捨て犬が異世界に行ったら擬人化してイケメンだった。
久しぶりです。
よろしくお願いします!
俺は捨て犬だった。
俺の兄妹は8匹。オスの俺は去勢費用がかかるという理由で捨てられた。うん、去勢されなくて良かった。
途中までは覚えている。段ボールに入れられて、公園のベンチの上に置いておかれた。
雨風に晒されて、「俺はこのまま死ぬんだなぁ」となんとなく思っていたら、視界が真っ白になった。
何かの病気かと思った(突然発症)。けど違った。俺は異世界というやつに来たようだ。
なぜだろう?二足歩行ができる。ショーウインドウの姿を見ると、自分で言うのも変だがそこにはイケメンが映っていた。耳は犬の耳だし、尾も生えている。服は支給されたのだろうか?
そこには「冒険者ギルド」というものがあったので、登録しようとした。
俺は名前がなかった。どうしよう?
捨て犬だし。俺の名前は‘ストレイ’でいい。その名前で登録した。嗅覚が発達しているので、採集の仕事はお手の物。
「あー!話題の獣人さんね?」
俺、話題になっていたのか?どんな話題だ?
「採集が得意って話題なのよ。もったいないわ。きっと身体能力も高いのよ!」
そうなのか?正直自分じゃわからない。
「ギルドで測定してみましょー?あ、私の名前はレイラ。よろしくね」
ギルドに着いた。どうやって測定するのだろう?
「私も身体能力低い方じゃないんだけどなー」
と、レイラは水晶に手をかざした。
瞬発力 C+
持久力 D-
跳躍力 B
腕力 E
筋力 E-
総合力 E
「うーん、前回計測時と変わんないかぁ。もっと強くならないかなぁ?」
結果はギルドカードなるものに記載(?)登録された。データで残っている。
続いて俺が水晶にてをかざした。
瞬発力 A+
持久力 B-
跳躍力 A+
腕力 B+
筋力 C-
総合力 B
「えー!!絶対すごい値が出るだろうと思ったけどさぁ?これはマジで?採集ばっかやってるのはもったいないよ!ねっ?私とパーティ組んで討伐依頼も受けましょうよ?私も強くなりたいし」
俺は何をしたいのだろう?とりあえず生きたいけれど、生きるためには先立つもの(お金)が必要になってくるのか…。
「わかった。レイラとパーティを組む」
俺はレイラとパーティを組むことにした。周りの目が何だかおかしいが?
「あの女、絶対体であの獣人にとりいってるんだぜ?そうでなきゃ、誰が総合力Eの女と組むんだよ?」
俺に丸聞こえだ。ワザとなのか?
俺はそんな話をしている男(総合力D)の所へ行った。
「何の話だ?俺とレイラの関係か?うーん、そうだなぁ?さっき出会ったかな?んで、俺の身体能力を計りにここに来たわけだけど。何か?」
何だったのだろう?連中蜘蛛の子を散らすようにいなくなったけど…。
俺、そんなに嫌な奴じゃないのに。こんなんじゃ友達出来ない。
「ストレイ?何をガッカリしているの?」
俺の気持ちが何故レイラにわかるのだ?まさかレイラは読心術ができるのか?
「うふふ。ストレイ、あなた自覚してないのねぇ。気持ちが尻尾に出てるわよ?」
そんな罠(?)があったとは…。不覚。
「なんとか尾を隠すことはできないのか?」
俺はかなりレイラの肩を掴んでガクガク振って聞いた。必死。
「無理よ~。ストレイの尻尾はすごいモフモフなんだもん!」
モフモフ…。ショックだ…。この気持ちも尾でわかるのだろう。
「うーん、通常討伐には武器が必要なんだけど…」
レイラが俺の手を見る。
「その出し入れ可能な爪がストレイの武器なの?」
戦ったことがないから、わからない。でも、武器を持った自分というのも想像できない。
「ストレイは拳闘士かしら?あー、私のバカ!ギルドで職業もチェックすればよかったのに!あ、私の職業は僧侶よ!このまま強くなると賢者になるのよ?」
レイラはフフンと胸を張るが、賢者。賢い者。ドジっ子って感じなのに賢者になれるんだろうか?
