリシアは淡々と続ける。


「ただ剣を振ることが目的ではない。"その過程で何を掴むか"だ。」


「……そんなの運命持ちサマの発想じゃねぇの?

 こちとら何もないただの人間サマだぞ?」



「かもしれん。しかし、お前が異端者として生きるなら、それくらいの覚悟は持て。」


俺は剣を持つ手に少し力が入るのを感じた。。


(……俺、努力ってしたことあったか?)


今までの人生を振り返る。

勉強?できなきゃ諦めた。

仕事?面倒だから続かなかった。

何かに本気になったことは? ……ない。


アリシアがじっと俺を見つめる。


「お前は、死にたくないんだろう?」


(……そうだ。俺はもう"死んだ気で生きる"のはごめんだ。)


俺は剣を握り直し、ゆっくりと息を吸い、構えた。


「……わかったよ。俺なりに、やってみる。」


(ノイア、ここからは少し俺の力で振ってみることにするよ。)

<わかりました。無事に完了できることをお祈りします。>


不器用ながらもさっきよりはまっすぐになった剣先。

その様子を見てアリシアは少しだけ微笑む。


「良いじゃないか。気がしっかり入っているな。

最初の100本は型が悪かったから今日は1100本で許してやろう。」


「何言ってだこいつ。 お前やっぱサイコパスだろ。」


「さいこぱす?」


「俺の世界での誉め言葉だよ馬鹿野郎」


とりあえず今日はあと700本ほど素振りをしよう。

それで生きてたら明日からもまた頑張ろう。


俺は毎日を生きるということの重みを感じながら、

ひたすら剣を振り続けたのであった。


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