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初対面は緊張するタイプ

——酒場に飛び込んだ瞬間、そこは静寂に包まれた。


荒く息をしながら辺りを見渡す。

照明の薄暗い店内。空気に混じるアルコールの匂い。

無骨な木造のカウンターの向こうで、ヒゲのマスターらしき男がじろりとこちらを一瞥した。


「……チッ、客かと思ったら異端者かよ。」

マスターはグラスを拭きながら、さもどうでもいいかのようにカウンターの客に呟く。



周囲の客も、驚きと警戒、そして侮蔑の入り混じった表情で俺を見つめている。

——当然だ。俺はこの世界では異端者として追われているのだから。


「異端者だ!」

「手配書と同じ顔だ!」


店の中にも貼ってある手配書の俺の顔を見比べていた客が叫ぶ。

外では騎士たちの怒声が響き、足音がどんどん近づいてくる。


(成功率71%・・・・・の割に全然その気配がないな・・・。終わったか?)


——そのとき。


「待て。」


静かに、しかし鋭く響く声が店内に満ちた。


俺の視線が、店の奥に座る一人の女性に向く。


金色の髪を持つ少女が、赤色の液体の入ったグラスを傾けながら、こちらを見ていた。


「……異端者だろうがなんだろうが、騒がしいのは好かん。静かにしろ。」


冷たく、透き通った声。

そしてその腰には、漆黒の剣が帯びられていた。


(騎士……!?)


俺の中に、警戒心が走る。


間違いない。

この世界で"剣を持つ者"は、ほぼ全員"運命持ち"。

つまり、彼女は「神託を受けた者」の一人。俺とは正反対の存在だ。


(ノイア・・・これは終わったぽいぞ?)

頭の中でつぶやいた。


武装した運命持ちの騎士が目の前にいて、後ろからは兵士たちが迫ってくる。

まるでチェックメイトされたかのような状況だ。


・・・だが。


なぜか、彼女は剣を抜こうとしなかった。


「アリシア様・・・・・・?」

マスターが緊張した声を出す。


(アリシア……こいつの名前か。)


「私の許可なく、この場で剣を振るう者がいれば——殺す。」


その一言に、店内が再び静まり返る。

先ほどまで騒いでいた連中も、息を呑んだ。


(……なんだこいつ。)


確かに、彼女の"気配"は只者じゃない。

ただの騎士じゃないことは一目で分かる。

オーラっていうか……この場の"空気"を完全に支配している。

「マスター。彼女は運命持ちです。」

ノイアが教えてくれなくても雰囲気でわかる。

誰が見ても「何らかの特別な者」だ。


「アリシア様……ですが、こいつは異端者で……」


「それが何だ?」


マスターの言葉を、バッサリと切り捨てる。


「異端者を裁くのは、お前たちの役目か?」


騎士たちが、言葉を詰まらせる。


「違うな?」


「……っ!」


息を呑む兵士たち。


(……え、なんでこんなに強気なの?)


この世界の"運命持ち"は、皆"神託"を受けた者たち。

彼らは与えられた役割に従い、忠実に生きることが定められている。


なら、こいつも"異端者を討つ"神託を受けている可能性は高い。

なのに——なぜ、俺を見逃すような真似を?



ノイアが、静かに分析を始める。


「マスター。彼女の行動は異例です。」


(そうなのか?運命持ちなんて初めて会ったからよくわからんが・・・)


アリシアは、ジッと俺を見つめたまま言った。


「異端者よ、お前の名は?」


「……ハル。」


俺は、思わず答えていた。


(あれ?俺、本名なんだっけ……)


考えてみれば、転生してから本名を思い出していない。

けど、なんでだろう——そのとき、"ハル"と名乗ることに、違和感はなかった。


ノイアが静かに囁く。


「あなたは……この世界で"ハル"です。」


(……そうか。お前がつけてくれたのか。)


なんだか不思議と納得してしまった。


アリシアは、少し目を細める。


「ハル……悪くない名前だ。」


そう呟くと、彼女はグラスを静かに置いた。


「お前に、興味が湧いた。」


「……は?」


「私の剣で、"運命"を見極めさせてもらう。」


黒いブーツの踵が、静かに床を鳴らす。

目の前にいたはずの彼女は消えていた。


その瞬間、背中に電流が走ったような痛みが襲う。

その勢いのまま、先ほどまで彼女がいた場所まで倒れこむ。



「ノイア!!」


「戦闘モード、起動します。」

何とか立ち上がり、背中を殴ったであろうアリシアをじっと見る。


彼女は剣を抜かず、鞘で殴りつけたようだ。


「ふむ・・・勘違いか。やはりただの異端者か?」


アリシアが、剣に手をかけ、鋭く光る刃を鞘から抜き出した。


彼女の剣は"運命持ち"の力を持つ、騎士としての剣。


対して俺は引きこもりから転生して、命からがら逃げてきたただの人間。


「ノイア・・・俺が勝てる可能性は?」

俺は、拳を固める。


「・・・・2%です。」


2%は流石にもう諦めるしかないんじゃないのか?

一瞬膝の力が抜けかける。


「けれど・・・ハルと私二人でなら・・・もう少し高めかも。」


ふっ・・・と鼻で笑いつつ、俺はノイアのこういうところが好きだと思った。

ノイアがそういってくれるなら少しくらいは頑張れるかもしれないな。


(・・・・来る!!)


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