俺達は街並みを歩きながら話し続けた。
「俺も総合力がBだしなぁ。ギルドに戻るか?」
「まぁ、拳闘士で合ってると思うケド。とりあえず、行ってみる?」
俺らがギルドに戻るとなんだか騒がしかった。
「総合力がSのライドがこのギルドに今いるんだよ!俺…握手してもらおうかな?」
手の骨潰れるんじゃ?サインがいいと思う。
「ま、俺達は俺の職業を調べに来たんだ。どうやって調べるんだ?」
「私がやってみるわね」
なんだかいたみたいなものの上に乗ったら別の画面に表示された。
『あなたの職業は【僧侶】です』
「ねっ?簡単でしょ?」
俺もレイラと同じようにした。
『あなたの職業は【武闘家】です』
「レイラの予想とは違ったぞ?武闘家は武器を装備できるのか?」
「…まぁ、色々。武器屋にも行ってみましょうか?」
「レイラ、まず腹が空いてんだ。そしたら、金がなくなる。爪でしばらくは稼ぎたい」
先立つもの(金)を稼がねば!俺の最重要課題だ!
「今までかなり稼いだんじゃない?」
「俺は食べる量が普通じゃないから、稼いでもすぐ無くなる」
レイラが頭を抱えてしまった。レイラはきっと俺がかなり金持ちだと思っていたんだろうなぁ。残念ながら、俺はひたすら食べる。まだ成長期だし。そんな理由か?っていうくらい食べる!そしたら金がかかる。そんなだから採集ばっかりやってるって有名だったんだろう。
「レイラ~!!我が妹よ!何でこんな犬っころと一緒にいるんだ?お兄ちゃんと一緒ならお兄ちゃんが守ってやるぞ?」
なんと?総合力Sのライドなる人物はレイラのお兄さんのようだ。
「犬っころじゃないわよ!獣人のストレイ!総合力はB。伸び盛りよ」
成長期です。
「だいたい、お兄ちゃんと一緒になんかいたら、全部お兄ちゃんがやっちゃって、私が何もしないから、私はちっとも成長しないじゃない!お兄ちゃんは傷一つつかないから僧侶としても全く成長しないし、最低!」
最低!という最愛の妹の言葉に総合力がSの冒険者が深いダメージを受けているのを見てとれる。
「そんなにこの犬っころがいいのか?お兄ちゃんは悲しい!」
「犬っころじゃないわ。ストレイよ!」
まぁ、俺も妹がいたと言えばいたけど、ここまでの愛情はなかったなぁ。兄妹多かったし。
「とにかく!私はストレイとパーティ組んだのよ。邪魔しないでよ?ストーカーみたいなことしたら大っ嫌い!」
すごいなレイラ。総合力Sの冒険者にダメージ与えまくり。精神的ダメージだけど。
俺は睨むライドさんを尻目にレイラと共にギルドを去った。
「あー、最悪。まさか、お兄ちゃんに会うなんて!」
そこまで、お兄さんが嫌いなのかと俺は話を聞いた。
なんでも、食べるものも着るものも全てお兄さんが決定権を持っているような状態だったそうだ。それで、レイラは冒険者として家を出た。らしい。
いろいろ干渉されて嫌だったんだろう。
それはそうと、俺の採集。結構レアなものを採集してたから有名だったんじゃないのか?そこらの雑草を採集とかじゃない。
ダンジョンの奥の方にしか生えてない貴重な植物を採集したりした。
採集といっても、難しい依頼の方が沢山お金を稼げる=沢山食べれる。
よって俺は結構難しい依頼をこなすようになった。それでギルドで話題だったんじゃないのか?
ダンジョンには結構肉っぽいモンスターも多いから肉が食べれたし。あ、俺は生肉でOK。獣人してると、どこからがモンスターなのかわからないけど、向かってきたらとりあえず敵認定。
話が通じるやつもいる。たまにそういうのは進んで採集場所に連れて行ってくれる。助かる。そういうのは友達というのかな?
次にそこに行ったときに向かってきたんだよなぁ。前は優しく採集場所教えてくれたのに…。残念だけど、敵認定。俺は自分が生き残るために他を犠牲にしている。
きっとそんな生活してたからギルドで身体能力を計測した時にかなりいい成績だったんだろう。元が犬だしね。
パーティで討伐生活か…。何を討伐するんだろう?
「ダンジョンに行くわよ。ストレイは初ダンジョン?緊張しないで!私がいるから」
うーむ。今までいろいろダンジョンに一人で行っては採集してたんだけど、あんまりレイラは知らないのかな?ま、いいや。
「ダンジョンは端的に言うと、まぁ洞窟みたいなところかしら?最奥のボスを倒せばダンジョンクリア!今日行くダンジョンはすでに誰かがクリアしてるわね。ギルドに登録してない人みたい」
多分、俺が昔入ったとこだな。採集に。
「なんかいい植物とかあったら採集していいか?」
俺は一応レイラの許可が必要だと思った。
「あははっ、いいわよー。たくさんとりすぎても持てないわよ?」
なんかいいものないもんか?
