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俺の人生どっちもどっち

「……お前、本当に"運命を持たぬ者"なのか?」


紅く染まった髪をかき上げ、アリシアが俺を見据える。

うむ。少し色っぽく見えてしまうじゃないか。


ワイン樽で、一応は一矢報いた形になったが・・・。

なんとか俺はまだ生きている。


「……そんなの、俺が知りたいっての。」


俺の反応に、アリシアはじっと俺を見つめたまま何かを考えているようだった。

静寂が広がる。

その間にも、店の外では騎士たちがドタドタと足音を鳴らし、

今にもなだれ込んできそうな気配を感じる。


(……さすがにもう逃げ場は無しか・・・。)


ここでもう一度アリシアに攻撃されるか、

外の騎士たちが店の中に入ってきたらさすがにもう終わりだろう。

さっきのワイン作戦が奇跡的に通用したとはいえ、二度目はない。

なんなら別に倒せたどころか攻撃できたわけじゃない。


「あ・・・あの、アリシア様……?」


沈黙を破ったのは、酒場のマスターだった。

彼の表情には明らかに動揺が浮かんでいる。

その視線は俺とアリシアを何度も往復し、

まるで現実を受け入れられないような顔をしていた。


「なぜ、異端者を裁かないのです……?

 運命持ちが、異端者を庇うなど……」


マスターだけではない。

周囲の客たちも同じような表情をしている。

誰もが


「異端者は処刑されるべき存在」


と信じて疑っていないのがわかる。

むしろ、それが“当たり前”の世界なんだろう。


「それが何だ?」


再び、アリシアの冷静な声が響く。


「……っ!」


店内の空気が張り詰める。

アリシアは静かに剣を鞘に戻し、

カウンターに立つマスターを一瞥する。


「この異端者、私が一度預かろう。」


「……は?」


思わず、間抜けな声を出してしまった。

今、こいつ何て言った?


周囲も一瞬沈黙し、その後、酒場全体がざわついた。


「えっ、アリシア様、今なんと……?」

「異端者を……預かる……!?」

「そんな、運命持ちが異端者を匿うなんて……」


事の成り行きを見ていた騎士たちも外の騎士たちに

「この中に異端者がいる!」と叫び、

今にも突入しようとしていた。

だが、アリシアはそれを手で制した。


「異端者を討つことが、私の"運命"だと誰が決めた?」


騎士たちの動きが止まる。

酒場の中にいる者たちも、

まるで信じられないものを見るような目でアリシアを見つめていた。


騎士の一人が訊ねる。

「だが……アリシア様、それは……!!」

「異端者を庇うなど、神の御心に反するのでは……?」


「その神が私がこうする運命を命じている。

 納得いかぬか?ならばその神とやらにお聞きするがいい。」


彼女は静かにそう言い放った。

その声には一切の迷いがない。


「この異端者は、確かに"運命"を持たぬ存在だ。

 しかし、面白い存在ではある。」


「面白い存在?そのような理由でアリシア様がこの男を匿うのですか?」


ざわめきが大きくなる。



(いや、俺を巻き込んで何を言ってんだお前は……!!)


もはや俺は完全に置いてけぼりだった。


いや、正直に言おう。

俺はここで死なずに済むのなら、それが一番ありがたい。


しかし現状、騎士に捕まるのもこの女に捕まるのもどちらも変わらない気すらする。


「ノイア……俺、どうしたらいい?」


『ハル、あなたの現在の生存確率が上昇しました。

 アリシア様とともに行動する場合、戦闘時の0.8%から、82%となります。』


「めっちゃ上がっとるやん!!」


「……よかったですね。」


「いやいやいや!!」


もはやツッコミしか出てこない。


そんな俺をよそに、アリシアは改めて騎士たちを見回し、静かに告げた。


「異端者ハルは、私の監視下に置く。

 何か不服があるなら、私に剣を向けるがいい。」


静寂が広がった。


(いや、言うと思ったけど、それ言っちゃったら誰も逆らえねぇじゃん!!)


騎士たちは明らかに困惑していた。

だが、アリシアの実力を知っているのか、誰も剣を抜こうとはしなかった。


「もう一度言うぞ。異端者ハルは、私が預からせてもらう。」


そう言って、アリシアは俺を見据えた。


「……ついてこい。」

酒場を出ていくアリシア。


俺は、周りの目に耐え切れずただただついて行くしかなかった。


(マジでどうなってんだよ、この世界……。)


こうして俺は——"運命を持つ者"の監視下に置かれることになった。

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