そんなで俺とレイラは最初のダンジョンに入った。
さすがにまだ育ってないか…。前回喜びのあまり、採りすぎたな。
「なんかモンスターが現れないんだけど?」
はい、ごめんなさい。俺のせいです。俺がコテンパンにしすぎたせいでここのモンスターは俺に近寄りません。
「これじゃ、修行にならないからもっと強いモンスターがいるダンジョンに行かない?」
「とりあえず、今日採集した分はギルドに売りたい」
…俺の食費。
俺に向かってくるモンスターがいるダンジョンかぁ。俺はだいたいコテンパンにしてるんだよなぁ。おかげで採集し放題♡俺の食費をありがとう。だったんだけど…。
俺がまだ行った事ないダンジョンかなぁ?ギルドの管理下にあるダンジョンはあらかた俺がクリアしたと思うんだけど?
「うーん…お兄ちゃんが行くようなダンジョンの入り口の辺りちょろちょろする?お兄ちゃんに会うと面倒だけど、そう簡単には会わないでしょ?」
俺の野生の勘で、“エイプリルダンジョン”が選ばれた。ライドさんが現れないだろう場所を選択。
何故いる?ライドさん…。
「ストレイの“野生の勘”って当てにならないのねぇ?」
嫌味だろうか?八つ当たりの。向こうの“野生の勘”でレイラを見つけたのでは?総合力Sだし。
「おい、犬っころ!なんでこんな危険なところに可愛い我が妹を連れてきたんだ?」
「私が修行するために、お兄ちゃんがいなさそうな強力なダンジョンの入り口をチョロチョロする予定でいるのよ!でもあ~お兄ちゃんがいて、台無し!私が行きそうなところのモンスターは全滅してそうだから」
そうだな…。俺の“野生の勘”は大したことなかった。
「これからどうする?このままじゃライドさんもパーティの一員だぜ?」
「コラそこ!何をコソコソと我が可愛い妹と話しているんだ?」
別のダンジョンにするにしてもついてきそう…。
「やむを得ないわ。ここで討伐する…」
うわー。見るからにレイラ元気ねー。ライドさん、嫌われてるなぁ。
エイプリルダンジョンで討伐を進めた。ただし、最初の予定とは異なり入り口でチョロチョロするわけではなく、ガンガン中に入っていく。
ライドさんが出てくるモンスターを倒してくれるから、俺達は楽ちん♪
俺はいいけど、レイラは不服のよう。なんせ自分は何にもしてないから。
俺はライドさんが倒してくれたモンスターから採れるものとか結構高値だったりするので、採集に勤しんでいる。無限にたくさん入るカバンあったらいいのにな。重さは一定で。
あそこに高値で売れるモンスターの牙とかあるのに、持って歩くにはちょっと無理があるから持っていけない。悲しい…。
遂に最奥までたどり着いた。
何故だろう?ライドさんが褒めて褒めて~という視線をレイラに送っている。
レイラは無視してるみたいだけど。
最奥のボス…。フェンリルかぁ。デカい俺って感じだもんなぁ。俺なら話が通じそうだけど、ライドさんはレイラにいいとこ見せたいだろうしなぁ。
「なんだ、デカい犬っころか…。以前も討伐したことがある」
ボスの耳がぴくっと動いたのを俺は見逃さない。
「そんじゃ、軽くひねるとするか。見ててね、マイエンジェル・レイラ♡」
なんだそりゃ?
それより、このボスだなぁ。番をライドさんに討伐されたのか?多分そうなんだろうな。
理性吹っ飛ぶんじゃないか?
えーっと、フェンリルと念話できないか、試してみた。
『テステス、えー、こちら目の前の獣人ストレイと申しますが、あたた様のお名前は何でしょう』
応えてくれた。念話できるじゃん。まだ理性残ってるな。
『我の名はペール。お主もこのまま強くなればフェンリルになるだろう』
『ということは、あなたも元は異世界にいたのですか?』
『あぁ、番共々な』
ライドさんはなんてことをしたのだろう?長い付き合いの番の片割れを討伐してしまうなんて!放っておいても弱っていくのに、このペールさんは。
『このまま討伐されるおつもりで?』
『討伐されようとも、放っておけば我が肉体は滅びるならば…』
そうだよなぁ?番を失っちゃったら、そうだよなぁ。
「ライドさん、このフェンリルは以前のライドさんの討伐で番を失っているようです。放っておいてもいいのではないでしょうか?特に害はないし」
「なんだ、犬っころが。俺が可愛いレイラにいいところを見せようとしてるのを邪魔するのか?」
むやみやたらとモンスターを討伐するのは野蛮だと思うんだよなぁ。
「私も害がないなら、ストレイの意見に賛成よ」
レイラが賛成してくれれば心強い。野蛮な兄貴は嫌だろう。
「レイラに免じて、討伐をやめてやるか…。次に会った時には必ず仕留めてやる!」
多分次はない。亡くなってるんじゃないかなぁ?
レイラには俺がフェンリルのペール様と念話で話していた事を告げた。
「そっかぁ。お兄ちゃんがあのペール様の番を討伐しちゃってたんだ」
「ああ。止めないと、理性が無くなって、ペール様が大暴れしていたはずだ。俺はこれで良かったと思ってる」
「そうだよね。ペール様、もう会えないだろうけど、亡くなった後、番さんとまた会えるといいね」
なんかしんみりしてしまった。
実は俺はこっそりあのダンジョンに行ってはアイテムを採集してギルドで換金してます。でないと食費がもたない―――!!切実なんだよ!
「あ、あと俺はこのまま強くなったらフェンリルになるらしい。真っ先にライドさんに討伐されそうだなぁ?」
俺、強いからそう簡単に討伐されないけどね。
最初にギルドで計測した値は採集を主にする冒険者としての値。討伐を主にする冒険者じゃないもん。
瞬発力 S
持久力 S
跳躍力 S
腕力 A+
筋力 A-
総合力 S
が俺の討伐をする冒険者としての身体能力。レイラには内緒にしておこう。なんかレイラに内緒事多い気がするなぁ。
なんと!レイラによると、なんだかよくわかんないけど王宮でパーティーがあるらしい。それに俺とレイラのパーティーが招待されている。という話だ。
パーティー…。着ていく服がない!俺の支出の9割以上が食費だ!どうしたもんか?はぁ?ダンスが必須?知らないってそんなの。俺が出来るわけないじゃん。
と、レイラに相談するとレイラがライドさんのお古を貸してくれるということになったので、服の問題はクリアした。
ダンスは…。レイラがスパルタで俺に教え込んだ。俺の身体能力によって、ダンスはみるみるうちに上達。レイラから太鼓判をいただきました。
パーティーなら、絶対食事が美味いはずだ!食い溜めをしたいところだ。
パーティー当日、ライドさんのお古は…。胃が圧迫される…。食い溜めしたいのに。女性はコルセットで体幹全体を締めるらしいので、それよりはマシということか?食い溜め…。
えーっと、レイラをエスコートするんだよな。んで、王様の前に行って跪く。
「わが国の太陽であらせられます国王におかれましては、本日も健勝で」
よくそんな言葉つらつらと出てくるなぁ。
「うむ。レイラ=ホークアイ。久しいな。ますます美しくなったのではないか?レイラ嬢をエスコートしておる獣人は?」
「はい、ストレイと申します」
「ホークアイ侯爵令嬢と平民は釣り合わないなぁ」
そんなこと言っても、俺はレイラに誘われただけだし?
「爵位とかは考えていません。私は単に彼の人柄とかを見ただけです。御前失礼します」
そう言って、陛下の前を去った。
良かったのかなぁ?というか、侯爵令嬢?聞いてねー!!侯爵令嬢が冒険者やってんのかよ?そりゃあライドさん過保護にもなる。
っていうか、ライドさんだって次期侯爵じゃないのか?
俺はパーティー会場で不思議な視線を数多く感じた。
そのことをレイラに行った。
「無自覚かぁ。ストレイねぇ。いわゆるイケメンなのよ。平民だから婚姻は無理でしょうが、一夜の火遊び?の相手。又はどこかに囲おうって視線じゃないかしら?」
なんだそれ?
ちっとも腹がふくれない。
俺はパーティー会場の食事を楽しみたいのに、どうでもいい令嬢に囲まれた。
「お名前は何ておっしゃるの?」
「冒険者をしてらっしゃるとか…。総合力はどのくらいかしら?」
「レイラ嬢とはどのような関係なの?」
どうでもいいが、
避けてくれ。その先にある食事を食べたいんだ!俺は切実なんだ!
「俺は食費のために冒険者をしているストレイだ。食事がしたいんだ、どいてくれないか?」
と、無理矢理食事にありついた。立食形式らしい。バイキング?ビュッフェというのか?全部俺が食べてもいいんだろうか?
「レイラ。ここにある食べ物は全部俺が食べてもいいのか?」
「一応、他の人の分も残した方が無難だけど、どんだけ食べる気なの?」
俺が本気を出せばここの食事など全部俺の腹に納まる。
俺は食べる気満々だったのに…悲しいかな、ダンスタイムのようだ。
レイラと1曲踊ればいいのか?
「レイラ、1曲踊ればいいのか?」
「うーん、私の虫よけがわりに何曲か踊ってくれると助かる。食事なら、うちの実家でも作らせるからー」
レイラの実家…。侯爵家の食事、美味そうだ。俺は了承した。胃を圧迫しない服を着て行こう。
俺とレイラは2・3曲踊った。俺の練習の成果が存分に発揮されたと思う。羨望のまなざしでこっち見てる人もいたし。
レイラから目を逸らすと、「パートナーを見て踊るのよ!」と怒られた。
はぁ、疲れた。なんと今日はホークアイ侯爵家に泊まる事が決定している。食事…。いつもの服なら圧迫されないから、存分にいただこう。
「あのレイラが男を連れてきたって?」
侯爵家を継ぐのはこちらのルードさんのようです。
「初めまして、獣人のストレイです」
「平民じゃないか」
反応が国王と同じだなぁ。
「そんな時代遅れな頭固いと出世できないわよ?」
スゴイ言い方だ。長男さんに向かって。
「あぁ、彼、私のせいでパーティーで思う存分食事ができなかったから、彼に食事を振舞ってあげて。冗談じゃなく、うちの食堂から食材がなくなるかもしれないから、明日には新しく買い足すのが賢明よ」
まぁ、あってる。俺が本気で食事をすれば、侯爵家の食堂から食材消えるだろうな。と自分でも思う。だからこそ、パーティーで食い溜めしようと思ったのに、ダンスタイムが…。
「レイラ…お前…メンクイだったのか?」
「そういうわけじゃないんだけど?」
レイラは俺との出会いを逐一ルードさんに教えているようだ。
「ふーん。採集で生計を立てていたのか?」
「そうです。高額でギルドが引き取ってくれるものもあるので」
まずい。このひとは切れ者だ。俺がそこらのダンジョン荒らしてたのをお見通しだ。
「まぁいい。俺らが食事をする分の食材は残しておいてほしい」
この家には兄妹しかおらず(使用人さん達は除く)、彼らの両親は既にお亡くなりになっているそうだ。
俺はこの先どうしよう?これ以上強くなると、フェンリルになるって言ってたし。
フェンリルになってしまったら、どっかの洞窟に籠るんだろうか?
捨てられて、異世界に来て、擬人化してて、フェンリルになって、討伐対象だからどっかに籠るのか?
異世界に来るのも、擬人化するのも、フェンリルになる(予定)のも、俺の想定外なんだよなぁ。
どっかに俺の番っているんだろうか?フェンリルになったら、まず番探しだなぁ。
現在の状態でも番って探せるんだろうか?
エイプリルダンジョンに一人で行って、フェンリルのペール様に聞いてみよう。
ペール様はもう口も動かせない様子だったので、念話で会話。
『擬人化した状態でも番というのは探せるものですか?』
『ん?あの一緒にいた娘は番ではないのか?』
レイラの事か。レイラなぁ。道端でナンパされただけと言えばそうだし。
『違うと思います。レイラとの出会いで特になんとも思わなかったので、まぁ驚いたくらいでしょうか?』
まさか、話しかけてくる人間がいると思わなかったからな。
『番というのは本能でわかるのでしょうか?』
『そうだなぁ。出会ったら「こいつとは離れたくない」と思うなぁ』
ますますもって、レイラは違うな。レイラと離れて単独で採集に行ったりするし。
『参考になりました。ありがとうございます。多分もうここには来ません。ですので、どうか安らかに…』
そう言って俺は戻った。帰る途中、アイテムを採集しながら帰った。
たくさん食事がしたかったから。侯爵家で食い溜めはしたものの、また腹は空くから。ついでに装備も整えたい。
侯爵家に戻った。
レイラに武闘家の装備を整えたいからと街の中を案内してもらった。
そして、レイラに「番を探す旅に出たい」と言って、パーティは解散した。
俺は一人旅に出た。とりあえず獣人国を目指した。番がいる確率が最も高いと思う。
獣人国はここコロン国より北。北に進んだ。地図がないけど、俺の“野生の勘”を信じて進んだ。
獣人国は国王も王子もフェンリル。どこかに籠る必要などない。むしろ、物凄い歓迎を受けた。
国王にどのように異世界に来たのかを事細かく聞かれた。
俺はペール様の最期を国王に告げた。
「あいつがなぁ…。番を失ったのか。辛かろう」
と、自分の体験のように話していた。
「私もこれ以上強くなるとフェンリルになるというようにうかがっています。この国だとフェンリルが討伐対象にはならないようで居心地がいいですね」
ざわっと謁見の間がざわついた。
「フェンリルが討伐対象?そんなことは聞いていない。どこの国でそのような事が?」
「コロン国です。だからペール様は番を失うことになったのです」
「ただちにコロン国に書簡を送る。フェンリルを討伐対象から外すように」
そうなんだよなぁ。理性的で害はない。むやみやたらとモンスターだからと討伐する方が野蛮に見える。
「私はこの国で私の番を見つけられたら…と思っています。しばらくは滞在したいと思います」
俺は俺の番に引き寄せられてこの国に来たのだと信じたい。
「うむ、了解した。狼の獣人は崇められるだろうなぁ。なにしろ、王家と同じだから」
なんと、そんなオプションがついていたのか?面倒だな。それを抜きにして俺という個々を見てくれる者を探そう。
うーん、俺はイケメンのようだなぁ。やたらとメス獣人の秋波を感じる発情期なんだろうか?他をあたってくれ。俺は一途なんだ。
顔もそうだけど、狼の獣人っていうのも一因だろうな。ともすれば自分も王家の一員!みたいな邪な気配を感じる。
とりあえずの宿屋に行こう。
良心的な値段設定。そして、狼獣人の胃袋を熟知しているようなボリューミーな食事!最高!!
「幸せそうに食事をしますね!」
いた!彼女が俺の番だ!俺の眼がギラついたのだろうか?取って食わないのに…。彼女は逃げるように厨房の奥に行ってしまった。
まさかの兎獣人。
狼獣人の番が兎獣人になるとは思わなかった。でも事実。
「番だ!」と細胞レベルで言っている。
彼女に俺の番だ。と告げたらどんな反応するだろう?怖がるだろうか?怖いよなぁ?
国王に相談しようか?
「私事の相談をしたく存じます。私の番ですが、見つけました。今、私が泊まっている宿屋の食堂でウエイトレスをしている兎獣人の“ラサ”という女性です!見た瞬間にこの子が番だと思いました。しかしながら、なにぶん兎獣人なので怖がらせてしまったのか、心配です。どのようにアプローチするのがいいでしょうか?」
「うん、長いこと王をしているが、恋の悩み相談をされたのは初めてだぞ?狼獣人の番が兎獣人か…。難しいな。彼女とマンツーマンで話しては?とりあえず、デートから始めるのがいいと思うぞ。まずはお前の事を理解してもらわないとな」
「はい、そのようにアプローチしたいと思います」
王の側近が王に耳打ちしている。
「ストレイよ。困難になった。ラサなる娘、宿屋を辞めたそうだ」
やっぱり昨日の俺の眼がギラついて見えたんだろう…。
「そんなに気落ちするでない。王家で応援しておる。ラサの行方もすぐにつかもうぞ」
二日後、王家の使者がラサの居場所を突き止めて、教えてくれた。
俺は早速会いに行く準備をし、全力で会いに行った。
「きゃー!!ごめんなさーい!!」
何を謝ってるんだ?何もしてないのに?はっ、まさかこの後デートに誘うつもりだが、フライング?
俺の心は凹んだ…。
「俺なんか嫌だよな…。狼獣人なんか嫌だよな…」
「そんなことありません!王家の方は皆さま狼獣人でいらっしゃいます。えーと、今日はどんな用件ですか?突然でしたので取り乱してスイマセン」
「あなたをデートに誘いに来たのだが。改めて俺とデートに行ってくれないだろうか?」
俺は凹んだ心のまま頑張った。
「私でいいんでしょうか?」
自己肯定感が弱い。他の自信過剰の獣人の過剰な自信をわけてもらってもいいくらいだ。
「あなたがいい。あなたでないとダメなんだ!」
多分振られたら、俺は死ぬ。
「では、私にできることは街の案内くらいですけど、それでよろしければ」
ビクトリー!アミーゴ!ファンタスティック!
俺の気持ちは浮上した。浮足たって歩きそうだ。
「俺はこの国に来たばかりで、この街の事は全然わからないから大歓迎だ!ありがとう!俺はいつでもいい。あなたに合わせる。あなたの空いている時間を教えてほしい。俺はあの宿屋にしばらくいるから、連絡はあの宿屋に頼む」
そういって約束をとりつけた。
まさかそんなことになるとは思わなかった。
俺はずっとラサからの予定を待っていた。いっこうにラサからの連絡はなかった。
ラサはそんなに忙しいんだろうか?体は壊さないだろうか?心配になってきた。
俺は居ても立っても居られず、直接ラサの所へ行った。
ラサは連絡は確かにして、約束の場所でずっと待っていた。来なかったから自分は俺に遊ばれたんだ。と思っていた。
だ~れ~だ~!ラサからの連絡を握りつぶした奴は!許さん!それはいつでも処罰できる。
俺はラサの誤解を解いて、俺の手元に連絡の紙(?)が来なかったと伝え、改めて予定を直接聞き、約束の日時を決めた。俺は脳筋だが、もうその脳みそに約束の日時・場所をしっかりと刻み込んだ。
さて、宿屋では誰が俺への連絡を握りつぶしたのか?ラサは受付嬢に連絡のメモを渡したと言った。
受付嬢か?
狐獣人の受付嬢を尋問した。
「兎獣人のくせに狼獣人のストレイ様とデートしようなんて10年早いのよ!」
と、言う。
「それは貴様ごときが決める事ではない。俺がデートに誘ったんだ!貴様が連絡の紙(?)を握りつぶしたせいで、彼女は待ち合わせの場所で待ちぼうけをするはめになったんだ」
「いい気味よ」
殺そうか?いや、この程度のことで殺しとかダメだろう。国王に引き渡そうか?
「しかも、なおかつ俺が振られそうになった」
なんか喜んでないか?間違ってもお前を好きになる事はない!
「この罪は重い。国王の下に行こうか?きっと国王は厳正な処罰を下してくれるだろう」
「この程度で処罰?」
番を失う所だったんだ。俺にとっては命懸け。
「狐獣人の元・受付嬢。そなた、鉱山夫に賄いを作る役目のところに行くがいい」
流石は、国王。事の重大さをわかってらっしゃる。
「ところで、ラサの誤解は解けたのか?」
「はい。このようなことがないように、その場で予定を組みました。この脳みそに日時・場所が刻み込まれています!」
「よいよい、初のう」
だって、初異性とお付き合いだもん。
約束の日、俺は予定よりもずっと早く待ち合わせの場所にいた。
ラサは待ちぼうけしていたのだから、少し待つくらいどうってことない!
「あの、ストレイ様?」
ラサが早くに来てくれた。嬉しい。長い時間一緒に居られる!
「ラサは前回俺をずっと待ってくれていたんだろう?だから今回は俺が早く来て待ってようと思ったんだ。でも結局ラサも早く来たんだなぁ?」
「街の中を案内したいのですが、まだ開店時間には早いですね。公園のベンチに行きましょうか?」
俺とラサは公園の方へ歩いて行った。
公園のベンチ。誰だよ?公園のベンチに向かってリバースしたやつ!狼の嗅覚舐めるなよ?
「あー、このベンチはすごく汚いから、向こうのベンチ…」
コッチはここでオムツ交換したな?臭いが残ってますよ。
「も汚い。どうしよう?」
「汚いって具体的に分かります?」
具体的かぁ。
「最初のベンチはベンチにリバースしたやつがいる。2つ目はそのベンチでオムツ交換をしたようだ」
「なんか大変なんですね。嗅覚が発達しすぎて。うーん、開店時間までうちにいます?」
ラサのうち。大好きです!
「俺がお邪魔していいんですか?」
「ふふふっ、私が質問してるんですよ。うちにいましょうか」
俺とラサは、ラサのうちで開店時間まで過ごすことになった。
ラサのうちの中からは他の男の匂いはしなかった。よかった~。
「ラサ、大事な話なんだけど…」
俺はラサに番の話をすることにした。
「ラサは俺の唯一の番なんだ。信じられないか?でも本当なんだ。ラサに一目会ってすぐ思ったんだ」
「ああ、ストレイ様は私の番で間違いじゃなかったのね。初めてお会いした時、驚いて逃げちゃったけど、やっぱり合ってたんだ」
よかった。ラサもラサで俺の事を番認定してくれていてようだ。お互い信じられなかったけど、事実だから。
「ああ、この事は国王も知っている。ラサにどうやってアプローチすればいいのか相談したから」
ラサはちょっと驚いていた。
「国王に恋愛相談?国王もさぞ驚いたでしょうね」
「国王をしていて初だそうだ」
部屋の中だし、キスくらいしていいだろうか?しかしだ!国王が放った影がそこらで見てるんだよな。ここは我慢かなぁ?
「あ、開店時間!さぁデートしましょうよ」
そして、俺とラサはデートをした。
途中、「道の往来でイチャイチャ鬱陶しいんだよ」と因縁をつけてくるやつがいたけれど、俺がのした。最後は「すいませんでした」と、謝りながら去っていった。
「ストレイは強いのね」
「うんまぁ、コロン国で冒険者してたし」
総合力Sです。
「ラサを直接国王に紹介したいんだけど?」
「えー!心の準備が…」
そこは兎獣人特有の肝の小ささだなぁ。
「うん、無理強いしないよ。そのうちね。心の準備ができたら言ってね」
俺とラサは食べ歩いたり、ラサに花屋で買った花を贈ったり…。
「そうだ!番でーすって感じでお揃いの指輪とかしない?」
ラサに変な虫が寄ってこないように牽制しないとな。
「いいわね。ストレイ様に変な虫が寄ってこないように牽制しなきゃ。モテるでしょう?」
多分モテてるんだろうなぁ。秋波とか感じるし。
「じゃ、ジュエリーショップに行きましょう?」
ラサも全く同じこと考えてた。かなり嬉しい。
「シンプルな方がいいなぁ」
「あと軽い方がいいよね」
「手入れが楽な方がいいな」
と、いい加減な事を言ってたのに出てきた。すごいなジュエリーショップ。
「こちら全て、シンプルで軽くて手入れが楽な素材で出来ております。エンゲージリングですか?マリッジリングですか?」
「いいえ、番でーすってアピールできる感じで指輪したいねって二人で話したんです」
「まぁ、素敵な考えですね」
「出していただいた中では、これが一番かな?俺は」
「私もー」
「そういうわけで、こちらをください」
…お金、頑張って稼ごう。
国王にラサを紹介する日がやってきた。
そんなに緊張しなくても国王はいい方なのに。
「ほう、おぬしがラサ嬢か。ストレイの唯一の番。そんなに震えられると儂、ショック」
やっぱりなぁ、国王だってショック受けちゃうよなぁ。俺で狼獣人の免疫ついてると思ったんだけど。
「うふふ。王様。私にお任せください」
「おぉ、リコ嬢!リコ嬢は純ニンゲンでな?皇太子の婚約者なんじゃ」
珍しいな。純ニンゲン。
「あのね、あんまり知られていないんだけど、新月の夜は狼獣人が弱るのよ?あんなに強くていつでも私達を噛み殺せそうなのに新月になったら、グッタリ。かわりに満月の夜は超元気だけど」
ラサと二人でコソコソと何を話しているのか?
「皇太子ももちろん狼獣人よ。でも、尻尾とか耳とかモフモフ気持ちいい。あなたは自分の耳があるのかぁ。でも、狼獣人の尻尾は最高よ!」
ラサは大丈夫な気がしてきた。今度ストレイの尻尾を触らせてもらおう。と思った。
「申し訳ありませんでした。国王。もう大丈夫です(多分)。私がストレイの番のラサです。兎獣人です。以後お見知りおきを」
「ストレイと揃いで指輪をしているのだな。番の証という感じで羨ましいぞ!」
「あ、国王。後で相談が…」
ラサはリコ嬢と話が盛り上がっているようでよかった。
「それで、話なんですが…。単刀直入に言います。何か職業を斡旋してください!さっきの指輪の代金といい、私自身の食費といい、出費が多くて。コロン国にいた時は冒険者として収入がありましたが、こちらに来てからは、さっぱり」
「そうだなぁ?狼獣人であるし、王宮で騎士の仕事でもするか?身体能力高いんだろ?」
「是非やらせていただきます!よろしくお願いします!!」
俺は職業を手に入れた。それも安定して収入がありそうだ。しかも狼獣人の食費を考えて収入がありそうなので助かる。
「ラサー、帰るぞ」
俺とラサは帰ることにした。
ラサは国王と謁見する心の準備がなかなかできなくて、遅くなってしまった。その間に俺とラサは同棲することとなりました。ラサは随分狼獣人に慣れたと思う。
ラサはリコ嬢から聞いたのだ。今夜満月の夜、狼獣人が超元気になると。
俺の顔をジーっと見るから何事かと思った。
これでもわきまえてる方だと自負している。
実際に結婚するまでは手を出さないぞ!頑張れ俺の理性!!
すごく頑張った結果、ほぼ一睡もできなかった…。いやこの寝所が悪い!
なんでこのベッドはちょっと狭い?
寝息が聞こえるんですけど?寝返りうてば体がぶつかるし。
もっとデカいベッドがよかった…金ないけど。
今後はちょっとずつお金貯めて広いベッドを買おう。
逆に新月の時は狭くて助かる。看病しやすい。
王宮の騎士団も新月の日とか考慮してくれて有難い。でも、実践で新月だったら困るから訓練ぐらいしといた方がいいのでは?と思う。ので自主トレ。
いや、満月の日はすごく動かすよ?今の騎士団長めっちゃスパルタだなぁ。他の団員の3倍くらいのノルマを俺にはやらせる。できるけど。
これだけやるのだからかなりの収入があるのだが、うちは食費が物凄くかかるのでなかなか貯金ができない。アコガレの広いベッドだ。
食費がかかるからラサも働いている。共働きというやつだろうか?あ、まだ結婚してないから違う?
うーん、いつ結婚したらいいんだろう?タイミングが…。アコガレの広いベッドを手に入れたらにしようかな?頑張って働こう!
と、思ってたのに…。
「おーい、同棲してるって聞いたから、儂からプレゼントじゃ~」
と、国王がアコガレの広いベッドを下賜してくれた。
頑張って働いて稼いで買って、言おうと思ってたのにな。
「ラサ、結婚してください!」
「え?もう結婚してる気でいた。ふふふ、返事はハイです!」
このように俺は番と結婚することができた。
この大事な番を失わないようにしよう。